偽物にすらなりきれない出来損ないの僕

いちみやりょう

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5:ユリウス

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「本当、かわいい顔」

この世界にも鏡はしっかりあって、春海はそれで顔を確認しながら呟いた。
ミヒャエルにそっくりだという今の顔は、あの両親の遺伝子をしっかりと受け継いで、金髪碧眼の美少年だ。

春海が彼らを両親と言っても良いのか分からないが、ミヒャエルの両親は、ミヒャエルに本当に優しくしてくれた。それは春海が思い描く暖かい両親そのもので、食事も一緒に食べるし、お出かけも一緒にする。欲しい物が分からなくても、多くの物を与えてくれる。そういうことが初めのうちは、嬉しくて胸がうずいたりもした。けれど、時々ふと、違和感が胸に浮かぶ。

2人は優しく接してくれるし、春海を必要としてくれて、大事にしてくれていると思う。けれど、春海が望んでいるものとは何かが違う気がしていた。違和感の正体は、春海には分からなかったけれど、モヤモヤが胸の中に渦巻く。

「僕って、こんなに我がままなんだ」

せっかく優しくしてくれている相手に、何かが違うなどと思うのは失礼だ。
現に、彼らは春海が目を覚ました時、涙を流して喜んだ。それは、本当の春海の両親や兄からは見ることのできない反応だ。

ミヒャエルは間違いなく両親に愛されている。

春海はそう思うのに、やはり心のモヤモヤは晴れなかった。

トントントン

「っ、はい」

考え事は部屋のノック音で途切れた。

「ハルミ様っ、お隠れください。ユリウス様がお見えになりました!」

ドアを開けて血相を変えて入ってきたエリーゼにそう言われ、春海まで焦った。

「ど、どうして。そんな急に来るものなの?」
「ほとんど帰ってこられないだけで、ユリウス様の住まいもこちらなのです。さぁ、万が一のためにこちらをおつけ下さい」
「お面?」
「ハルミ様のお顔は、ミヒャエル様とそっくり同じです。見られてしまえば、きっと魔力体のこともバレてしまうでしょう。ユリウス様は真面目な方ですし、禁術関連の取締りも取り仕切っているそうですから、最悪、ハルミ様を殺すなんてことも……」
「……そうなんだ。でも、家の中でお面被ってたら、目立たない?」
「……確かにそうですが、顔がバレるよりは」

エリーゼも相当焦っているらしい。
けれど、あっけなく殺されるよりは家の中でお面をつけている変なやつだと思われた方が、良いことも事実だ。
春海は、渡されるがままにそのお面を身に付けた。

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