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ユリウス視点:過去2
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「きゃー!! 助けてー!!」
ミヒャエルが死んで2年ほど経った頃、魔力体が現れ始め、魔法省に勤めている人間は外勤内勤問わず街の警らに回された。当時18歳だったユリウスと17歳だったアルトルも当然警らに参加しており、あちこちで上がる悲鳴に駆けつけ、魔力体を魔法によって押さえつけた。
魔力体はもともと強い作りはしていないらしく、魔法で抑えるとすぐに消滅するか、息絶えてしまう。生け捕りにするのは難航を極めた。それでは魔力体を調べることもできず、魔力体が現れる原因についても思うように進まない。
魔法省に勤めている人間の誰しもが、イラついていた。
「なぁ、最近少し魔力体が強くなってきていないか?」
「ええ。私もそう思っていたところです。正直私は、魔法というより魔法陣や古書の解読や魔法薬開発メインの採用ですので、これ以上となると危険を伴いそうです」
アルトルは困ったように眉を下げた。
魔力も他と比べると多い方であるアルトルだが、研究方面の人間に警らをやらせるという状況は間違いなく危険を伴う。それが分かっていてもなお、国は魔法を使える人間を警らに回す他、対処法を見つけられずにいた。
綺麗で人の笑顔が溢れていた街並みは、今やどこからともなく現れる魔力体に怯え閑散としていた。
「おい、あの子」
「1人ですね。危ないな」
少し先で小さな子供が1人ポツンと立っていて周りに親は見当たらない。
「少年、家の人はどうした。家はどこだ?」
ユリウスが話しかけながら近づいても、子供は振り向きもせず立ち尽くしている。
子供のすぐ後ろに来た時にやっと、子供はくるりと振り返った。
「あはははははははははははははははっっっっ!!!!!!!!!!」
「な……」
目はぐるりと大きく開き、口を大きく開けて笑う子供は常軌を逸していた。
「ユリウス様っ。それは魔力体です!! 離れてください!!」
後ろからアルトルに叫ばれ、ユリウスはやっと我に帰った。
けれど、目の前の小さな子供の姿が幼い頃のミヒャエルに被って、魔法を行使することを一瞬躊躇ってしまった。
「ユリウス様!!」
子供との間にサッと入り込んだアルトルは、子供が持っていた刃物で腹を刺された。
「ッアルトル!!」
今度こそ迷う時間などなく、ユリウスは子供に魔法を行使し、子供の姿をした魔力体は目の前で離散した。アルトルの腹からはドクドクと血が流れている。ユリウスは必死で止血の魔法をかけ、血を止めた。
「油断大敵、でしたね」
「すまないアルトル」
「血も止めていただきましたし、問題ございません」
「次からは躊躇したりしない。本当にすまなかった」
血が流れ青い顔をしたアルトルが薄く笑った。
いつまでこんなことが続くのか。どうしたら解決できるのか。
「本当に、暗い世の中だな」
「ですが、とにかく働くしか道はないでしょう」
その後、命に別状もなく日常生活にも不便はないが、アルトルの腹には、刺し傷の跡が残ってしまった。
ユリウスは自分がいながら、いや、むしろ自分の失態のせいでアルトルを危険な目に合わせてしまった自分が不甲斐なかった。
それ以降、ユリウスは少しでも事件解決が早まるよう寝る間も惜しんで仕事に没頭した。
魔力体が強くなってきたということは、それだけ生け捕りの可能性も上がり、魔力体発生の原因を少しずつ掴めるようになってきた。
そうして、魔力体作製の容疑者として上がったのは、他でもないディクソン侯爵夫妻。ユリウスの両親だった。ユリウスは長く滞在することのなくなった生家に、仕事で滞在しなければいけなくなった。
「せっかく滞在する時間が増えるのですから、少しゆっくりされてはいかがですか。最近は根を詰めすぎていると思いますよ」
「ああ。分かっている」
アルトルは心配したが、ユリウスはゆっくりするつもりなどなかった。
もとより、ディクソン侯爵邸でゆっくりできる場所などほとんどない。
「焦りは禁物です。ここまで来たからには慎重にいきましょう」
「ああ」
慎重に。それはその通りなので、ユリウスは焦るような気持ちを抱えたまま、小さく頷いた。
ミヒャエルが死んで2年ほど経った頃、魔力体が現れ始め、魔法省に勤めている人間は外勤内勤問わず街の警らに回された。当時18歳だったユリウスと17歳だったアルトルも当然警らに参加しており、あちこちで上がる悲鳴に駆けつけ、魔力体を魔法によって押さえつけた。
魔力体はもともと強い作りはしていないらしく、魔法で抑えるとすぐに消滅するか、息絶えてしまう。生け捕りにするのは難航を極めた。それでは魔力体を調べることもできず、魔力体が現れる原因についても思うように進まない。
魔法省に勤めている人間の誰しもが、イラついていた。
「なぁ、最近少し魔力体が強くなってきていないか?」
「ええ。私もそう思っていたところです。正直私は、魔法というより魔法陣や古書の解読や魔法薬開発メインの採用ですので、これ以上となると危険を伴いそうです」
アルトルは困ったように眉を下げた。
魔力も他と比べると多い方であるアルトルだが、研究方面の人間に警らをやらせるという状況は間違いなく危険を伴う。それが分かっていてもなお、国は魔法を使える人間を警らに回す他、対処法を見つけられずにいた。
綺麗で人の笑顔が溢れていた街並みは、今やどこからともなく現れる魔力体に怯え閑散としていた。
「おい、あの子」
「1人ですね。危ないな」
少し先で小さな子供が1人ポツンと立っていて周りに親は見当たらない。
「少年、家の人はどうした。家はどこだ?」
ユリウスが話しかけながら近づいても、子供は振り向きもせず立ち尽くしている。
子供のすぐ後ろに来た時にやっと、子供はくるりと振り返った。
「あはははははははははははははははっっっっ!!!!!!!!!!」
「な……」
目はぐるりと大きく開き、口を大きく開けて笑う子供は常軌を逸していた。
「ユリウス様っ。それは魔力体です!! 離れてください!!」
後ろからアルトルに叫ばれ、ユリウスはやっと我に帰った。
けれど、目の前の小さな子供の姿が幼い頃のミヒャエルに被って、魔法を行使することを一瞬躊躇ってしまった。
「ユリウス様!!」
子供との間にサッと入り込んだアルトルは、子供が持っていた刃物で腹を刺された。
「ッアルトル!!」
今度こそ迷う時間などなく、ユリウスは子供に魔法を行使し、子供の姿をした魔力体は目の前で離散した。アルトルの腹からはドクドクと血が流れている。ユリウスは必死で止血の魔法をかけ、血を止めた。
「油断大敵、でしたね」
「すまないアルトル」
「血も止めていただきましたし、問題ございません」
「次からは躊躇したりしない。本当にすまなかった」
血が流れ青い顔をしたアルトルが薄く笑った。
いつまでこんなことが続くのか。どうしたら解決できるのか。
「本当に、暗い世の中だな」
「ですが、とにかく働くしか道はないでしょう」
その後、命に別状もなく日常生活にも不便はないが、アルトルの腹には、刺し傷の跡が残ってしまった。
ユリウスは自分がいながら、いや、むしろ自分の失態のせいでアルトルを危険な目に合わせてしまった自分が不甲斐なかった。
それ以降、ユリウスは少しでも事件解決が早まるよう寝る間も惜しんで仕事に没頭した。
魔力体が強くなってきたということは、それだけ生け捕りの可能性も上がり、魔力体発生の原因を少しずつ掴めるようになってきた。
そうして、魔力体作製の容疑者として上がったのは、他でもないディクソン侯爵夫妻。ユリウスの両親だった。ユリウスは長く滞在することのなくなった生家に、仕事で滞在しなければいけなくなった。
「せっかく滞在する時間が増えるのですから、少しゆっくりされてはいかがですか。最近は根を詰めすぎていると思いますよ」
「ああ。分かっている」
アルトルは心配したが、ユリウスはゆっくりするつもりなどなかった。
もとより、ディクソン侯爵邸でゆっくりできる場所などほとんどない。
「焦りは禁物です。ここまで来たからには慎重にいきましょう」
「ああ」
慎重に。それはその通りなので、ユリウスは焦るような気持ちを抱えたまま、小さく頷いた。
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