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父:シャルル視点 毒夢薬2

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「オリヴィア……ごめんなさい……カミーユ……ごめんなさい……好きなの、愛してるの……。ごめんなさい。ごめんなさい」

地下牢に降りると、マリーが泣きながら懺悔していた。
その目は空を捉え、すでに目としての機能を果たしてない。

「痛いっ……、ああ、カミーユ。ごめんなさい、叩かないで……」

どうやら、暗闇の世界の中でマリーはカミーユに叩かれているらしい。
実際には体に傷一つ入っていないが、マリーは全身をブルブルと震わせて痛みに打ちひしがれていた。

「嫌よ。言わないで……。私を好きだと言ってよ! ねぇ……。お願い……オリヴィア……あぁ」

悲痛な声だ。
だが、私は何も感じなかった。
毒夢薬ーーこれは、服用した者を夢の世界に引き摺り込み自分の愛する者の幻影から手酷い仕打ちを受けさせると言うものだ。目を開けていようが閉じていようが、実際には幻影以外何も見えてはいない。マリーの夢の中には、オリヴィアとカミーユが出ているようだが、それならなぜ……。
いや、到底私などには理解できないことなのだろう。

「マリーに栄養を投与しろ。絶対に死なせるな」

できるだけ長く苦しんだ方がいい。

心の痛み、体の痛み。
どちらも味わい、けれど、死ぬこともできない。
何年耐えられるだろうな。

私は地下牢をあとにして、カミーユのお見舞いに向かった。

カミーユは、楽しそうだったり、嬉しそうだったり、穏やかな顔をして眠っていることもあれば、拗ねたような顔をしていることもあり、年相応ないろいろな表情を見せた。
その表情の中のどれ1つとして、私が見たことのないカミーユの表情だ。

オリヴィアはどちらかといえば気が強い方で、勝気な顔をしていることが多かった気がする。
改めて見ればカミーユは、オリヴィアに似ている顔つき以外は、性格も表情も全然違う。
そんなことに、カミーユを失いそうになって初めて気がつくなんてな。

そして、世間では魔王の完全復活が騒がれる中、カミーユの9歳の誕生日がやってきた。
カミーユは目覚めないだろうが、プレゼントを用意した。
セドリックと2人、カミーユの病室のベットの横で、カミーユを見守る。

「カミーユ、誕生日おめでとう」

今日はいつもよりも肌の血色がよく、心なしか体調も良さそうに見えた。

「カミーユ、これは僕からのプレゼントだよ。今までカミーユの寂しさや辛さに気がついてあげられなくてごめん。お兄ちゃん失格だ」

セドリックは、包装されたプレゼントをカミーユの枕元に置いて、カミーユの髪の毛をそっと撫でつけた。
すると、カミーユのずっと瞑っていた目が薄く開いた。

「っ、カミーユっ!?」

カミーユは久しぶりの光を眩しそうにしながらも、目を開いて部屋を確認した。

「覚めた……」

カミーユはポツリとそう呟いた。

「カミーユ、今医者を呼ぶからな!!」
「待ってください。バイヤール公爵様」
「っ!!」

いつものように他人行儀な呼び方で呼び止められ、私は一気に現実に引き戻されたような気分になった。カミーユは部屋の中を見回してここが病院であることを確認したあと、口を開いた。

「私のような者のために、病院の費用を払ってくださったのですね。申し訳ありませんでした」
「なっ、そんなこと、当たり前のことだ」

私の言葉に、カミーユはゆるく首を振った。

「かかった費用は何年経ってでも必ずお返ししに来ます」

その言葉はカミーユの拒絶に感じ、ギュッと胸が締め付けられた。

「息子のための医療費を返してもらおうなどと思うわけがない」

そう言うと、カミーユは目を見開いて驚いた顔をした。

「息子……」
「っ、当然だ。当然、カミーユは私の可愛い息子だ」

ああ。息子だと、思われていないと思わせるほどに私は。
今更ながら、最低な父親だ。だが、やり直させてもらえるなら。

「カミーユ……私は」
「カミーユ、僕も。カミーユは僕の大事な弟だよ。これ、カミーユにプレゼントなんだ。ほら」

セドリックがカミーユの手を掴み、必死に言い募った。
けれどカミーユはセドリックが指し示した包装紙にチラリと目を向けると、ただ“そうですか”と言った。そこには寝ている間に見せていた様々な表情はなく、ただ能面のような顔でただずむだけだ。

「バイヤール公爵様、セドリック様、母上を殺して産まれてきた僕のような者を、今まで敷地内に置いてくださってありがとうございました。けれど僕が死にかけたからと、無理に愛してくれようとなどしなくて良いのです。プレゼントも、必要ありません」

気を使ったようにセドリックに笑いかけるカミーユに、セドリックは顔を引きつらせ、泣きそうな顔をした。
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