9 / 56
種は
しおりを挟む
僕はコロッケでお腹も満たったし、欲しかった種も手に入れてほくほくな気持ちで屋敷についた。お使いで頼まれた品は食事の当番の方に渡して、ポケットの種の袋を抑えた。何だかこれがあるだけで、お守りみたいに落ち着く。
「何持ってるのよ!」
後ろから梨乃様の声がしてからしまったと思った。
まさかキッチンの近くにいると思わなかった。
「べ、別に。何でもないです」
「何か盗んだんじゃないでしょうね。あなたが食事を抜かれているのはあなたの行いのせいなのよ。ここ何日かは食事もしていないはずなのに何でそんなに動けるのかと思っていたら。盗みを働いていたのね。あなたって本当にクズ」
「そんな……」
「ほら、奪ったものを出しなさいよ」
「僕は何も奪ってなんか」
パチン!
「出しなさいって言ってるのが聞こえないの!!?」
僕の頬を叩いて大きな声を出す梨乃様に茫然と立ち尽くした。
叩かれた頬がジンジンと痛む。
そんな僕のことなどお構いなしに梨乃様は僕のポケットに手を突っ込んで中に入っていた種を2袋取り出した。1袋は靴下の中に入れておいてよかった。でもこんなことなら全部靴下の中に入れておけばよかった。
「あなた……、この家のものならいざ知らず、お店の商品を盗んだの!?」
梨乃様が目を吊り上げてそう言って来た。
「そんな、違います! これは親切な店員さんが僕にくれたもので……。育ったら少しそのお店に持っていくという約束でくださったんです!」
「はっ。そんな言い訳よく思いつくわね。ちっともまともに働かないくせに悪知恵だけは働くのかしら」
腕を組み僕を見てくる梨乃様は何を言っても信じてくれる気はなさそうだった。
「何事だ」
騒ぎを聞きつけたのか旦那様が来た。
そこで梨乃様が勝ち誇ったように旦那様に種の袋を見せた。
「白崎様、この子がお使いに出た隙にお店で盗みを働いたみたいなんです」
「なに?」
旦那様は片眉をあげて下げずむような目で僕を見た。
「僕は盗みなんて……。その種はいただいたんです!」
「そいつはなぜお前に物をやる必要がある」
「分かりません。でも本当にいただいた物なんです。その商店に問い合わせていただけませんか」
「そのようなことをしてお前が盗んでいた場合、白崎家に泥を塗ることになるだろう。お前は1年間外へ出ることを禁止する」
「そんな」
僕は種を2袋を奪われた上に、外へ出る機会も奪われてしまった。
僕を見る梨乃様の顔は悪者を成敗して清々したというような顔だった。
その日小屋に帰る道すがらも僕は涙が止まらなかった。
残った種はマリーゴールド。
でも、もし咲いてもあの人に届けることはできないし、きゅうりやレタスは育てることすらできない。あの人は、僕を泥棒だと思うだろうか。
楽しみにしてると言ってくれたあの人に申し訳なさでいっぱいだった。
「何持ってるのよ!」
後ろから梨乃様の声がしてからしまったと思った。
まさかキッチンの近くにいると思わなかった。
「べ、別に。何でもないです」
「何か盗んだんじゃないでしょうね。あなたが食事を抜かれているのはあなたの行いのせいなのよ。ここ何日かは食事もしていないはずなのに何でそんなに動けるのかと思っていたら。盗みを働いていたのね。あなたって本当にクズ」
「そんな……」
「ほら、奪ったものを出しなさいよ」
「僕は何も奪ってなんか」
パチン!
「出しなさいって言ってるのが聞こえないの!!?」
僕の頬を叩いて大きな声を出す梨乃様に茫然と立ち尽くした。
叩かれた頬がジンジンと痛む。
そんな僕のことなどお構いなしに梨乃様は僕のポケットに手を突っ込んで中に入っていた種を2袋取り出した。1袋は靴下の中に入れておいてよかった。でもこんなことなら全部靴下の中に入れておけばよかった。
「あなた……、この家のものならいざ知らず、お店の商品を盗んだの!?」
梨乃様が目を吊り上げてそう言って来た。
「そんな、違います! これは親切な店員さんが僕にくれたもので……。育ったら少しそのお店に持っていくという約束でくださったんです!」
「はっ。そんな言い訳よく思いつくわね。ちっともまともに働かないくせに悪知恵だけは働くのかしら」
腕を組み僕を見てくる梨乃様は何を言っても信じてくれる気はなさそうだった。
「何事だ」
騒ぎを聞きつけたのか旦那様が来た。
そこで梨乃様が勝ち誇ったように旦那様に種の袋を見せた。
「白崎様、この子がお使いに出た隙にお店で盗みを働いたみたいなんです」
「なに?」
旦那様は片眉をあげて下げずむような目で僕を見た。
「僕は盗みなんて……。その種はいただいたんです!」
「そいつはなぜお前に物をやる必要がある」
「分かりません。でも本当にいただいた物なんです。その商店に問い合わせていただけませんか」
「そのようなことをしてお前が盗んでいた場合、白崎家に泥を塗ることになるだろう。お前は1年間外へ出ることを禁止する」
「そんな」
僕は種を2袋を奪われた上に、外へ出る機会も奪われてしまった。
僕を見る梨乃様の顔は悪者を成敗して清々したというような顔だった。
その日小屋に帰る道すがらも僕は涙が止まらなかった。
残った種はマリーゴールド。
でも、もし咲いてもあの人に届けることはできないし、きゅうりやレタスは育てることすらできない。あの人は、僕を泥棒だと思うだろうか。
楽しみにしてると言ってくれたあの人に申し訳なさでいっぱいだった。
21
お気に入りに追加
657
あなたにおすすめの小説


白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。


ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる