僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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種は

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僕はコロッケでお腹も満たったし、欲しかった種も手に入れてほくほくな気持ちで屋敷についた。お使いで頼まれた品は食事の当番の方に渡して、ポケットの種の袋を抑えた。何だかこれがあるだけで、お守りみたいに落ち着く。

「何持ってるのよ!」

後ろから梨乃様の声がしてからしまったと思った。
まさかキッチンの近くにいると思わなかった。

「べ、別に。何でもないです」
「何か盗んだんじゃないでしょうね。あなたが食事を抜かれているのはあなたの行いのせいなのよ。ここ何日かは食事もしていないはずなのに何でそんなに動けるのかと思っていたら。盗みを働いていたのね。あなたって本当にクズ」
「そんな……」
「ほら、奪ったものを出しなさいよ」
「僕は何も奪ってなんか」

パチン!

「出しなさいって言ってるのが聞こえないの!!?」

僕の頬を叩いて大きな声を出す梨乃様に茫然と立ち尽くした。
叩かれた頬がジンジンと痛む。
そんな僕のことなどお構いなしに梨乃様は僕のポケットに手を突っ込んで中に入っていた種を2袋取り出した。1袋は靴下の中に入れておいてよかった。でもこんなことなら全部靴下の中に入れておけばよかった。

「あなた……、この家のものならいざ知らず、お店の商品を盗んだの!?」

梨乃様が目を吊り上げてそう言って来た。

「そんな、違います! これは親切な店員さんが僕にくれたもので……。育ったら少しそのお店に持っていくという約束でくださったんです!」
「はっ。そんな言い訳よく思いつくわね。ちっともまともに働かないくせに悪知恵だけは働くのかしら」

腕を組み僕を見てくる梨乃様は何を言っても信じてくれる気はなさそうだった。

「何事だ」

騒ぎを聞きつけたのか旦那様が来た。
そこで梨乃様が勝ち誇ったように旦那様に種の袋を見せた。

「白崎様、この子がお使いに出た隙にお店で盗みを働いたみたいなんです」
「なに?」

旦那様は片眉をあげて下げずむような目で僕を見た。

「僕は盗みなんて……。その種はいただいたんです!」
「そいつはなぜお前に物をやる必要がある」
「分かりません。でも本当にいただいた物なんです。その商店に問い合わせていただけませんか」
「そのようなことをしてお前が盗んでいた場合、白崎家に泥を塗ることになるだろう。お前は1年間外へ出ることを禁止する」
「そんな」

僕は種を2袋を奪われた上に、外へ出る機会も奪われてしまった。
僕を見る梨乃様の顔は悪者を成敗して清々したというような顔だった。

その日小屋に帰る道すがらも僕は涙が止まらなかった。
残った種はマリーゴールド。
でも、もし咲いてもあの人に届けることはできないし、きゅうりやレタスは育てることすらできない。あの人は、僕を泥棒だと思うだろうか。
楽しみにしてると言ってくれたあの人に申し訳なさでいっぱいだった。
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