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ぴーちゃん視点 カミーユの好きな人
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カミーユから俺のためだけに描いた絵と手紙が届いてから俺は、ギルとしてカミーユと接し、魔王陛下として手紙をやり取りする二重生活が始まった。
カミーユは城に来てからしばらくは少し緊張していた様子だったが、今では警戒のかけらもないふちゃりとした笑顔を振りまくようになっていた。
よく食べ、よく寝て、よく遊び、周囲に甘えることも覚え、どんどん可愛くなっていくと言うのに、反比例するように無防備になっていく。
馬に乗り、花壇に綺麗に花を咲かせて、勉強をして、友達もできて、楽しく過ごすカミーユは、あの頃の傷だらけでボロボロの姿とはかけ離れ、誰が見てもキラキラと輝いて見えるだろう。
そしてカミーユは今日で魔族の成人の年齢である16歳の誕生日を迎える。
父のように、兄のようにカミーユの成長を見守ると決めずっとここまで来た。
いずれ俺を選んでくれる時が来たらと思っていた俺だったが、カミーユと過ごすうちにその考えは押さえ込むようになっていた。父や兄のように慕っていた相手が、自分にそう言った感情を向けているなんて知ったら悍ましいどころの話じゃないと気がついたからだ。
特に人間は魔族と比べ成長が遅い上に短命なため、年齢にこだわる気持ちが大きいと聞く。
だが、大丈夫だ。
ヒートはまだ一度も来ていないようだが、もしもカミーユが誰かを選んだ時、俺には父や兄の立場が残っている。
「陛下」
「ああ、ニコラか」
「カミーユ様からお手紙を預かってまいりました」
「おお。ありがとう」
執務の手を止め受け取って、封筒を撫でた。
いつのころからか、器用なカミーユの手によって手紙を入れる封筒には型押しのようなもので花や鳥の形が施されるようになっていた。
「いい加減伝えたらどうですか? 魔王陛下の正体も、陛下の気持ちも」
「7年も黙っていて突然? 何と言えばいいのか俺には分からない」
「最初に隠したのがよくなかったんですよ」
「今更だ。だが、俺は隠していたことを後悔はしていない。魔王なんて、人間からすれば怖いだけだろう。俺はカミーユに萎縮されたりなどしたくない」
「そんなこと。カミーユ様は陛下に萎縮などされないって分かってるのに」
「ああ……。今はな。だが、今更だ」
封筒を破かないように丁寧に開けて、中の手紙を取り出した。
『拝啓、魔王陛下様』
「はは。やけに丁寧だな」
『僕は、陛下のことを、何でも相談できる父のような存在に感じています』
父のように。それは俺が望んだことだ。
文通しかしない相手でもそう思ってくれたのなら、嬉しい。
『陛下がここに住まわせてくださったおかげで、僕は健康に、元気に、明るく、楽しく、今日の成人を迎える日まで過ごしてまいりました。魔族の方は皆優しくて、褒めたり、叱ったり、甘えさせてくれたりしました。父だけではなく、母や兄や姉、妹や弟、親戚のおじさんおばさんに至るまで、僕はここに来てから全て手に入れることができました。それは全部とても暖かくて大切で、掛け替えのない宝物です。今日、陛下にこの手紙で伝えたいことは、その僕の大切な人たちの中で、どうしても特に好きになった人がいるということです』
「特に……好き」
手紙は2枚目に続いている。
俺は恐る恐るそれを読んだ。
『最初は初めての感情に戸惑いました。大切な人たちは、みんな同じくらい大切なはずなのに、どうしてだかその人のことを考えてしまう時間が多くて、近くにいると目で追ってしまうのです。ニコラに聞いたら、それが恋なのだと教えてくれました。でもその方は、とても身分が高い方です。ですが、僕をとても甘やかしてくれますし、大切にしてくれますし、優しいし、きっとその方は僕の想いに応えてくれるのではないかと期待している気持ちがあります。3枚目の紙に、僕の好きな方の名前を書きます。その方と想いが通じ合った時には、結婚を許可してくださいますか?』
この国の連中はみんなカミーユに優しいだろう。
だから、3枚目の紙にどんな名前が書いていようと、俺はもちろん応援するさ。
父として、兄として。
ズキズキと痛む心臓を抑え込みながら強がった。
「はぁ」
……とんだ負け犬だな。
震える指で3枚目をめくる。
「……は」
紙にはたった一文だけだったが、衝撃が大きすぎてすぐには理解できなかった。
『あなたが好きです。ギルガリード・レオン・シュタウピッツ陛下。どうか僕の気持ちに応えてください』
カミーユは城に来てからしばらくは少し緊張していた様子だったが、今では警戒のかけらもないふちゃりとした笑顔を振りまくようになっていた。
よく食べ、よく寝て、よく遊び、周囲に甘えることも覚え、どんどん可愛くなっていくと言うのに、反比例するように無防備になっていく。
馬に乗り、花壇に綺麗に花を咲かせて、勉強をして、友達もできて、楽しく過ごすカミーユは、あの頃の傷だらけでボロボロの姿とはかけ離れ、誰が見てもキラキラと輝いて見えるだろう。
そしてカミーユは今日で魔族の成人の年齢である16歳の誕生日を迎える。
父のように、兄のようにカミーユの成長を見守ると決めずっとここまで来た。
いずれ俺を選んでくれる時が来たらと思っていた俺だったが、カミーユと過ごすうちにその考えは押さえ込むようになっていた。父や兄のように慕っていた相手が、自分にそう言った感情を向けているなんて知ったら悍ましいどころの話じゃないと気がついたからだ。
特に人間は魔族と比べ成長が遅い上に短命なため、年齢にこだわる気持ちが大きいと聞く。
だが、大丈夫だ。
ヒートはまだ一度も来ていないようだが、もしもカミーユが誰かを選んだ時、俺には父や兄の立場が残っている。
「陛下」
「ああ、ニコラか」
「カミーユ様からお手紙を預かってまいりました」
「おお。ありがとう」
執務の手を止め受け取って、封筒を撫でた。
いつのころからか、器用なカミーユの手によって手紙を入れる封筒には型押しのようなもので花や鳥の形が施されるようになっていた。
「いい加減伝えたらどうですか? 魔王陛下の正体も、陛下の気持ちも」
「7年も黙っていて突然? 何と言えばいいのか俺には分からない」
「最初に隠したのがよくなかったんですよ」
「今更だ。だが、俺は隠していたことを後悔はしていない。魔王なんて、人間からすれば怖いだけだろう。俺はカミーユに萎縮されたりなどしたくない」
「そんなこと。カミーユ様は陛下に萎縮などされないって分かってるのに」
「ああ……。今はな。だが、今更だ」
封筒を破かないように丁寧に開けて、中の手紙を取り出した。
『拝啓、魔王陛下様』
「はは。やけに丁寧だな」
『僕は、陛下のことを、何でも相談できる父のような存在に感じています』
父のように。それは俺が望んだことだ。
文通しかしない相手でもそう思ってくれたのなら、嬉しい。
『陛下がここに住まわせてくださったおかげで、僕は健康に、元気に、明るく、楽しく、今日の成人を迎える日まで過ごしてまいりました。魔族の方は皆優しくて、褒めたり、叱ったり、甘えさせてくれたりしました。父だけではなく、母や兄や姉、妹や弟、親戚のおじさんおばさんに至るまで、僕はここに来てから全て手に入れることができました。それは全部とても暖かくて大切で、掛け替えのない宝物です。今日、陛下にこの手紙で伝えたいことは、その僕の大切な人たちの中で、どうしても特に好きになった人がいるということです』
「特に……好き」
手紙は2枚目に続いている。
俺は恐る恐るそれを読んだ。
『最初は初めての感情に戸惑いました。大切な人たちは、みんな同じくらい大切なはずなのに、どうしてだかその人のことを考えてしまう時間が多くて、近くにいると目で追ってしまうのです。ニコラに聞いたら、それが恋なのだと教えてくれました。でもその方は、とても身分が高い方です。ですが、僕をとても甘やかしてくれますし、大切にしてくれますし、優しいし、きっとその方は僕の想いに応えてくれるのではないかと期待している気持ちがあります。3枚目の紙に、僕の好きな方の名前を書きます。その方と想いが通じ合った時には、結婚を許可してくださいますか?』
この国の連中はみんなカミーユに優しいだろう。
だから、3枚目の紙にどんな名前が書いていようと、俺はもちろん応援するさ。
父として、兄として。
ズキズキと痛む心臓を抑え込みながら強がった。
「はぁ」
……とんだ負け犬だな。
震える指で3枚目をめくる。
「……は」
紙にはたった一文だけだったが、衝撃が大きすぎてすぐには理解できなかった。
『あなたが好きです。ギルガリード・レオン・シュタウピッツ陛下。どうか僕の気持ちに応えてください』
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