上 下
4 / 43

しおりを挟む

泉の言っていた例の部屋というのは、四宮家で働く全従業員が近づくことを許されていない部屋で、噂ではそこに近づくとその部屋に取り付いた悪霊に呪い殺されるらしい。
心霊などの現象は一切合切全て信じ切っている千秋は、その噂を聞いた時、何があっても近づくまいと心に誓っていた。

窓の掃除、床のモップがけ、皿洗いに洗濯、庭を掃き、時には草むしりもする。
四宮家での生活は毎日が大忙しで充実していた。

泉が屋敷に訪れた日から1週間が経とうとした日。その日千秋は長い廊下のモップがけをしていた。ちょうど角を曲がれば例の部屋の前の廊下に繋がるあたりで、千秋はその廊下には入らないように、そしてそちらの方を視界にも入れないように、急ぎ気味にモップがけをしていた。
その廊下にも昼間の明るい日差しが窓から差し込んではいるけれど、そういう噂を聞いていると、何故だか不気味に感じてしまう。

けれど見ないようにしていた後ろの廊下からカタリと物音がした。
千秋は反射的にギュッと目を瞑った。

ーー見ちゃダメだ。見ちゃダメだ。見たらきっと、例の部屋から悪霊がこちらを覗いているんだ

頭の中でそう繰り返した。けれど千秋の首はグギギとそちらを振り返っていく。
それは霊現象でもなんでもなく、ただの千秋の好奇心だった。

「し、四宮様!?」

恐る恐る振り向いてうっすらと目を開けて音の正体を確認した千秋は叫んだ。
四宮が例の部屋の扉の前で倒れていたのだ。
千秋は先ほどまでの恐怖の感情は忘れ、一目散に四宮の元まで駆けつけた。

「四宮様! 四宮様! 大丈夫ですか!?」

四宮からはブワッと少し濃い目のバラの匂いがした。

「……ち、あきくん? なんでここに」
「あ、あっちの廊下を掃除していて。だ、誰か呼んできます!」
「……待って、そこの部屋の内線で呼べるから。お願いできますか?」
「は、はい!」

四宮に頼まれ、千秋は例の部屋に足を踏み入れた。
やはり部屋中とてもいい匂いがして、クラリとして、その後心臓がドキドキする。
荒れ果てたベットの横の、机の上に電話があるのを確認し、千秋は内線をかけた。

執事長の熊井さんがすぐに駆けつけてくれて、てきぱきと対処を始め千秋がホッと安心していると、熊井さんからは今日の仕事はもう大丈夫だと言われ、千秋は四宮の体調が気になりつつも大人しく部屋に戻った。
部屋についた千秋は、なんだか少し体が火照っているような感覚がしてベットに横になった。
熱くてだるくて寝苦しくて、モヤモヤとしながら布団の上でモジモジしたけれど、自分の状況がまるで分からず千秋はただこの状況に狼狽えるしかなかった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

愛しいアルファが擬態をやめたら。

フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」 「その言い方ヤメロ」  黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。 ◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。 ◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

処理中です...