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親衛隊
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「龍、食べたいものが決まったら券売機に、この入学式で配られたリストバンドをかざすんだよ。そしたら券が出てくるから」
「へぇ。便利だな」
「でしょ? 月末になったら合計金額が親御さんの通帳から落とされることになってるんだけど、成績が優秀だったりすると全額免除、なんてこともあるらしいよ」
「まじ?」
「まじまじ」
「すげぇ」
俺はとりあえずカレーうどんを注文して列に並んだ。それからカレーうどんを受け取って食堂内を見渡すと遠くの方の席で和葉が手を振ってくれていた。
「席あってよかったね」
「うん。とっててくれてありがとう」
カレーうどんを食べ始めると可愛らしい男子の集団が俺の近くに来た。
「あっ、あのっ」
「ん? 俺?」
「はいっ、外部生の石平さんですよね?」
「え、うん。そうだけど」
「僕たち、お願いがあってきたんですっ」
「え、俺に?」
急に話しかけられて、急にお願いがあると言われてびっくりしていると、横から和葉が口を挟んできた。
「龍! 彼らのお願いは聞かなくていいんだよ。というか聞かない方がいい」
「斎藤さん! 邪魔しないでくださいっ」
それから和葉と集団がいい争いを始めた。
「ちょっと和葉。俺は話を聞くだけでもしたいよ」
「龍! ダメだよ。だって彼らは外部生で何にも分からない龍に嫌な役回りを押し付けようとしてるんだっ」
「和葉、よく分からないけど、俺のために怒ってくれてありがとう。でもこの子たちが困っていることがあるなら、俺は話を聞くくらいはしたいんだ。それからお願いを聞くかどうかはちゃんと考えるから。ね?」
「……龍がそう言うなら」
和葉は渋々と言った体で引いてくれた。
「で、俺にお願いって?」
彼らに向き直って聞くと彼らは頬を染めた。
「あ、えっと、僕たち、生徒会長様の親衛隊で、石平さんに親衛隊長をお願いしたいんですっ」
「俺が? なんで? 親衛隊とかってよく分からないけどそう言うのってその生徒会長? のことが好きな人が隊長をやるもんなんじゃないの?」
「それが……」
その男の子が言い淀むと和葉が横から教えてくれた。
「生徒会長はゲイとかバイとか超嫌ってんのさ! だから親衛隊を嫌ってる。その最たる親衛隊長なんかになったら、生徒会長から、もうとんでもなく嫌われるポジションになっちゃうんだよ」
「へぇ。え? そんな嫌われるのに、なんで君たち親衛隊なんか入ってるの? 親衛隊だと嫌われちゃうんでしょ?」
「生徒会長様が好きだからですっ、かっこよくて、優しくて。でも親衛隊に入ってないとお話しする機会もないから」
親衛隊員たちは悲しそうな顔をしてそう言った。
「親衛隊に入ってると話す機会があるってこと?」
「はいっ、1ヶ月に1回、お茶会があるんです。親衛隊がある生徒はそれに参加しなければならない決まりがあって。だから僕たちのことを嫌いな生徒会長様もお茶会に参加してくださるんです」
「へぇ。親衛隊を持ってんのも難儀なんだね」
俺がそう言うと和葉はやれやれといった風に首を竦めた。
「なんもしないと暴走する生徒が出てくるからね。お茶会がなかった頃はそりゃもう争い事が絶えなかったらしいよ。まぁ、今も無いと言ったら嘘になると思うけど」
「へぇ」
「あの」
親衛隊員たちは俺の反応を伺ってビクビクとしていて何だかかわいそうに思えてきた。
叔父さんの教え第一箇条、“情けは人の為ならず”だよな。
「分かった。引き受けるよ」
「本当ですか!!」
「ちょっと龍」
親衛隊員たちは嬉しそうに、和葉は心配そうにしていた。
「俺、まだ生徒会長の顔も見たことないけどそれでもいいの?」
「はいっ、お願いしますっ!」
そう言うことで俺の親衛隊長への就任が決まった。
「本当に大丈夫なの?」
親衛隊員たちが離れて行ってからすっかりと冷めてデロンデロンに伸びきったカレーうどんを食べていると和葉が心配そうに聞いてきた。
「まぁ。俺は生徒会長を見たことないし、好きになんなきゃ嫌われたって別にいいんじゃないかな」
「好きになっちゃったらどうするのさ」
「俺まだ人を好きになったことないんだ。だから想像もできないんだけど。でも、彼らは生徒会長のことが好きなんだろ? 好きな人に嫌われたりすんのは悲しいと思うから、好きじゃない俺がやんのが一番いいだろ」
「答えになってないよ。龍が会長を好きになっちゃったらどうすんのさ」
「好きになっちゃったりはしないと思うけど、そん時になってみないと分からんないな」
「もし、好きになっちゃったら僕に言ってよね。親衛隊長なんてすぐに辞めさせるから」
「はは。和葉は本当にいいやつなんだね。俺、和葉が同じクラスで良かったよ」
「……もう。しょうがないから僕も親衛隊に入ることにするよ」
「えっ、それは悪いよ」
「いいんだよ。僕がやりたいんだから」
「でも、和葉は女の子が好きなんだろ? 親衛隊に入っても楽しくないんじゃない?」
「友達が大変な思いをするかも知れないのに放っておけないでしょ」
ムッと頬を膨らませてそう言う和葉は本当にいいやつだ。
「ありがとう、和葉」
「うむ!」
「ははっ、なんだよそれ」
「へぇ。便利だな」
「でしょ? 月末になったら合計金額が親御さんの通帳から落とされることになってるんだけど、成績が優秀だったりすると全額免除、なんてこともあるらしいよ」
「まじ?」
「まじまじ」
「すげぇ」
俺はとりあえずカレーうどんを注文して列に並んだ。それからカレーうどんを受け取って食堂内を見渡すと遠くの方の席で和葉が手を振ってくれていた。
「席あってよかったね」
「うん。とっててくれてありがとう」
カレーうどんを食べ始めると可愛らしい男子の集団が俺の近くに来た。
「あっ、あのっ」
「ん? 俺?」
「はいっ、外部生の石平さんですよね?」
「え、うん。そうだけど」
「僕たち、お願いがあってきたんですっ」
「え、俺に?」
急に話しかけられて、急にお願いがあると言われてびっくりしていると、横から和葉が口を挟んできた。
「龍! 彼らのお願いは聞かなくていいんだよ。というか聞かない方がいい」
「斎藤さん! 邪魔しないでくださいっ」
それから和葉と集団がいい争いを始めた。
「ちょっと和葉。俺は話を聞くだけでもしたいよ」
「龍! ダメだよ。だって彼らは外部生で何にも分からない龍に嫌な役回りを押し付けようとしてるんだっ」
「和葉、よく分からないけど、俺のために怒ってくれてありがとう。でもこの子たちが困っていることがあるなら、俺は話を聞くくらいはしたいんだ。それからお願いを聞くかどうかはちゃんと考えるから。ね?」
「……龍がそう言うなら」
和葉は渋々と言った体で引いてくれた。
「で、俺にお願いって?」
彼らに向き直って聞くと彼らは頬を染めた。
「あ、えっと、僕たち、生徒会長様の親衛隊で、石平さんに親衛隊長をお願いしたいんですっ」
「俺が? なんで? 親衛隊とかってよく分からないけどそう言うのってその生徒会長? のことが好きな人が隊長をやるもんなんじゃないの?」
「それが……」
その男の子が言い淀むと和葉が横から教えてくれた。
「生徒会長はゲイとかバイとか超嫌ってんのさ! だから親衛隊を嫌ってる。その最たる親衛隊長なんかになったら、生徒会長から、もうとんでもなく嫌われるポジションになっちゃうんだよ」
「へぇ。え? そんな嫌われるのに、なんで君たち親衛隊なんか入ってるの? 親衛隊だと嫌われちゃうんでしょ?」
「生徒会長様が好きだからですっ、かっこよくて、優しくて。でも親衛隊に入ってないとお話しする機会もないから」
親衛隊員たちは悲しそうな顔をしてそう言った。
「親衛隊に入ってると話す機会があるってこと?」
「はいっ、1ヶ月に1回、お茶会があるんです。親衛隊がある生徒はそれに参加しなければならない決まりがあって。だから僕たちのことを嫌いな生徒会長様もお茶会に参加してくださるんです」
「へぇ。親衛隊を持ってんのも難儀なんだね」
俺がそう言うと和葉はやれやれといった風に首を竦めた。
「なんもしないと暴走する生徒が出てくるからね。お茶会がなかった頃はそりゃもう争い事が絶えなかったらしいよ。まぁ、今も無いと言ったら嘘になると思うけど」
「へぇ」
「あの」
親衛隊員たちは俺の反応を伺ってビクビクとしていて何だかかわいそうに思えてきた。
叔父さんの教え第一箇条、“情けは人の為ならず”だよな。
「分かった。引き受けるよ」
「本当ですか!!」
「ちょっと龍」
親衛隊員たちは嬉しそうに、和葉は心配そうにしていた。
「俺、まだ生徒会長の顔も見たことないけどそれでもいいの?」
「はいっ、お願いしますっ!」
そう言うことで俺の親衛隊長への就任が決まった。
「本当に大丈夫なの?」
親衛隊員たちが離れて行ってからすっかりと冷めてデロンデロンに伸びきったカレーうどんを食べていると和葉が心配そうに聞いてきた。
「まぁ。俺は生徒会長を見たことないし、好きになんなきゃ嫌われたって別にいいんじゃないかな」
「好きになっちゃったらどうするのさ」
「俺まだ人を好きになったことないんだ。だから想像もできないんだけど。でも、彼らは生徒会長のことが好きなんだろ? 好きな人に嫌われたりすんのは悲しいと思うから、好きじゃない俺がやんのが一番いいだろ」
「答えになってないよ。龍が会長を好きになっちゃったらどうすんのさ」
「好きになっちゃったりはしないと思うけど、そん時になってみないと分からんないな」
「もし、好きになっちゃったら僕に言ってよね。親衛隊長なんてすぐに辞めさせるから」
「はは。和葉は本当にいいやつなんだね。俺、和葉が同じクラスで良かったよ」
「……もう。しょうがないから僕も親衛隊に入ることにするよ」
「えっ、それは悪いよ」
「いいんだよ。僕がやりたいんだから」
「でも、和葉は女の子が好きなんだろ? 親衛隊に入っても楽しくないんじゃない?」
「友達が大変な思いをするかも知れないのに放っておけないでしょ」
ムッと頬を膨らませてそう言う和葉は本当にいいやつだ。
「ありがとう、和葉」
「うむ!」
「ははっ、なんだよそれ」
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