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ユリウス視点:魔力体
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元婚約者と婚約を解消してからというもの、女性たちの態度が変わった気がしていたが、ユリウス付きの侍女は特に変わった様子もなく、あれこれと要らない質問を繰り返したり、やたらと近い距離を取ろうとしないため、楽に感じていた。
けれど、ある日、その侍女が倒れた。
「幸い命に別状はありませんが、しばらくは思うように動けないそうです。おそらく原因は毒によるものと思われます。詳細は現在調査中です。それと、エリーゼという侍女が、ユリウス様付きの変わりをしたいと申しております」
「……そうか」
アルトルの報告に、ユリウスは呆然と返した。
特に親しくしていた相手ではなくとも、使用人の中では一番関わりがある人物だった。
「まだ確定したわけではありませんが、今回の騒動はエリーゼが関わっているのではないかと思われます」
「……なぜ」
「はい。おそらくエリーゼはユリウス様に気があるようです。彼女を殺して、自分がユリウス様に近づきたいと思ったのではないかと」
「そうか」
「ユリウス様は最近、婚約を解消されましたから」
「……エリーゼは、私の容姿を嫌っていると思っていたが。魔法省で働いているというのは、彼女のような人間にはそれほど価値があるものなのか」
「魔法省勤務はエリートですからね」
アルトルが苦笑して答えた。
「殺人未遂の犯人がエリーゼならば、それなりの刑を下されることになるだろうな」
「はい。証拠を揃えられるよう調査を急ぎます」
「頼む」
「はい。ですが、とりあえず、今のところエリーゼは泳がせます。ディクソン夫妻の尻尾を掴めるかもしれませんし、ユリウス様は何も知らないフリをして、エリーゼをユリウス様付きの侍女として扱ってください」
「……わかった」
ハルミと話をしたい。あの、優しい雰囲気のハルミと話をして、癒されたい。
いちいち可愛い反応を見せるハルミを可愛がりたい。
「そろそろご両親の捜査を進めていただかないと。いつまでも腑抜けておられては、私たち部下も困りますよ」
「……ああ」
「お言葉ですが、やはりハルミ様のことを、弟のように可愛いと思っているというのは間違いですね。一般的に、弟に構ってもらえないくらいで腑抜ける兄はいないですから」
「そう、だな」
ユリウスには今はいないが実際に弟がいたのだ。
確かに生まれた時は可愛いと思っていた。
けれど、思い返してみても、ハルミに対する感情は違う。
「どうして来なくなったんだ、ハルミ」
屋敷を探せば居るというのは分かっているのに、自ら行って怖がられたり拒否されたりするのが怖くて探すことができなかった。ハルミに嫌われたくない。好かれたい。ユリウスだけを見てほしいし、ユリウスだけに甘えてほしい。そんな感情は初めてだった。
「好き、なのか。私はハルミを」
「ようやく気づかれたのですね。よかったです」
アルトルは何てことないようにそう言ってのけ、笑った。
アルトルは、ようやく、と言ったが、ユリウス自身確かにそうだと思った。
「ああそうだ……私はハルミが好きなのか。気がつくのが遅過ぎた。ハルミについて知りたい。ああ、ハルミはどこの誰なんだ。仕事の合間にそれも調べなければ」
「もう、大体の調べはついていますよ。どこの誰だかはまだ分かっていませんが、おそらくハルミ様は、魔力体です」
「…………は?」
たっぷりと時間をかけ、ようやく困惑の声を漏らしたユリウスを、アルトルは小さく笑った。
上司が調べたいという前に、調べてくれていたとは本当に優秀で良く出来た部下ではあるが、その笑顔の胡散臭さはどうにかならないものかと思った。
けれど、ある日、その侍女が倒れた。
「幸い命に別状はありませんが、しばらくは思うように動けないそうです。おそらく原因は毒によるものと思われます。詳細は現在調査中です。それと、エリーゼという侍女が、ユリウス様付きの変わりをしたいと申しております」
「……そうか」
アルトルの報告に、ユリウスは呆然と返した。
特に親しくしていた相手ではなくとも、使用人の中では一番関わりがある人物だった。
「まだ確定したわけではありませんが、今回の騒動はエリーゼが関わっているのではないかと思われます」
「……なぜ」
「はい。おそらくエリーゼはユリウス様に気があるようです。彼女を殺して、自分がユリウス様に近づきたいと思ったのではないかと」
「そうか」
「ユリウス様は最近、婚約を解消されましたから」
「……エリーゼは、私の容姿を嫌っていると思っていたが。魔法省で働いているというのは、彼女のような人間にはそれほど価値があるものなのか」
「魔法省勤務はエリートですからね」
アルトルが苦笑して答えた。
「殺人未遂の犯人がエリーゼならば、それなりの刑を下されることになるだろうな」
「はい。証拠を揃えられるよう調査を急ぎます」
「頼む」
「はい。ですが、とりあえず、今のところエリーゼは泳がせます。ディクソン夫妻の尻尾を掴めるかもしれませんし、ユリウス様は何も知らないフリをして、エリーゼをユリウス様付きの侍女として扱ってください」
「……わかった」
ハルミと話をしたい。あの、優しい雰囲気のハルミと話をして、癒されたい。
いちいち可愛い反応を見せるハルミを可愛がりたい。
「そろそろご両親の捜査を進めていただかないと。いつまでも腑抜けておられては、私たち部下も困りますよ」
「……ああ」
「お言葉ですが、やはりハルミ様のことを、弟のように可愛いと思っているというのは間違いですね。一般的に、弟に構ってもらえないくらいで腑抜ける兄はいないですから」
「そう、だな」
ユリウスには今はいないが実際に弟がいたのだ。
確かに生まれた時は可愛いと思っていた。
けれど、思い返してみても、ハルミに対する感情は違う。
「どうして来なくなったんだ、ハルミ」
屋敷を探せば居るというのは分かっているのに、自ら行って怖がられたり拒否されたりするのが怖くて探すことができなかった。ハルミに嫌われたくない。好かれたい。ユリウスだけを見てほしいし、ユリウスだけに甘えてほしい。そんな感情は初めてだった。
「好き、なのか。私はハルミを」
「ようやく気づかれたのですね。よかったです」
アルトルは何てことないようにそう言ってのけ、笑った。
アルトルは、ようやく、と言ったが、ユリウス自身確かにそうだと思った。
「ああそうだ……私はハルミが好きなのか。気がつくのが遅過ぎた。ハルミについて知りたい。ああ、ハルミはどこの誰なんだ。仕事の合間にそれも調べなければ」
「もう、大体の調べはついていますよ。どこの誰だかはまだ分かっていませんが、おそらくハルミ様は、魔力体です」
「…………は?」
たっぷりと時間をかけ、ようやく困惑の声を漏らしたユリウスを、アルトルは小さく笑った。
上司が調べたいという前に、調べてくれていたとは本当に優秀で良く出来た部下ではあるが、その笑顔の胡散臭さはどうにかならないものかと思った。
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