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婚約者?
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咲夜様に正式に婚約者があてがわれたのはそれからすぐのことだった。
僕が旦那様に呼ばれて旦那様の部屋にいくとおばさまも居た。
「咲夜の婚約者が決まった」
旦那様は嬉しそうにそう言った。
「お、おめでとうございます」
僕がそう言うと2人とも満足そうに頷いた。
でも、美香様はどうなるんだろう。
咲夜様は美香様が見つかって笑顔を取り戻しているのに、結婚なんてできるんだろうか。
そうひと事のように考えてからそんな心配をしている場合ではないことを思い出した。
「ついては、お前の役割はなくなった。昨夜との行為をすぐにやめてもらおうか。幸い、お前はまだ妊娠していないんだろう? ならこのままここで働くことは許してやろう」
「え」
「子供ができていたら相続争いの種になるから追い出すつもりだったが、できていないならここにいても良いと言っているんだ。どうした? 感謝するところではないのか」
「あ……、えっと。温情をありがとうございます」
僕はかろうじてそれだけ言えた。
何日かして、咲夜様と結婚することになった女性が屋敷にやってきた。
ここで花嫁修行をするらしい。
「い、伊月と申します。よろしくお願いいたします」
使用人も集められて一人一人自己紹介させられ、僕も挨拶をした。
他の使用人の時には笑顔で聞いていた彼女は僕の時だけ目が笑っていないように見えた。
「そう、伊月……よろしくね」
そう言った言葉だけは優しく聞こえた。
旦那様もおばさまも逃げられちゃいけないと思っているのか咲夜様の婚約者……梨乃様にとても優しく接していた。
咲夜様は婚約者が来たと言うのに僕をまだ抱こうとした。
「や、やめてください! 咲夜様にはもう梨乃さまがいらっしゃるでしょう!?」
「俺にはお前だけなんだよ。親父もお袋も俺の言うことを聞かないで婚約者なんて勝手に言ってるだけだ。俺には伊月だけなんだ!」
そう告げる咲夜様は真剣な顔をしていた。
僕はそこから逃げ出した。
そこからすぐの廊下の角で梨乃様にぶつかってしまった。
「きゃっ!」
「り、梨乃様、申し訳ありません!」
もしかして話を聞かれたのだろうか?
不安に思っていると梨乃様が不快そうに言った。
「何をしていらっしゃるの? あなたは咲夜様の離れには今日から立ち入り禁止だと伺ったのだけど」
「え……すみません。そうなんですか?」
「白々しいわね。いいから早く出て行きなさい」
そして僕は追い出された。
そうか、もう僕はここには立ち入り禁止になったのか。
まぁ旦那様の立場で考えたら当然だよな。
僕はそのまま自分の割り当てられた部屋に戻った。
でも部屋の中には何もなかった。
「え」
「どうした?」
後を振り返ると旦那様がいた。
「あの、旦那様、僕の部屋が……」
「ああ。それなら敷地の外れにある小屋に移動させておいた。咲夜の部屋から一番遠いところだ。梨乃さんも我が家に来られたのに万が一にでも間違いがあっては困るだろう?」
有無を言わせない旦那様の言葉に僕はただ“はい”と力なく返事をするしかできなかった。
旦那様に言われた場所を探して外に出て敷地内を歩く。
そして見つけたのは本当に小さな小屋だった。
僕たちが小さい時にもこんな小屋を見たことはない。
広い咲夜様の家の敷地の端っこの端っこだった。
渡された鍵を使って中に入ると僕の荷物が既に入っていた。
僕が旦那様に呼ばれて旦那様の部屋にいくとおばさまも居た。
「咲夜の婚約者が決まった」
旦那様は嬉しそうにそう言った。
「お、おめでとうございます」
僕がそう言うと2人とも満足そうに頷いた。
でも、美香様はどうなるんだろう。
咲夜様は美香様が見つかって笑顔を取り戻しているのに、結婚なんてできるんだろうか。
そうひと事のように考えてからそんな心配をしている場合ではないことを思い出した。
「ついては、お前の役割はなくなった。昨夜との行為をすぐにやめてもらおうか。幸い、お前はまだ妊娠していないんだろう? ならこのままここで働くことは許してやろう」
「え」
「子供ができていたら相続争いの種になるから追い出すつもりだったが、できていないならここにいても良いと言っているんだ。どうした? 感謝するところではないのか」
「あ……、えっと。温情をありがとうございます」
僕はかろうじてそれだけ言えた。
何日かして、咲夜様と結婚することになった女性が屋敷にやってきた。
ここで花嫁修行をするらしい。
「い、伊月と申します。よろしくお願いいたします」
使用人も集められて一人一人自己紹介させられ、僕も挨拶をした。
他の使用人の時には笑顔で聞いていた彼女は僕の時だけ目が笑っていないように見えた。
「そう、伊月……よろしくね」
そう言った言葉だけは優しく聞こえた。
旦那様もおばさまも逃げられちゃいけないと思っているのか咲夜様の婚約者……梨乃様にとても優しく接していた。
咲夜様は婚約者が来たと言うのに僕をまだ抱こうとした。
「や、やめてください! 咲夜様にはもう梨乃さまがいらっしゃるでしょう!?」
「俺にはお前だけなんだよ。親父もお袋も俺の言うことを聞かないで婚約者なんて勝手に言ってるだけだ。俺には伊月だけなんだ!」
そう告げる咲夜様は真剣な顔をしていた。
僕はそこから逃げ出した。
そこからすぐの廊下の角で梨乃様にぶつかってしまった。
「きゃっ!」
「り、梨乃様、申し訳ありません!」
もしかして話を聞かれたのだろうか?
不安に思っていると梨乃様が不快そうに言った。
「何をしていらっしゃるの? あなたは咲夜様の離れには今日から立ち入り禁止だと伺ったのだけど」
「え……すみません。そうなんですか?」
「白々しいわね。いいから早く出て行きなさい」
そして僕は追い出された。
そうか、もう僕はここには立ち入り禁止になったのか。
まぁ旦那様の立場で考えたら当然だよな。
僕はそのまま自分の割り当てられた部屋に戻った。
でも部屋の中には何もなかった。
「え」
「どうした?」
後を振り返ると旦那様がいた。
「あの、旦那様、僕の部屋が……」
「ああ。それなら敷地の外れにある小屋に移動させておいた。咲夜の部屋から一番遠いところだ。梨乃さんも我が家に来られたのに万が一にでも間違いがあっては困るだろう?」
有無を言わせない旦那様の言葉に僕はただ“はい”と力なく返事をするしかできなかった。
旦那様に言われた場所を探して外に出て敷地内を歩く。
そして見つけたのは本当に小さな小屋だった。
僕たちが小さい時にもこんな小屋を見たことはない。
広い咲夜様の家の敷地の端っこの端っこだった。
渡された鍵を使って中に入ると僕の荷物が既に入っていた。
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