54 / 56
咲夜サイド3
しおりを挟む父は伊月を探すのに協力的ではなく、むしろ邪魔すらしてくるほどで伊月探しは難航した。
「伊月のことは諦めて、梨乃さんと仲良くしなさい」
最近は居間で食事をするといつもこの話題になる。
いい加減うんざりで声を荒げないようにするのに必死だ。
「梨乃のことはどうでもいい。伊月を探すのを手伝わなくてもいいから、邪魔をするのはやめろよ」
睨みつけながらそう言っても、父は全く意に介した様子はなく笑うばかりでますますイライラが募った。
「落ち着いて、咲夜様。私がついてるわ」
「はなせ!」
「きゃっ」
腕に絡みついてくる梨乃を振り払うと、大袈裟に離れていった。
それにしても、伊月を探すことに夢中で全く眼中になく今まで気がつかなかったが、梨乃の腹の様子が明らかにおかしい。
服の上からでもわかるほどボコボコとしていて中に何か詰めているように見えた。
梨乃に近づきその腹を触ると、梨乃は嬉しそうな顔をした。
「騙せると思ったか?」
「え?」
「バスタオルか? 毎朝ご苦労なことだな」
そう言って梨乃の服の下に手を突っ込むと、案の定腹の部分からはタオルの塊が出て来た。
梨乃は青い顔をしてワナワナと口を震わせている。
「だって……あなたが、あなたがいけないのよ。伊月みたいなやつに構って私を構わないから」
ぶつぶつと恨み言を呟き始めた梨乃を無視し、部屋を出て行こうとすると父が声を上げた。
「待て。梨乃さんには病院に行ってもらう。もちろん、咲夜お前もだ。その結果次第では伊月を探すのを協力してやろう」
「は?」
「梨乃さんが子供ができない体だった場合は、伊月に産ませればいい。その子を梨乃さんと子として育てろ。お前の体がだめだった場合は、梨乃さんには私の子を産んでもらえばいい」
ニヤリと笑ってそう言う親父から、梨乃は後退りして距離を取った。
「いや! 嫌よ!! 何でそんなこと私がしないといけないの!? どちらに転んでも私には何も得がない! ねぇ! 昨夜様も何とか言ってよ!」
キンキンと頭に響く声が鬱陶しい。
けれど、検査をし俺の体に異常がないのなら、伊月を探すのに父は協力すると言った。
「分かった。検査を受ける」
「嫌ああぁああ!!」
梨乃はついに発狂し出した。
その声は耳障り以外の何者でもない。
けれど、伊月を見つけることのできる兆しが見えて俺の心は晴れやかだった。
そうしてしばらくして検査結果が出た。
梨乃は自分の検査結果を見て、複雑な表情を浮かべていた。
自分が不妊だったと知った割には落ち込んでいないように見えるが、そんなこともどうでもいい。
「親父。約束通り伊月を探すのを協力しろよ」
「仕方がないな」
父は心底残念そうに、梨乃の体を下から上まで舐め回すように見た後、そう答えた。
11
お気に入りに追加
650
あなたにおすすめの小説
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
偽りの愛
いちみやりょう
BL
昔は俺の名前も呼んでくれていたのにいつからか“若”としか呼ばれなくなった。
いつからか……なんてとぼけてみなくても分かってる。
俺が14歳、憲史が19歳の時、俺がこいつに告白したからだ。
弟のように可愛がっていた人間から突然告白されて憲史はさぞ気持ち悪かったに違いない。
だが、憲史は優しく微笑んで初恋を拗らせていた俺を残酷なまでに木っ端微塵に振った。
『俺がマサをそういう意味で好きになることなんて一生ないよ。マサが大きくなれば俺はマサの舎弟になるんだ。大丈夫。身近に俺しかいなかったからマサは勘違いしてしまったんだね。マサにはきっといい女の子がお嫁さんに来てくれるよ』
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる