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29:体調不良の原因

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「ユリウスには伝えておかなければいけないことがあるんだよ」

頭上で行われる会話は、さらに抑えた声になった。

「何でしょうか」
「この子には体調不良の原因を、魔力体はもともと体が強いわけじゃないから、環境の変化で疲れが出たのだと伝えたけれどね、実は違うと思うんだ」

うつらうつらと聞いていた話は、思いがけない展開で頭が覚醒し眠気が吹き飛んだ。

(それは僕がデートに浮かれてただけで……)

けれど、起き上がってそんな浮かれきって恥ずかしい言葉を言う勇気はなく、春海は泣く泣く寝たフリを続けた。

「1年前、僕がハルミを匿い始めた時、ハルミはまだ魔力体の定着がうまくいっていなくて、僕がこっそりと補助してあげていたんだ。けれど、ハルミが魔法の勉強をしたり修行をしたりするうちに、自然とそれは身について行った」

(知らなかった。そうだったんだ)

確かに、ディクソン侯爵邸を離れ、クリストフのところに住むようになってからも、1度も体調を崩さなかったけれど、それは「僕からの愛があるからだねぇ」というクリストフの言葉に、すっかりそういうものなのだと騙されていた。

「今は自然に出来ている、と言うことですか?」
「そう」
「なら、体調不良とはどう関係が……?」
「まだはっきりとは分からないけれど、どうも魔力体だけに影響する魔力散らしの香が使われているようだ。体のほとんどが魔力でできた魔力体は魔力散らしで魔力を散らされると、当然体調不良になるし、最悪存在自体が消滅してしまう可能性まである。香は布団に焚き染められていたのだと思っているけれど、誰がやったのかまでは。ああ、今、ハルミが寝ている布団は全て新しいものに取り替えさせたから、とりあえず大丈夫だと思うけれどね」
「……そうですか」
「とりあえず用心はしておかなければね」
「はい」

それから、クリストフは春海の頭を数回撫でて、部屋を出て行った。
考えたいことはたくさんあったけれど静かな空間になると、体は勝手に睡眠を求め、スーッと眠りについた。

目が覚めた時は窓の外はすっかり夕焼け色になっていた。

「起きたのか」
「は、はい。あの、すみませんせっかくお出かけに誘っていただいたのに」
ではなく、だが。それは良い。これからいくらだってチャンスはある。それにハルミの寝顔を見ているのも、とても癒しになって良い休日になった」
「っ、そうですか」

さらりと恥ずかしいことも言ってのける美丈夫に、何の経験もない春海はただ赤くなるしかできなかった。

「具合はどうだ?」
「だいぶ良いです。ありがとうございます」
「良くなっているのなら、よかった。少し起こすぞ」
「っ」

仰向けに寝ている背中に手を差し入れられ、スッと上半身を起こされて、背中にクッションを差し込まれた。

「朝から何も食べていないんじゃ、良くなるものも良くならない。りんごのすり下ろし、食べられそうか?」
「はい」
「そうか」

ユリウスは、ホッとしたように微笑んで、春海にりんごのすり下ろしが乗ったスプーンを差し出した。看病という行為は知っていても、実際にされたことがない春海は、人の手ずから食べ物を食べるのは、少し緊張した。喉や頭が痛くてもスプーンくらい自分で持って食べることはできる。けれど、せっかくの機会ならと、目の前のスプーンを咥えてみた。

「……美味しい」
「そうか。食べられそうなら、もっと食べてくれ」

鼻は詰まっていなかったので、りんごの味も匂いも感じられて、美味しかった。
1口、もう1口と、パクパクと食べさせてもらい、1皿全て食べ終わる頃にはお腹は十分に満たっていた。
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