器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

文字の大きさ
上 下
26 / 43

24

しおりを挟む
「え? ご両親に?」

千秋は突然のお誘いに驚き聞き返した。

「そう。出来れば会わない方向で動いているんだけど、熊井が勝手に千秋のことを両親に話したものだから、会わせろ会わせろとうるさいんだよ。無視しておけばいいんだけどね、逆に1回会わせれば静かになるのかとも思って」
「そうなんだ……えっと、僕は別に会ってもいいけど、ご両親は僕に会ったらがっかりしないかな」
「がっかり? しないと思うよ。何せもう諦めていた待望の息子の嫁だから。だけど、千秋が嫌なら無理にとは言わない。俺にとって何より大切なのは千秋だからね」
「うーん、晴臣のご両親かぁ……緊張するなぁ。でも、ご両親にはいつかちゃんと挨拶をしようと思ってたから……うん。やっぱり挨拶するよ」
「そうか、ありがとう。なるべく早く帰れるようにするから」
「ううん、無理しなくていいよ。あ、そうだ。手土産とかどうしよう」
「今度の休みに買いに行こう」
「うん」

そうして迎えた顔合わせ当日。
手土産は四宮と千秋で選んだ洋菓子の詰め合わせにした。
千秋は、約束の時間が近づくにつれどんどんと不安が募っていった。

今まで誰からも選ばれることのないオメガだったので、四宮自身が千秋が良いのだと言ってくれていたにしても、周りがそれを尊重してくれるとは限らない。四宮の幸せを願うご両親だったら尚更千秋を受け入れることは難しいのではないかとネガティブ思考に陥っていた。

「緊張してる?」

四宮が心配そうな声で問いかけた。

「す、少し」

顔合わせ場所は千秋が入ったことのないような高級なホテルのレストランで、今千秋たちが居るのはそこに向かうためのエレベーター内だ。

「リラックス、リラックス。大丈夫、少し偏屈なところはあって、面倒くさいところもかなりある両親だけど」
「う、うん。大丈夫、頑張るよ」
「ありがとう、でも、頑張らなくてもいい。もしも、千秋を傷つけるようなことを言ったりしたらすぐに千秋を連れて帰るから」
「え、それは」
「親しき中にも礼儀ありって言うだろう? 両親といえども、千秋を傷つけたらさすがに許せないよ」
「でも、僕のせいで仲違いなんて嫌だよ」
「違うよ。そもそも千秋とお付き合いする前までほとんど没交渉だったんだ。千秋がいたからまた両親と関わろうと思った。それなのに両親が千秋を傷つけるようなことをするのだとしたら、また以前のように関わらない関係に戻るだけ。でも、こんな話は無意味かな? 熊井が言っていたんだ。両親は千秋の存在を知ってかなり浮かれているらしい」
「浮かれてる?」
「うん。喜びまくって今日のために千秋に渡すプレゼントを選ぶのに必死だと聞いたよ」
「そ、そうなの……。でもやっぱりそれはそれで緊張するなぁ」
「はは」

ーーそんなに楽しみにしてて、僕を見たらやっぱりがっかりするんじゃないのかな

もういい加減ネガティブがすぎるので、千秋はその思いを胸にしまった。

レストランに着きウェイターに案内されたのは、個室だった。
品の良さそうな壮年の夫婦が千秋たちに気がつき席を立ち上がった。

「あなたが千秋くん?」

女性の方がそう尋ねた。

「はい、石崎千秋と申します。晴臣さんとお付き合いさせていただいています」
「まぁ……まぁまぁまぁ、可愛らしい。本当に可愛らしい方ね。ね? あなた」
「……ああ」

男性の方は顔を背けてしまったが、女性のほうは目に涙を浮かべながらの歓迎ムードだった。

「それにしても、本当にいたのね。嬉しいわ」
「本当に居たのかってどういうことですか、母さん……千秋、この2人が俺の父と母だよ。うるさくてごめんね」
「い、いえ」

千秋は驚いていた。
その後のオメガの人生のことも考えずに四宮にオメガを送り込むほどの人たちだから、オメガである千秋は歓迎されないかもしれないと思っていたのだ。
けれど父親の方はともかく、母親の方は千秋を見てニコニコしていて、千秋はなんだか照れ臭かった。

「……晴臣の父の春成だ」
「母の沙織よ。あなたみたいな可愛い子が、私たちの子供になってくれるなんて嬉しいわ」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます……お、お義父さん、お義母さん」

そう言うと春成は驚愕の目で千秋を見た。

「お、おとうさん?」
「あ、えっと、すみません。馴れ馴れしいですよね。四宮さん?」

千秋はこんな時、相手の両親をなんと呼んだらいいのかを、予め四宮に確認しておけば良かったと後悔していた。

「……いや、お父さんでいい」

それだけ言うと春成はまたそっぽをむいてしまった。

「ごめんなさいね、千秋君。この人本当は千秋君に会うのをとっても楽しみにしていたんだけど、照れ屋なものでこんな感じに。ほらあなた、そんなんじゃ千秋君に嫌われちゃうわよ」
「……」

春成はちらりと千秋を盗み見たけれど無言だった。

「まったく。いい年して恥ずかしいけれど許してあげてくれると嬉しいわ。分かりづらいけれど、会うのをとても楽しみにしていた千秋くんからお父さんって呼ばれて尋常じゃないくらい嬉しいの」
「よ、余計なことを言わなくていい!」

春成が顔を真っ赤にして沙織に抗議するところを見た千秋は、沙織の言い分の方が正しいのだと感じ取ることができた。

「楽しみにしていただけていたなんて嬉しいです」

ふわりと笑った千秋に、春成はバツが悪そうにしていた。

緊張で味もよく分からないまま出てきた料理を食べつつ、会話をして2時間ほどだったがそれなりに打ち解けることが出来、千秋は満足していた。

会話の中で、四宮と四宮の両親との間に行き違いもあったらしく四宮の元にオメガを送り込んでいた件については和解になった。

四宮の両親的には、結衣斗を思い続ける息子に少しでも前を向いて欲しく、“体から始まる恋だっていいんじゃない?”とアグレッシブにも行動してしまったらしい。2人はそのことについて、四宮が家を飛び出しほぼ絶縁状態になったことでようやく息子の気持ちを置いてけぼりにしてしまっていたことに気がつき、大変反省していた。
四宮は千秋の顔に免じて、とその謝罪を受け取っていた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜

葉月
BL
《あらすじ》  カトラレル家の長男であるレオナルドは双子の弟のミカエルがいる。天真爛漫な弟のミカエルはレオナルドとは真逆の性格だ。  カトラレル家は懇意にしているオリバー家のサイモンとミカエルが結婚する予定だったが、ミカエルが流行病で亡くなってしまい、親の言いつけによりレオナルドはミカエルの身代わりとして、サイモンに嫁ぐ。  愛している人を騙し続ける罪悪感と、弟への想いを抱き続ける主人公が幸せを掴み取る、オメガバースストーリー。 《番外編 無垢な身体が貴方色に染まるとき 〜運命の番は濃厚な愛と蜜で僕の身体を溺れさせる〜》 番になったレオとサイモン。 エマの里帰り出産に合わせて、他の使用人達全員にまとまった休暇を与えた。 数日、邸宅にはレオとサイモンとの2人っきり。 ずっとくっついていたい2人は……。 エチで甘々な数日間。 ー登場人物紹介ー ーレオナルド・カトラレル(受け オメガ)18歳ー  長男で一卵性双生児の弟、ミカエルがいる。  カトラレル家の次期城主。  性格:内気で周りを気にしすぎるあまり、自分の気持ちを言えないないだが、頑張り屋で努力家。人の気持ちを考え行動できる。行動や言葉遣いは穏やか。ミカエルのことが好きだが、ミカエルがみんなに可愛がられていることが羨ましい。  外見:白肌に腰まである茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳。中世的な外見に少し幼さを残しつつも。行為の時、幼さの中にも妖艶さがある。  体質:健康体   ーサイモン・オリバー(攻め アルファ)25歳ー  オリバー家の長男で次期城主。レオナルドとミカエルの7歳年上。  レオナルドとミカエルとサイモンの父親が仲がよく、レオナルドとミカエルが幼い頃からの付き合い。  性格:優しく穏やか。ほとんど怒らないが、怒ると怖い。好きな人には尽くし甘やかし甘える。時々不器用。  外見:黒髪に黒い瞳。健康的な肌に鍛えられた肉体。高身長。  乗馬、剣術が得意。貴族令嬢からの人気がすごい。 BL大賞参加作品です。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

俺のこと好きになってよ! 【オメガバース】

いちみやりょう
BL
泉 嶺二(医者) × 結城 静  先生と初めて話した時は、初めて人間扱いをされたような気持ちだった。 だから俺は、雛鳥が初めて見たものを親だと思うように、俺を初めて人間にしてくれた先生に恋をした。 「先生先生っ、俺18歳になったら孤児院を追い出されるんだけど、そしたらさ、俺を雇ってよ! 俺家事できるし!」 「はぁ? てめぇの世話くらいてめぇでできるわ。アホ」 「で、でもでも、俺、オメガだし就職するの難しいんだよ。雇ってくれるところがないんだよ! ね? お願い!」 ーーー どれだけ好きだと言っても、先生は答えてくれない。 嫌がらせにあっているのだと言っても、信じてくれない。 先生の中で俺は、孤児で甘え方を知らないうるさいガキでしかなかった。 寂しくて、嫌がらせを受けているなんて嘘を吐くようなガキでしかなかった。 そんなとき、静は事故にあった ※主人公うるさめ ※話のつながりは特にありませんが、「器量なしのオメガの僕は」に出てくる泉先生のお話です。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

【BL】声にできない恋

のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ> オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。

処理中です...