偽物にすらなりきれない出来損ないの僕

いちみやりょう

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ユリウス視点:エリーゼ

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翌日、中庭に向かう途中、撒いておいたはずのエリーゼに絡まれうんざりした。
あと少しでハルミに会えるというのに、邪魔だてをされて、ユリウスは苛立ちを抑えられないままにエリーゼに仕事を言いつけた。
エリーゼが居なくなったのを見届けてから、中庭に向かおうとすると、物陰からぴょこっと金髪がはみ出ていた。近づき確認すると、やはりそれはハルミで、気まずそうな顔でユリウスを見上げていた。

「……いたのか」
「あの、はい。その、立ち聞きみたいなことしてすみません」
「行こう」

ユリウスは、ハルミを見ただけてその可愛らしさといじらしさに癒されて、矢も縦もたまらず、徐にハルミの脇に手を差し込んで、立たせ、右手をとって引いた。

そして中庭につき、ハルミを抱えて切り株に腰掛けた。

「あ、あの?」

膝の上に向き合って座る形を取ると、ハルミはおずおずとユリウスを見上げ恥ずかしそうにしていて、ユリウスはハルミの可愛らさが、度をこし過ぎて腹が立つほどだった。
けれど、やはり、それとこれとは別で、ハルミが近くに居るだけで癒される。

「……ハルミと居ると癒される。もう少しこのままで居させてくれ」
「……はい」

素直に応じてくれたハルミは、何を思ったかユリウスの胸にピトッと頬をくっつけてきた。
家族愛を与えようと思っても、心臓の動きまでは制御できない。
ユリウスの胸の騒がしさに、ハルミが気がつくことがないようにと願いながらじっとしていた。

「……おにいさま」
「っ」

ふと、呼び掛けられた言葉に、息を飲んだ。
当然、ハルミを愛してはいても、弟として愛しているわけではないユリウスだが、そんな風に可愛らしく呼ばれれば嬉しくないはずがない。
さらに煩くなる心臓の音をなんとか抑えようとしていると、ユリウスの反応を誤解したのか、ハルミの表情が曇った。

「あ、の。すみません。弟みたいだとおっしゃっていただけたので、つい。すみません……それに、お呼びするにしても兄上でした」

謝る必要のないことで、ハルミを謝らせてしまい、自分の不甲斐なさを呪った。

「いや……、すまない。お兄様でも兄上でも嬉しいが、ハルミから呼ばれるユリウスという名も、気に入っていたんだ」
「ユリウス様……ありがとうございます」
「ああ」

紛れもないユリウスの本心だけれど、言い訳だと感じなかっただろうか、取り繕ったように聞こえただろうかと、不安だった。けれどふんわりと笑ったハルミをみて、ユリウスはホッと胸を撫で下ろした。それなのに、またすぐに表情を曇らせたハルミを見て、ユリウスは焦った。

「浮かない顔だな。先ほどは、見苦しいところを見せてしまった。すまない」

表情が曇るわけを必死に考えて、その可能性を見つけた。
きっと、エリーゼとの会話が怖かったのかもしれない。ハルミには見られたくないところを見られてしまった。
だが使用人に対して、常にあの態度なのだと思われるのは心外だ。

「え? ああ。見苦しいだなんて」
「もともと私は髪色と目の色のせいで人と関わることが少なかったから、魔法省に入った途端掌を返したようにすり寄ってくるギラギラした人間はどうも苦手なんだ」
「そうなんですね」

またも言い訳のような言葉を並べてしまったユリウスに、ハルミは何てことない顔で頷いてくれた。

「だからこうしてハルミで癒されなければやっていけない」
「ふふ」

首元に顔を寄せると、ハルミは首を竦めて笑った。

「ん? どこが面白かったんだ?」
「ふふ、そこで話さないでください、くすぐったい」
「そ、そうか。それはすまなかった」

笑っているハルミは可愛らしいが、ほんのり首元を赤く染めたハルミは、扇情的で見てはいけないもののような気がして、サッと目をそらした。

それから、どことなくぎこちないまま、ハルミと別れ部屋に戻った。静かな部屋で雑念を払うように仕事をしていると、仕事を言いつけていたエリーゼが随分遅くにやってきた。

「ユリウス様、ついに成功したんですよ!!」
「何がだ」

いつになく明るい様子のエリーゼを気味悪く感じ、ユリウスは書類から目を離さずに尋ねた。

「ずっと、ずっと、隠していたのですが、もう大丈夫ですよね。だって、本当のミヒャエル様が戻られたのですから。ユリウス様だって、知らない魔力体が殺せても、実の弟の魂が入った魔力体を殺すことなんてできないでしょう?」
「……は?」

ギラギラした目で話すエリーゼは、興奮していてユリウスの反応など興味がないというように、高いテンションのまま騒ぎ立てた。

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