26 / 53
25:告白
しおりを挟む
「正直、会わせてもらえると約束はしたが、本当にハルミに会わせてもらえるのか、ハルミがここに来るまで不安だった」
「クリスさんは約束を破ったりしません」
春海の言葉にユリウスは苦笑した。
「ああ。それはちゃんと分かっている。だが、ハルミを傷つけてしまったことを教官はとても怒っていたから」
「クリスさんが……? 僕のために」
ユリウスから傷つけられた覚えはなかったので申し訳ない気持ちはあれど、やはり普段怒った姿など少しも見せない人が自分のために怒ってくれたというのは、照れ臭くも嬉しかった。
「ハルミ、私はハルミを大切に想っている。だから戻ってきてくれないか」
ユリウスは真剣な目をして春海を見つめた。
大切に想っているという言葉に、ドキリとした。
嬉しいような、心臓がうるさいような痛いような。
クリストフに言われたときには、嬉しく胸が暖かくなったけれど、どうして相手がユリウスだとこんなに落ち着かない気持ちになるのだろう。
「でも、僕は僕を愛してくれる人を見つけたんです。だから、戻れません」
「それは……、教官か」
「はい。僕はクリスさんと一緒にいたいんです」
息子だと言ってくれたクリストフと共に生きたい。
この1年、他に家族の気配はなかった。甥はいるのが確定しているけれど、妻や子供は居ないんじゃないかと思っている。
もしかしたら、この先、そんな相手が出来たとしたら、もちろん春海は出ていくつもりだけれど、それまでの間は、クリストフが邪魔だと言わない限り、此処に居たい。
ユリウスはしばらく無言でいたけれど、耐えきれなくなったかのように、小さく息を吐いた。
「1年前、どうして居なくなったのか、教えてくれるか」
「……探そうと思ったんです。僕を愛してくれる人がこの世界のどこかには絶対居るってユリウス様に教えてもらって。あの時は何だかハイになってたから、何でも出来る気がして、そのまま屋敷を飛び出しました。世界中を探さないと見つからないレベルの人が、屋敷の中に居るはずがないし、それなら屋敷に居る時間が勿体ないって思って」
「……そうか」
ユリウスは、そう返事をして肩を落とした。
「あの。突然居なくなったりして、すみませんでした。心配、させてしまいました、よね」
春海がいなくなったところで、誰かが心配したり、誰かに迷惑がかかったりなど、あの頃の春海には、本当にそんな可能性があるなんてことを考えられるような感覚がなかったのだ。
けれど、そうではないということを、今の春海は知っていた。
そして、やはりユリウスは頷いてくれた。
「ああ。心配した。だが、無事な姿をみられたから良いんだ。元はと言えば、私が自分の気持ちを早く自覚してハルミに伝えられていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのだから」
「自分の気持ち……?」
「ハルミを大切に想う気持ちだ。ハルミが居ないとホッとする時間もない。癒しもない。何をするにもハルミの顔がチラついて頭から離れない。つまり」
「つまり……?」
「私は、ハルミを愛しているんだ」
「っ」
そんなことを言われるなんて春海は1ミリも想像していなかった。
内心はパニックで、頭の中には、“え?”や“な?”と言った意味をなさないような文字が埋め尽くして最終的にキャパを超え頭は真っ白になった。
「クリスさんは約束を破ったりしません」
春海の言葉にユリウスは苦笑した。
「ああ。それはちゃんと分かっている。だが、ハルミを傷つけてしまったことを教官はとても怒っていたから」
「クリスさんが……? 僕のために」
ユリウスから傷つけられた覚えはなかったので申し訳ない気持ちはあれど、やはり普段怒った姿など少しも見せない人が自分のために怒ってくれたというのは、照れ臭くも嬉しかった。
「ハルミ、私はハルミを大切に想っている。だから戻ってきてくれないか」
ユリウスは真剣な目をして春海を見つめた。
大切に想っているという言葉に、ドキリとした。
嬉しいような、心臓がうるさいような痛いような。
クリストフに言われたときには、嬉しく胸が暖かくなったけれど、どうして相手がユリウスだとこんなに落ち着かない気持ちになるのだろう。
「でも、僕は僕を愛してくれる人を見つけたんです。だから、戻れません」
「それは……、教官か」
「はい。僕はクリスさんと一緒にいたいんです」
息子だと言ってくれたクリストフと共に生きたい。
この1年、他に家族の気配はなかった。甥はいるのが確定しているけれど、妻や子供は居ないんじゃないかと思っている。
もしかしたら、この先、そんな相手が出来たとしたら、もちろん春海は出ていくつもりだけれど、それまでの間は、クリストフが邪魔だと言わない限り、此処に居たい。
ユリウスはしばらく無言でいたけれど、耐えきれなくなったかのように、小さく息を吐いた。
「1年前、どうして居なくなったのか、教えてくれるか」
「……探そうと思ったんです。僕を愛してくれる人がこの世界のどこかには絶対居るってユリウス様に教えてもらって。あの時は何だかハイになってたから、何でも出来る気がして、そのまま屋敷を飛び出しました。世界中を探さないと見つからないレベルの人が、屋敷の中に居るはずがないし、それなら屋敷に居る時間が勿体ないって思って」
「……そうか」
ユリウスは、そう返事をして肩を落とした。
「あの。突然居なくなったりして、すみませんでした。心配、させてしまいました、よね」
春海がいなくなったところで、誰かが心配したり、誰かに迷惑がかかったりなど、あの頃の春海には、本当にそんな可能性があるなんてことを考えられるような感覚がなかったのだ。
けれど、そうではないということを、今の春海は知っていた。
そして、やはりユリウスは頷いてくれた。
「ああ。心配した。だが、無事な姿をみられたから良いんだ。元はと言えば、私が自分の気持ちを早く自覚してハルミに伝えられていれば、こんな事にはならなかったかもしれないのだから」
「自分の気持ち……?」
「ハルミを大切に想う気持ちだ。ハルミが居ないとホッとする時間もない。癒しもない。何をするにもハルミの顔がチラついて頭から離れない。つまり」
「つまり……?」
「私は、ハルミを愛しているんだ」
「っ」
そんなことを言われるなんて春海は1ミリも想像していなかった。
内心はパニックで、頭の中には、“え?”や“な?”と言った意味をなさないような文字が埋め尽くして最終的にキャパを超え頭は真っ白になった。
141
お気に入りに追加
1,242
あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
※カクヨムにも投稿始めました!アルファポリスとカクヨムで別々のエンドにしようかなとも考え中です!
カクヨム登録されている方、読んで頂けたら嬉しいです!!
番外編は時々追加で投稿しようかなと思っています!

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる