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種とコロッケ
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僕が梨乃さまからよく思われていないことは確実だった。
梨乃様はことあるごとに僕を呼び出して難癖をつけて罰則を与えた。
でも、そもそもが給料をもらっていない身なので減給と言うわけにはいかずに、食事抜きとされることが多くなった。
旦那様もおばさまも、その方が都合がいいというようにそれを見逃して僕の体重は日に日に落ちていった。類くんに咲夜さまの様子を聞くと、落ち込んでいた日々も終わって最近は旦那様から仕事を増やされたらしく、帰ってくる頃はくたくたな様子らしい。
僕が少しでも咲夜様の目の入りそうな範囲にいると、梨乃様が癇癪を起こすので僕はもっぱら裏の仕事に回った。
ベットメイキングをしたり、食器を洗ったり空き部屋の清掃をしたりといった作業だ。
でも、まともに食事をもらえていない状況ではうまく働けない。
類くんがたまに梨乃様たちの目を盗んでくれるおにぎりやパンを食べて何とかやっていけている状況だった。
「あなたガリガリすぎて気持ち悪いわ。よくそんなので咲夜様に媚が売れるわね」
「僕は媚びなんて」
「なに? 言い訳」
「いえ……でも、最近はお会いする機会もないですから梨乃様が不安に思うことはなにも」
そう言うと梨乃様は目の前にあったテーブルの上のグラスを払い落とした。
ガシャーン!!
「何、何なの!? 私があなた如きを警戒して不安になっているとでも!? 失礼なことを言うのはやめて頂戴。とにかく咲夜様は私のものなの! あなた目障りなのよ!!」
そう言って怒って出ていってしまった。
僕は梨乃様が割ったグラスを片付けて仕事に戻った。
そのあとは買い物を言いつけられて、僕は街へ向かった。
通りがかった小さな商店の入り口に1袋100円のいろいろな種類の花や野菜の種が売ってあった。1つ100円と言えども僕には買うお金はない。
でももしも花と野菜の種も変えたら、華やかになって、お腹も満たせてとてもいいのに。
「何かお探しですか?」
僕があんまりにも凝視しているものだから、店の人が出て来てしまった。
でも失礼だけど、この店の店員と言うにはあまりにもきっちりしたスーツを着ているし、綺麗な整った顔をしているし、少し萎縮してしまった。
「あ、あの。僕、ちょっと見てただけで、何か探しているとかでは。すみません! 失礼します!」
「あ、ねぇ。ちょっと待って」
急いでその場を去ろうとしたのがあまりにも怪しすぎたのか呼び止められてしまった。
「は、はい。何でしょう」
「これの中だったらどれが一番欲しいの?」
「え?」
「この種のどれをそんなに真剣に見てたの?」
「あ、えっと。どれと言うか……、もう少ししたら春になるし種を植えるならきゅうりとかレタスとかあとはマリーゴールドとか……ですかね」
そう言うと店員さんはきゅうりとレタスとマリーゴールドの種の袋をとってはいこれと僕に渡して来た。
「あ、あの。すみません……僕お金ないんです。なのでこれは……」
「ああ。それあげるからいいよ」
「いえ! そんなわけには!!」
「あ~。じゃあさ、それを育てたら少し俺に頂戴よ。この店に持って来て。ね?」
そう言った声はとても優しくて暖かかった。
「いいんですか……?」
「もちろん。楽しみにしてるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「あ、それとさ、これさっき貰ったんだけど俺これ苦手でさ、食べてもらえないかな?」
「え」
渡されたのは白い紙袋に入った揚げ物でまだ暖かい。
「ささ、食べて食べて。あったかいうちに」
「えっと、ありがとうございます」
そう言ってパクリとかぶりつくとサクっとした衣の中からジュワッと肉汁が出て来て涙が出るほどおいしいコロッケだった。
「君、名前は何て言うの?」
「僕は……伊月と言います。お兄さんは……?」
「ん? 俺は佐渡銀次だよ。かる~く銀次って呼んで」
「銀次さん……、あの本当にありがとうございました!」
「うん」
そうして僕はお使いも済ませて屋敷に戻った。
梨乃様はことあるごとに僕を呼び出して難癖をつけて罰則を与えた。
でも、そもそもが給料をもらっていない身なので減給と言うわけにはいかずに、食事抜きとされることが多くなった。
旦那様もおばさまも、その方が都合がいいというようにそれを見逃して僕の体重は日に日に落ちていった。類くんに咲夜さまの様子を聞くと、落ち込んでいた日々も終わって最近は旦那様から仕事を増やされたらしく、帰ってくる頃はくたくたな様子らしい。
僕が少しでも咲夜様の目の入りそうな範囲にいると、梨乃様が癇癪を起こすので僕はもっぱら裏の仕事に回った。
ベットメイキングをしたり、食器を洗ったり空き部屋の清掃をしたりといった作業だ。
でも、まともに食事をもらえていない状況ではうまく働けない。
類くんがたまに梨乃様たちの目を盗んでくれるおにぎりやパンを食べて何とかやっていけている状況だった。
「あなたガリガリすぎて気持ち悪いわ。よくそんなので咲夜様に媚が売れるわね」
「僕は媚びなんて」
「なに? 言い訳」
「いえ……でも、最近はお会いする機会もないですから梨乃様が不安に思うことはなにも」
そう言うと梨乃様は目の前にあったテーブルの上のグラスを払い落とした。
ガシャーン!!
「何、何なの!? 私があなた如きを警戒して不安になっているとでも!? 失礼なことを言うのはやめて頂戴。とにかく咲夜様は私のものなの! あなた目障りなのよ!!」
そう言って怒って出ていってしまった。
僕は梨乃様が割ったグラスを片付けて仕事に戻った。
そのあとは買い物を言いつけられて、僕は街へ向かった。
通りがかった小さな商店の入り口に1袋100円のいろいろな種類の花や野菜の種が売ってあった。1つ100円と言えども僕には買うお金はない。
でももしも花と野菜の種も変えたら、華やかになって、お腹も満たせてとてもいいのに。
「何かお探しですか?」
僕があんまりにも凝視しているものだから、店の人が出て来てしまった。
でも失礼だけど、この店の店員と言うにはあまりにもきっちりしたスーツを着ているし、綺麗な整った顔をしているし、少し萎縮してしまった。
「あ、あの。僕、ちょっと見てただけで、何か探しているとかでは。すみません! 失礼します!」
「あ、ねぇ。ちょっと待って」
急いでその場を去ろうとしたのがあまりにも怪しすぎたのか呼び止められてしまった。
「は、はい。何でしょう」
「これの中だったらどれが一番欲しいの?」
「え?」
「この種のどれをそんなに真剣に見てたの?」
「あ、えっと。どれと言うか……、もう少ししたら春になるし種を植えるならきゅうりとかレタスとかあとはマリーゴールドとか……ですかね」
そう言うと店員さんはきゅうりとレタスとマリーゴールドの種の袋をとってはいこれと僕に渡して来た。
「あ、あの。すみません……僕お金ないんです。なのでこれは……」
「ああ。それあげるからいいよ」
「いえ! そんなわけには!!」
「あ~。じゃあさ、それを育てたら少し俺に頂戴よ。この店に持って来て。ね?」
そう言った声はとても優しくて暖かかった。
「いいんですか……?」
「もちろん。楽しみにしてるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「あ、それとさ、これさっき貰ったんだけど俺これ苦手でさ、食べてもらえないかな?」
「え」
渡されたのは白い紙袋に入った揚げ物でまだ暖かい。
「ささ、食べて食べて。あったかいうちに」
「えっと、ありがとうございます」
そう言ってパクリとかぶりつくとサクっとした衣の中からジュワッと肉汁が出て来て涙が出るほどおいしいコロッケだった。
「君、名前は何て言うの?」
「僕は……伊月と言います。お兄さんは……?」
「ん? 俺は佐渡銀次だよ。かる~く銀次って呼んで」
「銀次さん……、あの本当にありがとうございました!」
「うん」
そうして僕はお使いも済ませて屋敷に戻った。
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