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銀次さん
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翌日は熱が出て起き上がれないでいた。
だけれど今日は仕事に出られないと伝える手段は何も無い。
まぁ僕がいないことなど誰も気が付かないかもしれないなと、具合が悪い時特有の悪い考えに走ってしまっていた。
「ぁ、でも……水をあげなきゃ」
そう呟いた自分の声はカスカスでまるで老人のようだ。
僕は力を振り絞ってベットから起き上がった。
床に足をつけ立ち上がってみるとフラフラながらも、花壇のところまでくらいなら何とか行けるかなと手に水を汲んだコップを持って移動した。
ドアを開け木々の間のひだまりの中の花壇にむかって歩く。
到着して水をあげると、僕はもう小屋に帰る体力が残っていなかった。
花壇の横の外が見える柵に背中を預けて座った。
意識しなくとも自分が荒い息遣いをしていることが分かる。
「あれ? 君は」
柵の外から声が聞こえて外を見ると、銀次さんが僕を見て固まっていた。
「伊月くん、だったよね。大丈夫かい? この間より痩せているように見えるけど。それに具合が悪そうだ……」
「ぁ……大丈夫です、どうか気にしないで……。それより、すみません。せっかくあなたに頂いた種を2袋無くしてしまったんです」
「無くした?」
銀次さんは訝しげに首を傾げた。
「……はい、すみません。せっかく頂いたのに……、マリーゴールドだけは今育てているんです……。咲いたら、押し花にして渡します、から」
「いいよ、気にしないで。それよりこれを飲んで。ね? 飲みかけだけどごめんね」
そう言って銀次さんは柵越しに蓋を開けたペットボトルを渡してくれた。
「でも」
「いいから。喉が乾いてないと思っても飲んでくれないかい?」
「ぁ、りがとうございます」
銀次さんに促されるまま僕はペットボトルに口をつけた。
ゴクリと1口飲むと、自分は喉が乾いていたんだと気がついた。
スポーツドリンク味で体に染み渡っていく感覚が分かる。
僕はゴクゴクと一気に飲んでしまってペットボトルを空にしてしまった。
「ぁ……すみません! 全部飲んでしまって」
慌てて謝ると銀次さんはふわりと微笑んだ。
「ああ、気にしないで。むしろ飲みかけでごめんね。ちょっと戻ったところに自販機があったからもう1本買ってくるよ」
「いえ! そこまでしていただくわけには。お気持ちだけで、ありがとうございます」
嬉しい申し出だったけれど、この間は種も頂いて、飲み物まで頂いたら僕には返せるものが何もない。
僕が断ると、銀次さんは困ったような顔をして僕の頭を撫でた。
「伊月くんのことが心配なんだよ。ね?」
「でも」
僕がやっぱり断ろうとしていると小屋の方からガサリと音が聞こえ、すぐに人影が現れた。
「そこで何をしている!」
そう声をあげたのは咲夜様だった。
だけれど今日は仕事に出られないと伝える手段は何も無い。
まぁ僕がいないことなど誰も気が付かないかもしれないなと、具合が悪い時特有の悪い考えに走ってしまっていた。
「ぁ、でも……水をあげなきゃ」
そう呟いた自分の声はカスカスでまるで老人のようだ。
僕は力を振り絞ってベットから起き上がった。
床に足をつけ立ち上がってみるとフラフラながらも、花壇のところまでくらいなら何とか行けるかなと手に水を汲んだコップを持って移動した。
ドアを開け木々の間のひだまりの中の花壇にむかって歩く。
到着して水をあげると、僕はもう小屋に帰る体力が残っていなかった。
花壇の横の外が見える柵に背中を預けて座った。
意識しなくとも自分が荒い息遣いをしていることが分かる。
「あれ? 君は」
柵の外から声が聞こえて外を見ると、銀次さんが僕を見て固まっていた。
「伊月くん、だったよね。大丈夫かい? この間より痩せているように見えるけど。それに具合が悪そうだ……」
「ぁ……大丈夫です、どうか気にしないで……。それより、すみません。せっかくあなたに頂いた種を2袋無くしてしまったんです」
「無くした?」
銀次さんは訝しげに首を傾げた。
「……はい、すみません。せっかく頂いたのに……、マリーゴールドだけは今育てているんです……。咲いたら、押し花にして渡します、から」
「いいよ、気にしないで。それよりこれを飲んで。ね? 飲みかけだけどごめんね」
そう言って銀次さんは柵越しに蓋を開けたペットボトルを渡してくれた。
「でも」
「いいから。喉が乾いてないと思っても飲んでくれないかい?」
「ぁ、りがとうございます」
銀次さんに促されるまま僕はペットボトルに口をつけた。
ゴクリと1口飲むと、自分は喉が乾いていたんだと気がついた。
スポーツドリンク味で体に染み渡っていく感覚が分かる。
僕はゴクゴクと一気に飲んでしまってペットボトルを空にしてしまった。
「ぁ……すみません! 全部飲んでしまって」
慌てて謝ると銀次さんはふわりと微笑んだ。
「ああ、気にしないで。むしろ飲みかけでごめんね。ちょっと戻ったところに自販機があったからもう1本買ってくるよ」
「いえ! そこまでしていただくわけには。お気持ちだけで、ありがとうございます」
嬉しい申し出だったけれど、この間は種も頂いて、飲み物まで頂いたら僕には返せるものが何もない。
僕が断ると、銀次さんは困ったような顔をして僕の頭を撫でた。
「伊月くんのことが心配なんだよ。ね?」
「でも」
僕がやっぱり断ろうとしていると小屋の方からガサリと音が聞こえ、すぐに人影が現れた。
「そこで何をしている!」
そう声をあげたのは咲夜様だった。
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