彼は俺を好きにならない (旧題 彼の左手薬指には)

いちみやりょう

文字の大きさ
上 下
2 / 17

墓場までは持っていけない

しおりを挟む
「西ィ、聞き込み行くぞー」
「はい!」

聞き込みの時、仙石さんは普段の粗暴さが嘘のように爽やか好青年みたいになる。
にこやかに笑って世の奥様方やサラリーマン、スーパーの定員、浮浪者のみなさん、あらゆる人、全てから情報を引き出すんだ。
仙石さんのあれは、技術云々というよりも持って生まれた人たらしなところが、聞き込みにおいて遺憾無く才能を発揮していると思う。
普段の仙石さんを知っていてもやっぱかっこいいって思っちゃうもんなぁ。

その日の夜、俺はまた仙石さんに誘われてあの居酒屋に行った。
そして俺は人生最大と思われる大失態を犯すことになった。

仙石さんが呆れ顔で止めてくるのを気にせずに調子に乗って飲みまくった俺は、最高に酔っ払ってしまって、墓場まで持っていくと誓った俺の恋心を、あっさりとあろうことか本人である仙石さんに告げてしまったのだ。

「仙石さーん」
「はいはい。なんだ?」

優しい話し方で、そう問いかける仙石さん。

「好きです」
「俺も好きだぞー」
「違いますよーだ。仙石さんの好きと俺の好きじゃ全然違う」
「お前、飲み過ぎだぞ。ほらもう立て、帰るぞ」
「……仙石さん、俺」
「西、帰るぞ」

俺がその先を言うのを咎めるように仙石さんが真っ直ぐに俺を見た。
言っちゃダメだって分かっていたのに、俺はその時、我慢できなかった。

「仙石さんのこと、恋愛的な意味で好きなんです」

そう呟いた時の仙石さんの顔が忘れられない。
どうしようもなく面倒くさいことを言われたような、そしてあまり関心も無いような。

「ごめんな、西。お前の気持ちには答えられない」
「ですよね。分かってました、すみません。俺、本当は墓場まで持っていくつもりだったのに」

それから仙石さんは無言だった。
俺も無言だった。

仙石さんは、家に帰ったらあの綺麗な奥さんが待っている。
俺は忘れられるだろうか。仙石さんへの思いを。
仙石さんは忘れてくれるだろうか、俺の今夜の戯言を。

「仙石ーーーーー!!!! お前のせいで俺は!! 俺はーーー!!!」

突然後ろから怒鳴り声が上がった。
パーカーのフードを深くかぶった男がナイフを持って仙石さんに迫っていた。
警察官は恨まれる。はっきり言って逆恨みだ。

俺はとっさに仙石さんの前に飛び出た。

ーーザクっ

腹部に熱い感覚が走った。
痛いよりも熱い。
そして、じわじわと血が流れていく。

「西!!!! お前っ、何で!!」

俺を刺した犯人は俺を指したことで動揺して逃げていった。
ああ、俺、死ぬのか……?

よかった。死ぬのが仙石さんじゃなくて、俺で。

よかった。
意識が朦朧とする中、俺は思い残すことのないようにもう一度伝えておくことにした。
最後にもう一度。だってもう二度と言えない。


「せん、ごく……さ」
「おい! 話すな!」
「せ、ん、さん……おれ、うらやま、し、いとおも、ったんだ……。せん、ご、さんのおくさん。へへ。だけ、ど。おれむりだ、ったから、うまれ、かわ、たら、せんご、さんの、むす、こに、うまれ、たいなぁ…・」

お腹の痛みはもう引いた。
何も痛く無い。
意識が遠のいていく。
仙石さん、好きになってすみません。
こんなタイミングで好きだなんて、性格悪くてすみません。
俺のこと、忘れないで。

「西! 生きろ!! お前が生きてたら、付き合ってやるから!! 死なないでくれ!!」

仙石さんは優しいなぁ。
そんなことを言ってまで俺に生きることを望んでくれるんですか。

「ずるい……なぁ」

だって、そんなこと言われたら、死ぬに死ねないでしょう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする

葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』 騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。 平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。 しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。 ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

処理中です...