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16.カナンダス王国2
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「僕は、今とても幸せに元気に過ごしています。だからもう謝らないでください」
スッと言葉出てきた。
父や兄の僕を想う気持ちや痛いほどの後悔が伝わってきたから。
そして、その後あの頃の事情を教えてもらった。
もちろん、父や兄の言い分に納得はできなかった。
それでも、あの頃も今も、僕は嫌われていたり、憎まれていたりしたわけではなかったのだと分かって安心した。
その時、応接室の扉をノックする音が聞こえた。
その音に兄が僕を気遣うように見た。
「……カミーユ。実は、ドニとその下の弟のキルティも、カミーユに会いたがっているんだ。もし辛くなければ、会ってやってくれないか?」
ドニが僕に。その下の弟は一度もあったことがない。
正直に言うと、ドニは僕からすればほとんど話したことはなかったけれどとても可愛い弟だった。
だけど、あの時の、僕に怯えながらも僕から家族を守ろうとするドニの目が忘れられない。
横にいるギルの服をギュッと掴むと、ギルは僕の頭をそっと抱き寄せてくれた。
「辛いのなら、会わなければいい。カミーユにはその選択をする権利がある。どんな選択をしようとも誰もカミーユを咎めたりなどしない。な?」
「うん」
ギルの優しさに、不安になった気持ちが落ち着いていく。
「……僕は、ドニ様……ドニとキルティに会います」
伝えると、父も兄も静かにうなずいた。
「入りなさい」
父がそう言うと、ドアがそっと開いた。
金髪碧眼。あの頃の天使のような見た目を残しつつ、成長したドニは今も可愛らしい男の子だった。その隣には、あの頃の僕くらいの年齢のドニに似た男の子が立っている。僕は周りにバレないように、大きく息を吸い込んで、平然を装った。
「ドニ、久しぶりですね。僕のことを覚えていますか?」
ドニは成長したのは見た目だけなのか、僕の言葉に見開いた目には、うっすらと涙の膜が張り始めた。
「……カミーユ、兄上。ずっと、ずっとお会いしたかった。あの時のこと、本当にすみませんでした。お、お元気そうで……よか、よかった」
言葉の最後にはもう涙は溢れ始めてしまい、嗚咽を漏らしながらその場に膝をついた。
僕は、ドニに兄上と呼ばれたことが何だか照れ臭くて、嬉しかった。
あの頃の辛い気持ちは消えなくても、今やっと過去のことにすることができた気がした。
だからもう、ドニと話すのに緊張がなくなった。
「ドニ、僕はドニのことを怒ったりしていないよ。でも、ドニはきっとあの時のことを思い出して後悔してきたんだね。だからドニ、僕はドニを許すよ」
「っ。カミーユ兄上っ……、ぅぅ、ありがとうございます」
ドニも思い悩んできたのなら、僕が許すと言ったことで、ちゃんと過去のこととして前に進んで欲しいと思った。幼かったドニは、何も悪くないのだから。
それから、一度も会ったことがなかったキルティと目を合わせた。
「キルティ。始めまして。僕は、カミーユといいます」
「はじめまして……。カミーユ兄上。お会いできて嬉しいです」
物怖じせずに答えるキルティは、虐待などの心配もなさそうで、僕はこっそり安心した。
「キルティは何だかしっかりしているんだね。僕も会えて嬉しいよ」
そう言うと、キルティは嬉しそうに微笑んだ。
スッと言葉出てきた。
父や兄の僕を想う気持ちや痛いほどの後悔が伝わってきたから。
そして、その後あの頃の事情を教えてもらった。
もちろん、父や兄の言い分に納得はできなかった。
それでも、あの頃も今も、僕は嫌われていたり、憎まれていたりしたわけではなかったのだと分かって安心した。
その時、応接室の扉をノックする音が聞こえた。
その音に兄が僕を気遣うように見た。
「……カミーユ。実は、ドニとその下の弟のキルティも、カミーユに会いたがっているんだ。もし辛くなければ、会ってやってくれないか?」
ドニが僕に。その下の弟は一度もあったことがない。
正直に言うと、ドニは僕からすればほとんど話したことはなかったけれどとても可愛い弟だった。
だけど、あの時の、僕に怯えながらも僕から家族を守ろうとするドニの目が忘れられない。
横にいるギルの服をギュッと掴むと、ギルは僕の頭をそっと抱き寄せてくれた。
「辛いのなら、会わなければいい。カミーユにはその選択をする権利がある。どんな選択をしようとも誰もカミーユを咎めたりなどしない。な?」
「うん」
ギルの優しさに、不安になった気持ちが落ち着いていく。
「……僕は、ドニ様……ドニとキルティに会います」
伝えると、父も兄も静かにうなずいた。
「入りなさい」
父がそう言うと、ドアがそっと開いた。
金髪碧眼。あの頃の天使のような見た目を残しつつ、成長したドニは今も可愛らしい男の子だった。その隣には、あの頃の僕くらいの年齢のドニに似た男の子が立っている。僕は周りにバレないように、大きく息を吸い込んで、平然を装った。
「ドニ、久しぶりですね。僕のことを覚えていますか?」
ドニは成長したのは見た目だけなのか、僕の言葉に見開いた目には、うっすらと涙の膜が張り始めた。
「……カミーユ、兄上。ずっと、ずっとお会いしたかった。あの時のこと、本当にすみませんでした。お、お元気そうで……よか、よかった」
言葉の最後にはもう涙は溢れ始めてしまい、嗚咽を漏らしながらその場に膝をついた。
僕は、ドニに兄上と呼ばれたことが何だか照れ臭くて、嬉しかった。
あの頃の辛い気持ちは消えなくても、今やっと過去のことにすることができた気がした。
だからもう、ドニと話すのに緊張がなくなった。
「ドニ、僕はドニのことを怒ったりしていないよ。でも、ドニはきっとあの時のことを思い出して後悔してきたんだね。だからドニ、僕はドニを許すよ」
「っ。カミーユ兄上っ……、ぅぅ、ありがとうございます」
ドニも思い悩んできたのなら、僕が許すと言ったことで、ちゃんと過去のこととして前に進んで欲しいと思った。幼かったドニは、何も悪くないのだから。
それから、一度も会ったことがなかったキルティと目を合わせた。
「キルティ。始めまして。僕は、カミーユといいます」
「はじめまして……。カミーユ兄上。お会いできて嬉しいです」
物怖じせずに答えるキルティは、虐待などの心配もなさそうで、僕はこっそり安心した。
「キルティは何だかしっかりしているんだね。僕も会えて嬉しいよ」
そう言うと、キルティは嬉しそうに微笑んだ。
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