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ぴーちゃん視点1

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ギルガリード・レオン・シュタウピッツ(ぴーちゃん)視点

俺が、カミーユに出会ったのは、まだ俺を封印する力が強く残っている頃だった。
勇者の手によって封印されるまでは、愚かな人間を制圧し統一することで平和になると傲慢な考えで生きていた。
傲慢に振る舞うものは隙だらけで、激しい攻防の末、力の差は歴然だったにも関わらず私は封印されてしまった。魔王である俺が封印されたことで魔国に住う魔族や魔物は力が弱まり、俺の守りたかったものたちを危険にさらしてしまったのだ。
それでも皆、俺の封印を解こうと頑張ってくれた。
封印を解くことのできる人間を探す中、魔族の間でカミーユの噂が広まった。
動物や植物に擬態し、情報を集めをしてくれていた魔族たちが大変な時、幼いオメガの人間が自分のことを顧みずに助けてくれたと、皆口々にそう噂した。

魔族たちは皆その少年のことを大変に気に入ったようだったが、俺は人間に対する嫌悪感があった。
けれど、魔族たちがあまりにもカミーユを褒めるため、俺は魔力で鳥の体を作りカミーユを見に行ってみることにしたのだ。
封印の力は強く残っていたものの、意識だけで鳥のように過ごすだけならなんとか可能だと思い、カミーユの住む場所に行ってみれば、カミーユの住む建物の前で力尽きてしまった。なんとか意識だけ保って回復を待っているところにカミーユが来てくれた。

「鳥さんっ? だいじょうぶ? けがしちゃったの?」

まだ幼さの残る舌足らずな話し方で俺を心配し、乱暴な手つきでもおかしくないほどの幼い子供の手で俺をそっと抱き上げて自分のベットに運んでくれた。
あまりにも細すぎるカミーユの体は、まともな食べ物を食べていないのだろうと想像にたやすかった。それでも魔族たちが言っていたようにカミーユは自分の少ない食べ物を惜しげもなく俺に差し出した。
差し出されるままに啄んでみると、カミーユは嬉しそうに微笑んだ。

「元気になってね、鳥さん」
「ぴー」
「ふふ、くすぐったい。甘えんぼさんなの?」

パンを差し出している手に頭を押し付けると、カミーユはそっと俺の頭を撫でた。

「体調がわるいときは、いつもよりさみしくなっちゃうよね。ぼくもね、わかるよ。あんまり長い間はいっしょにいてあげられないけど、もし体調が戻ってここを離れても、いつでも遊びにきてね」
「ぴー」

カミーユの手は暖かくて、その心も暖かくて。
カミーユにまた会いたいと思った。
けれどカミーユは行くたびに俺にパンクズをくれる。
カミーユの食べるものを減らすのが嫌だったので、カミーユの元に向かう時に、飴玉を一つ咥えて行った。飴玉1つ咥えて飛ぶのもギリギリで、カミーユに与えられてばかりでカミーユのために何もできない自分が悔しかった。
世の中にはたくさんの甘味が溢れてる。それでも、カミーユはきっとこの飴玉を喜んでくれるだろう。

カミーユの元まで頑張って運んだ飴玉をカミーユに渡すとそれはそれは喜んでくれた。

「わあ。飴玉だね。拾ったのかな。包み紙を開けて欲しいの?」
「ぴぴ」

違う。これは俺が食べるものじゃなくて、カミーユのために持ってきたものだ。
その気持ちは、なんとかカミーユに伝わったようで、カミーユはそれを大切そうに両手で包み胸元でギュッと握った。

「僕に、くれるの?」
「ぴ」
「ありがとう。ぴーちゃん。大切な日に食べられるように、大事に取っておくね」
「ぴ?」

それが俺が“ぴーちゃん”になった最初の日だった。
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