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千秋は、お腹を撫でながら不安な気持ちを抱えていた。
あんなに欲しかった子供で、生まれてくるのを楽しみにしているし、ベビーグッズも四宮と共に買い漁った。
けれども、どうしてだか不安は尽きない。
もしもお腹の中にいる子が、千秋と同じでオメガだったら……ちゃんと晴臣は愛してくれるだろうか。いや、晴臣はちゃんと愛してくれるはずだ。そう思う。けれども、千秋自身はちゃんと子供を愛することができるだろうか。千秋は愛されないで育った。だから子をちゃんと愛して育てることができるのかが不安だった。
千秋が不安を隠すように明るく振る舞っても、なぜだか四宮はそれに気がついて、いつも寄り添ってくれる。それでもどうしても不安な気持ちは拭えなかった。
けれど、ある日、懐かしい顔を見た。
千秋が知っているよりも歳をとり、結衣斗が居なくなってからの時間を感じさせる見た目になった、その人たちは結衣斗の両親だ。
2人がいるのに気がついて、千秋は四宮との買い物中であることを忘れ、立ち止まり、ただただ2人を凝視した。
結衣斗だった頃、体が弱くて自宅よりも病院にいることの多かった結衣斗だけれど、2人は結衣斗を愛してくれた。誕生日には一緒にお祝いをしてくれたし、一緒にケーキを食べてくれた。暖かくて優しい家庭だった。
きっと結衣斗が死んだ時、2人はとても悲しんでくれたはず。
だけど今は、ちゃんと前をむいて2人で生活しているんだろうと思ったら、千秋は暖かいものが心に満たされるように、不思議と心が軽くなった。
それから心配そうに千秋に声をかけた四宮の声で、千秋は我に返って四宮に笑いかけた。
屋敷に帰ってから、千秋は結衣斗の両親に向けて出す予定のない手紙を書いた。
先立ってしまったことを謝り、それでも2人の息子に生まれてとても幸せだったことを書いて、結衣斗だった時は照れて素直に言えなかったような2人の好きなところも、体調の良い時に連れて行ってもらった思い出の場所も、全部書き連ねて、そして分厚い手紙の束を封筒に入れて封をした。
「晴臣、僕行きたいところがあるんだけど」
「んー? どこに行きたいの?」
四宮が優しく微笑んで、聞いてくれる。
「結衣斗の、お墓」
「……そっか。じゃあ行こうか」
何か聞かれるかもと思って身構えていた千秋は、四宮の言葉に呆気にとられた。
「なんでか聞かないの?」
「聞かないよ。もちろん、千秋が話したくなったらいつだってなんだって聞くけどね」
さっぱりとした返答をされて、千秋はホッと息をついた。
四宮に、今更話したくないわけじゃない。前ならともかく、今は四宮に信じてもらえないと思っているわけでもない。
けれども、何から話せばいいのか、千秋の頭ではまだまとまっていなかったから。
「じゃあ、次の休みの日にでも行こうか」
「うん。ありがとう」
そうして、次の四宮の休みの日、千秋と四宮は結衣斗の墓に訪れた。
千秋も、結衣斗だった頃、ここに墓参りに来たことがある。
綺麗に掃除されていて、備えてある花は造花ではなく綺麗な生花だ。
定期的にお墓参りに来ていることが一目でわかった。
四宮が先に線香をあげて手を合わせて、それから千秋が線香をあげた。
四宮は何かを察して気を使ってくれたのか、先に車に戻っておくと言って去って行った。
千秋は静かに墓を開け、骨壺が並ぶスペースの奥に隠すように手紙を入れた。
そうして何かを成し遂げたような気持ちになって、千秋は四宮の待つ車に戻った。
その半年後、千秋は無事に元気な男の子を出産した。
出産は、流石に屋敷では出来なかったので、泉から紹介された産婦人科で出産した。
顔の大体の雰囲気は千秋で、目元は四宮に似ている子だ。
第二性はまだ検査していない。
でもきっとこの子がどの性別でも千秋の愛も、四宮の愛も変わらないのだろうと、千秋は確信している。
だって可愛くて可愛くてしかたないのだから。
「千秋、頑張ったね。ありがとう」
「……うん」
四宮は、変わらず優しく微笑みかけてくれる。
「昭仁……ほら、ご飯だぞ」
四宮がつけた赤子の名前は、漢字は違ったが千秋にちなんでいた。
千秋はそれがなんだか照れ臭い。
四宮はそんな事は気にせずに、昭仁を抱いて哺乳瓶でミルクを飲ませ始めた。
昭仁も嫌がったりせず素直に飲み始めて可愛らしい。
千秋が、昭仁の紅葉のような手に指を置くとギュッと握ってくれた。
「ふふ、僕、赤ちゃんにこれ、やってみたかったんだ」
「ああ、分かる。信頼されてるみたいな気になるよな」
「うん。それに、ちゃんと生きてるなって実感する」
「そうか」
千秋の指を力強く握りながらも、昭仁は、ミルクを飲むのに必死で、それもまた可愛かった。
あんなに欲しかった子供で、生まれてくるのを楽しみにしているし、ベビーグッズも四宮と共に買い漁った。
けれども、どうしてだか不安は尽きない。
もしもお腹の中にいる子が、千秋と同じでオメガだったら……ちゃんと晴臣は愛してくれるだろうか。いや、晴臣はちゃんと愛してくれるはずだ。そう思う。けれども、千秋自身はちゃんと子供を愛することができるだろうか。千秋は愛されないで育った。だから子をちゃんと愛して育てることができるのかが不安だった。
千秋が不安を隠すように明るく振る舞っても、なぜだか四宮はそれに気がついて、いつも寄り添ってくれる。それでもどうしても不安な気持ちは拭えなかった。
けれど、ある日、懐かしい顔を見た。
千秋が知っているよりも歳をとり、結衣斗が居なくなってからの時間を感じさせる見た目になった、その人たちは結衣斗の両親だ。
2人がいるのに気がついて、千秋は四宮との買い物中であることを忘れ、立ち止まり、ただただ2人を凝視した。
結衣斗だった頃、体が弱くて自宅よりも病院にいることの多かった結衣斗だけれど、2人は結衣斗を愛してくれた。誕生日には一緒にお祝いをしてくれたし、一緒にケーキを食べてくれた。暖かくて優しい家庭だった。
きっと結衣斗が死んだ時、2人はとても悲しんでくれたはず。
だけど今は、ちゃんと前をむいて2人で生活しているんだろうと思ったら、千秋は暖かいものが心に満たされるように、不思議と心が軽くなった。
それから心配そうに千秋に声をかけた四宮の声で、千秋は我に返って四宮に笑いかけた。
屋敷に帰ってから、千秋は結衣斗の両親に向けて出す予定のない手紙を書いた。
先立ってしまったことを謝り、それでも2人の息子に生まれてとても幸せだったことを書いて、結衣斗だった時は照れて素直に言えなかったような2人の好きなところも、体調の良い時に連れて行ってもらった思い出の場所も、全部書き連ねて、そして分厚い手紙の束を封筒に入れて封をした。
「晴臣、僕行きたいところがあるんだけど」
「んー? どこに行きたいの?」
四宮が優しく微笑んで、聞いてくれる。
「結衣斗の、お墓」
「……そっか。じゃあ行こうか」
何か聞かれるかもと思って身構えていた千秋は、四宮の言葉に呆気にとられた。
「なんでか聞かないの?」
「聞かないよ。もちろん、千秋が話したくなったらいつだってなんだって聞くけどね」
さっぱりとした返答をされて、千秋はホッと息をついた。
四宮に、今更話したくないわけじゃない。前ならともかく、今は四宮に信じてもらえないと思っているわけでもない。
けれども、何から話せばいいのか、千秋の頭ではまだまとまっていなかったから。
「じゃあ、次の休みの日にでも行こうか」
「うん。ありがとう」
そうして、次の四宮の休みの日、千秋と四宮は結衣斗の墓に訪れた。
千秋も、結衣斗だった頃、ここに墓参りに来たことがある。
綺麗に掃除されていて、備えてある花は造花ではなく綺麗な生花だ。
定期的にお墓参りに来ていることが一目でわかった。
四宮が先に線香をあげて手を合わせて、それから千秋が線香をあげた。
四宮は何かを察して気を使ってくれたのか、先に車に戻っておくと言って去って行った。
千秋は静かに墓を開け、骨壺が並ぶスペースの奥に隠すように手紙を入れた。
そうして何かを成し遂げたような気持ちになって、千秋は四宮の待つ車に戻った。
その半年後、千秋は無事に元気な男の子を出産した。
出産は、流石に屋敷では出来なかったので、泉から紹介された産婦人科で出産した。
顔の大体の雰囲気は千秋で、目元は四宮に似ている子だ。
第二性はまだ検査していない。
でもきっとこの子がどの性別でも千秋の愛も、四宮の愛も変わらないのだろうと、千秋は確信している。
だって可愛くて可愛くてしかたないのだから。
「千秋、頑張ったね。ありがとう」
「……うん」
四宮は、変わらず優しく微笑みかけてくれる。
「昭仁……ほら、ご飯だぞ」
四宮がつけた赤子の名前は、漢字は違ったが千秋にちなんでいた。
千秋はそれがなんだか照れ臭い。
四宮はそんな事は気にせずに、昭仁を抱いて哺乳瓶でミルクを飲ませ始めた。
昭仁も嫌がったりせず素直に飲み始めて可愛らしい。
千秋が、昭仁の紅葉のような手に指を置くとギュッと握ってくれた。
「ふふ、僕、赤ちゃんにこれ、やってみたかったんだ」
「ああ、分かる。信頼されてるみたいな気になるよな」
「うん。それに、ちゃんと生きてるなって実感する」
「そうか」
千秋の指を力強く握りながらも、昭仁は、ミルクを飲むのに必死で、それもまた可愛かった。
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