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パーティー
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銀次さんを好きだと思う気持ちはなかなか止めることはできない。
そもそもそんなコントロールができるならば、始めから好きになんてなってなかった。
銀次さんはスキンシップが多くて、よく僕の頭を撫で回すし、買い物にもよく連れてってくれるし、僕と同じものを買って、しかも喜んだりする。
そんな生活が続くと別に好きでいても良いんじゃないかと思う気持ちが芽生えてきた。
何も無理に諦めたりしなくても、銀次さんに好きだと告げなければ誰の迷惑にもなったりしない。銀次さんが司さんのことを想うことを邪魔したりしなければ好きでいたって、きっとバチは当たらない。銀次さんは司さんを想って僕は銀次さんを想う。
そんな生活は案外うまくいって、僕は毎日楽しかった。
「伊月くん、花とか野菜とか育てるのが好きなんでしょう?」
ある日の朝、そう聞かれた。
「はい……、でもあの時のは」
「ああ、あれは育てられなかったんだよね。そうじゃなくて、この家にも庭はあるからもし作りたかったら自由に使っていいからね」
「え、あ、ありがとうございます! 嬉しいです」
「こんなことで喜んでもらえるなら俺も嬉しいよ。はい、これ」
ニコリと笑って差し出されたのは、あの時育てられなかったきゅうりとレタスとマリーゴールドの苗だった。思えば今はあの時と同じ季節。
初めて銀次さんに会ってから早いようで1年が経過していた。
僕は苗を貰ったことよりも、1年も前に僕にくれた種の種類を3つとも覚えていてくれたと言うことが嬉しかった。
「ありがとうございます! 今度こそ育て上げて銀次さんに食べてもらいます!」
「はは。楽しみにしてるよ」
銀次さんは嬉しそうに笑ってくれた。
出勤する銀次さんを送り出して僕は早速野菜を育てる場所を探した。
日当たりがいい場所がいいけど、あまり門に近いところは嫌だし……。と家の周りを一周歩いてみた。
家の右側のスペースに畑を作ることにした。
外にあった物置小屋からクワなどを持ってくる前に、草むしりをした。
望むだけのスペースを確保するにはかなり根気のいる作業だ。
でもあの時は種からだったけど今回は苗からだから随分と楽なはず。
半分くらいむしったところで休憩を取ろうと少し離れたところにある塀まで行ってそこに出来た僅かな影に座った。
「暑……」
見える景色は家の側面。2階部分にある窓は位置からすると銀次さんの部屋の窓だ。
中は見えないけど、窓際に写真立てが置いてあるのが見えた。
ツキと胸が痛んだ。
草むしりが終わったらすっかり夕方で、僕は夕飯の準備も何もしていないことに気がついて大慌てで家の中に戻った。
前日に買って来てあった食材でなんとかオムライスを作れそうだったので、今日はオムライスとサラダと、野菜スープにした。
チャイムの音に走って向かって玄関を開けると只野さんが立っていた。
「こんばんは」
「……こんばんは」
この人は僕が銀次さんを好きだと知った日からかなりの頻度で呑みに来ている。
「今日はまだ銀次さんは帰ってませんけど」
「ああ。じゃあ、中で待つ」
そう言ってズカズカと上がり込んで来た。
僕も諦めてその後を追い、キッチンに向かった。
もちろん、只野さんの夕飯を追加するためだ。
その後すぐに銀次さんが帰ってきた。
「ただいま、伊月くん」
「おかえりなさい! お仕事お疲れ様です」
「うん、ありがとう。あれ? 只野今日も来てるの?」
「なんだ。いいだろう別に」
「まぁ構わないけどね」
銀次さんが脱いだコートと鞄を受け取って定位置に置いてから夕飯を机に運ぶと、銀次さんはニコニコしながら瓶が紙で包まれたようなものを机に置いた。
「お酒……ですか?」
「うん。今日は3月20日でしょ?」
「はい」
何かお酒に関する日なのだろうかと頭に疑問符を浮かべながら返事をすると、銀次さんはおかしそうに笑った。
「伊月くんの誕生日だよ。誕生日おめでとう、伊月くん。ちゃんとプレゼントもある。このお酒はおまけみたいなものだよ」
「え……誕生日、ですか。僕の?」
「え? 違った? 前に聞いた時3月20日だって言ってたと想ったんだけど」
「い、いえ。違わないです……。違わないけど、僕、あ、ありがとうございます」
溢れそうになる涙をなんとか抑えてお礼を言うと、銀次さんもニッコリと笑って頭をワシワシと撫でてくれた。
そして銀次さんは廊下に戻って箱を持って来た。
あの箱がプレゼントだろうか。
「はい、ケーキもちゃんと買って来たよ。あ、これもおまけみたいなものだからプレゼントじゃないけど」
ケーキの箱を渡されて、堪えていた涙は溢れ出した。
「あ……すみません、嬉しくて。ありがとうございます、僕、誕生日を祝ってもらったのは子供の頃以来で、本当に……ありがとうございます」
「喜んでもらえて良かった。じゃあとりあえずケーキは食後にするとして、伊月くんが作ってくれたご飯、食べようか」
「はい」
3人で食卓につくと、ものすごく気まずそうな顔で只野さんが口を開いた。
「誕生日など知らなかった、すまない。これ、私はいない方がいいよな」
「いや、パーティーは人数が多い方が楽しいよね、伊月くん」
「は、はい! もちろんです」
そう答えると、只野さんは明らかにホッとしたような顔をしたのでなんだか面白かった。
そもそもそんなコントロールができるならば、始めから好きになんてなってなかった。
銀次さんはスキンシップが多くて、よく僕の頭を撫で回すし、買い物にもよく連れてってくれるし、僕と同じものを買って、しかも喜んだりする。
そんな生活が続くと別に好きでいても良いんじゃないかと思う気持ちが芽生えてきた。
何も無理に諦めたりしなくても、銀次さんに好きだと告げなければ誰の迷惑にもなったりしない。銀次さんが司さんのことを想うことを邪魔したりしなければ好きでいたって、きっとバチは当たらない。銀次さんは司さんを想って僕は銀次さんを想う。
そんな生活は案外うまくいって、僕は毎日楽しかった。
「伊月くん、花とか野菜とか育てるのが好きなんでしょう?」
ある日の朝、そう聞かれた。
「はい……、でもあの時のは」
「ああ、あれは育てられなかったんだよね。そうじゃなくて、この家にも庭はあるからもし作りたかったら自由に使っていいからね」
「え、あ、ありがとうございます! 嬉しいです」
「こんなことで喜んでもらえるなら俺も嬉しいよ。はい、これ」
ニコリと笑って差し出されたのは、あの時育てられなかったきゅうりとレタスとマリーゴールドの苗だった。思えば今はあの時と同じ季節。
初めて銀次さんに会ってから早いようで1年が経過していた。
僕は苗を貰ったことよりも、1年も前に僕にくれた種の種類を3つとも覚えていてくれたと言うことが嬉しかった。
「ありがとうございます! 今度こそ育て上げて銀次さんに食べてもらいます!」
「はは。楽しみにしてるよ」
銀次さんは嬉しそうに笑ってくれた。
出勤する銀次さんを送り出して僕は早速野菜を育てる場所を探した。
日当たりがいい場所がいいけど、あまり門に近いところは嫌だし……。と家の周りを一周歩いてみた。
家の右側のスペースに畑を作ることにした。
外にあった物置小屋からクワなどを持ってくる前に、草むしりをした。
望むだけのスペースを確保するにはかなり根気のいる作業だ。
でもあの時は種からだったけど今回は苗からだから随分と楽なはず。
半分くらいむしったところで休憩を取ろうと少し離れたところにある塀まで行ってそこに出来た僅かな影に座った。
「暑……」
見える景色は家の側面。2階部分にある窓は位置からすると銀次さんの部屋の窓だ。
中は見えないけど、窓際に写真立てが置いてあるのが見えた。
ツキと胸が痛んだ。
草むしりが終わったらすっかり夕方で、僕は夕飯の準備も何もしていないことに気がついて大慌てで家の中に戻った。
前日に買って来てあった食材でなんとかオムライスを作れそうだったので、今日はオムライスとサラダと、野菜スープにした。
チャイムの音に走って向かって玄関を開けると只野さんが立っていた。
「こんばんは」
「……こんばんは」
この人は僕が銀次さんを好きだと知った日からかなりの頻度で呑みに来ている。
「今日はまだ銀次さんは帰ってませんけど」
「ああ。じゃあ、中で待つ」
そう言ってズカズカと上がり込んで来た。
僕も諦めてその後を追い、キッチンに向かった。
もちろん、只野さんの夕飯を追加するためだ。
その後すぐに銀次さんが帰ってきた。
「ただいま、伊月くん」
「おかえりなさい! お仕事お疲れ様です」
「うん、ありがとう。あれ? 只野今日も来てるの?」
「なんだ。いいだろう別に」
「まぁ構わないけどね」
銀次さんが脱いだコートと鞄を受け取って定位置に置いてから夕飯を机に運ぶと、銀次さんはニコニコしながら瓶が紙で包まれたようなものを机に置いた。
「お酒……ですか?」
「うん。今日は3月20日でしょ?」
「はい」
何かお酒に関する日なのだろうかと頭に疑問符を浮かべながら返事をすると、銀次さんはおかしそうに笑った。
「伊月くんの誕生日だよ。誕生日おめでとう、伊月くん。ちゃんとプレゼントもある。このお酒はおまけみたいなものだよ」
「え……誕生日、ですか。僕の?」
「え? 違った? 前に聞いた時3月20日だって言ってたと想ったんだけど」
「い、いえ。違わないです……。違わないけど、僕、あ、ありがとうございます」
溢れそうになる涙をなんとか抑えてお礼を言うと、銀次さんもニッコリと笑って頭をワシワシと撫でてくれた。
そして銀次さんは廊下に戻って箱を持って来た。
あの箱がプレゼントだろうか。
「はい、ケーキもちゃんと買って来たよ。あ、これもおまけみたいなものだからプレゼントじゃないけど」
ケーキの箱を渡されて、堪えていた涙は溢れ出した。
「あ……すみません、嬉しくて。ありがとうございます、僕、誕生日を祝ってもらったのは子供の頃以来で、本当に……ありがとうございます」
「喜んでもらえて良かった。じゃあとりあえずケーキは食後にするとして、伊月くんが作ってくれたご飯、食べようか」
「はい」
3人で食卓につくと、ものすごく気まずそうな顔で只野さんが口を開いた。
「誕生日など知らなかった、すまない。これ、私はいない方がいいよな」
「いや、パーティーは人数が多い方が楽しいよね、伊月くん」
「は、はい! もちろんです」
そう答えると、只野さんは明らかにホッとしたような顔をしたのでなんだか面白かった。
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