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司のその後

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銀次様を裏切って幼稚園の先生になってはや15年。
ずっと銀次様を忘れる日など無かった。
自分から逃げ出し、命を絶とうとして失敗して逃げ出して。
こんな自分が医者になどなれるはずもなく、ただ周りから勧められるまま幼稚園教諭になった。
小さな子供たちが元気に遊ぶのを見るのは楽しくて、案外自分にあっていたなと思ってる。

何の縁なのか、そこに繋心くんが通うようになり、佐渡さんと仲良くなって銀次様と再開した。
幼い頃、青臭く、司! 司! と私を引っ張っていた銀次様は、当たり前だがどこにも居なくなっていた。15年。それだけ経てば大人になる。
だけど自分だけが何も変わっていないような気がした。
自分だけが15年前に取り残されたようで寂しくなった。

再開したあの日、夜ご飯をご馳走になり、あの頃の謝罪をしてお互いの近況報告や思い出話に花を咲かせた。
銀次様はその間もずっと佐渡……伊月さんを気にしていた。

伊月さんは私と銀次様のことを知っていて、私たちが再開すればよりを戻すことになるのだと思っていたようだった。
自分も銀次様のことが大好きで大切なはずなのに、銀次様の幸せを願って身を引くなんて健気に銀次様を想っている人がいて私は安心した。

私には今後そんな幸せは手に入らないだろうと思っていた。

ある日、繋心くんと同じクラスの四葉くんという男の子の様子がおかしいことに気がついた。
足を引きずっているような歩き方で、よく見ると服の下から痣がうっすらと見えていた。

「四葉くん、足どうしたの?」
「……なんでもないよ」
「じゃあ、ここの痣は?」
「何でもない」

四葉くんは頑なで、いつもは私の足にまとわりついて離れないくらいに懐いてくれているのに、何も話そうとはしてくれなかった。
上司や児相にも相談して、根気強く聞いていくと四葉くんはポツリポツリと話してくれた。
最近、父親が他の女性と仲良くなり両親の喧嘩が絶えなくなって、四葉くんに暴言を吐くのじゃ飽き足らず暴力までふるわれるようになったらしい。
四葉くんの両親はすぐに逮捕された。
これが四葉くんのためになったのかは分からなかった。
ただ私が四葉くんの両親を許せなくて、やったことだった。
お互い好きあって結婚して、子供まで産まれたのに、その子供を虐待する親が私はただ許せなかった。
だから四葉くんから両親を奪った私は恨まれるだろうと思っていた。
なのに。

「先生が僕のお父さんになってくれたらいいのに」

他の児童が帰る中、四葉くんの祖父母を待っている時にポツリとそんなことを言ってくれた。

「先生が……、四葉くんのお父さんに?」
「そんなことできないってちゃんと分かってるよ。でもそうだったらいいのにって思っただけ」

他の子よりも大人びた印象の四葉くんは七夕の短冊にだってあまり願い事を書いてくれない子だったのに、私がお父さんだったならと願ってくれたのが嬉しかった。

「四葉くんは本当に、先生がお父さんだったら嬉しい?」
「うん。ずっとそう思ってたよ」
「じゃあ、先生頑張っちゃおうかな」
「え?」
「先生も四葉くんと家族になりたい。すごく大変なことだし、時間がかかるかもしれないけど、先生の子供になってくれる?」
「……うん!」

四葉くんは子供らしい笑顔でうなずいてくれた。
同情じゃないとは言い切れないけど、大人びた四葉くんが子供らしく甘えられたらいいのにと思った。

それからは大変だった。
と、言いたいところだけど、四葉くんの祖父母は年齢的に引き取って育てるのは大変だということで、案外あっさりと認めてくれた。
書類関係などを提出するのはかなり大変だったけど、私と四葉くんは晴れて親子となった。

「お、お父さん、ただいま」
「おかえり。四葉」

お父さんと呼ぶのに少し照れた顔をした四葉と一緒に写真を撮って、プリントアウトして居間に飾ると知らない人が見たらちゃんとした親子のようで、幸せを感じた。

ずっと1人で住んでいた1Kのアパートに幼児とはいえ2人になるのは結構手狭で、私は家を探し始めた。

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