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ーー8年後ーー

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ーー8年後ーー

「龍介。俺の名字になってくれないか」

場所は初めてデートした遊園地で、綺麗な花火が上がっている最中に吉宗さんが真剣な眼差しでそう言ってきた。
手には指輪の入った箱を持っていて少しだけ手が震えてた。

「……俺でいいんですか」
「龍介がいい。俺の戸籍に入ってくれるか?」
「はい」

返事をすると同時に涙が溢れてきた。
吉宗さんは俺の手を取って優しく指輪をはめてくれてから俺の涙を拭ってくれた。

2人とも高校を卒業して、男しかいない場所を出たら吉宗さんはきっと俺を捨てると思ったこともあったけど、高校を卒業して7年たった今も変わらず愛してくれた。

俺の実家は後を継ぐ優秀な兄が2人もいて、俺が吉宗さんの戸籍に入るのに迷う気持ちは1つもなかった。

吉宗さんは一人っ子で吉宗さんのご両親は大財閥の社長だけど、イメージと違って全然高圧的じゃなくて、俺が吉宗さんの戸籍に入るのを心から喜んでくれた。
俺が家族仲が良好じゃないことを告げたら、自分たちのことを本当の親だと思って接してくれていいと言ってくれて、本当に甘やかしてくれている。

そんなご両親に報いようと俺も必死に仕事を覚えて会社を一つ任せてもらえるようになった。

そんな折、俺の両親から連絡があった。

「龍介。お前はやればできる子だと思っていたよ」

父がそう言った。
母は横で澄ました顔をして黙っていた。

「はあ」
「なんだその気の抜けた返事は」
「いえ。随分久しぶりに見るお顔でしたので。今日はどういったご用件でしょうか」

俺がそう言うと、父はプルプル震え出した。

「どうしたの? そんな他人行儀な言葉遣いで。この子ったら拗ねているのかしら」

オホホと母が笑う。

「拗ねる? 何をですか?」
「子供の頃はあなたにあまり構ってあげられなかったでしょう? だからあなたは今子供みたいに拗ねてるの。こんな立派な会社の社長になっているものだから、もっと大人になっているかと思っていたわ。お兄ちゃんたちを見習って欲しいわね」

俺はそれを聞いて腹の底から面白くなった。

「会社を潰した兄たちを? そんな人たちを見習ったら俺の任されたこの会社も潰れてしまう」
「お前!!! 自分の兄のことを悪くいいおって!! でき底ないの三男坊のくせに!!」
「父さん。落ち着いてください。ここはあなたの会社でも……ましてや家でもないんですよ。節度を持ってお話しください」

俺がそう言うと父は顔を真っ赤にして俺に殴りかかろうとしてきた。

「龍介!!」

その時社長室のドアが開いて吉宗さんが飛び込んできた。
ああ、何だかこの光景は既視感があるな。
やっぱり吉宗さんは変わらない。
変わらず俺を愛してくれる。
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