偽りの愛

いちみやりょう

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頭に

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それから1年の月日が経って引退して旅行に行ってのんびり生活したいと言い出した親父に代わって、高校を卒業したばかりの俺が久道組の頭になった。
舎弟に対して俺の実力はこの1年で認めさせてきたから、18歳で俺が組をまとめることに意を唱える奴は一人もいなかった。

相変わらず時間さえあれば病院に通って憲史に語りかけた。

「憲史の知ってる甘ったれた俺はもういねぇよ。だから早く帰ってこい。お前の言う通りに生きてぇけど、俺には分かんねぇんだよ。お前の言ってたいい女の子ってやつがよ」

握っていた憲史の手がぴくりと動いた気がした。

「ぁ……、まさ……」
「憲史!?」

薄らと目を開けて俺を確認した憲史が俺の名を呼んだ。
俺は急いでナースコールを押して先生を呼んだ。

先生に診てもらって1年ちょっと眠り続けていたくせに目が覚めた今は特に異常は見当たらないという結果になった。

「良かった、憲史。目を覚ましてくれてありがとう」
「若……」
「憲史。あのな、俺ぁもう若じゃねぇんだ」
「え、どういう」
「親父の我が儘でよ、俺ぁ頭になったんだ」
「そう……ですか。それは……おめでとうございます」
「なんだ、不服そうだな」
「いえ……俺の知らない間に若……頭が随分と大人になってしまわれたようで、少し寂しく思ってしまいました。それに頭就任の盃事も俺は見ることが出来なかったのだと。すみません」
「いや、仕方ねぇよ。あれから1年だ。盃事なら俺と憲史の盃も残ってる。心配するこたぁねぇよ」
「……はい」
「んじゃあ、1週間は様子見で入院って言ってたから安静にしろよ」

俺はそう言い残して病室を後にした。

憲史が目覚めて本当に良かった。
でも俺はあれから1年経っても憲史のこと好きなまんまだ。

家に着くと1年前を思い出すように家の中が慌ただしかった。

「おい、何があった」
「頭! 1年前憲史さんに怪我を追わせた武田組が今日何か仕掛けてくるって情報が入りやした
!」
「あ? 電話で報告しろよ。すぐ行くぞ」
「へ、どこにですか?」
「決まってんだろ。武田組をぶっ潰しにだよ」

武田の家に着くとチンピラが入り口で待機していた。

「これはこれは。久道組の坊ちゃんじゃありませんかぁ」
「あ? 雑魚はうせろ」
「けけ。雑魚だってよ。18歳のお子ちゃまに言われりゃ世も末だなぁ」

漫画やアニメもびっくりな雑魚セリフだな。
俺は持ってきた銃でそいつらの太腿に発砲した。

「ぐぁ”!!」
「こいつ!!」

「雑魚がなんか言ってらぁ」

俺はそいつらを通り過ぎて奥に向かった。
何か悪巧みしていたと言う割には準備が甘いな。

「ここの組長はどこだ」
「ひっ……、あ、ここにはいませんっ」

捕まえた下っ端を脅しても流石に口は割らなかった。

イライラする。

「待ってたぜぇ?」

奥の方からゾロゾロと武器を持った男たちが出てきた。

「あ?」

憲史に怪我を負わせたこいつらにイライラする。

ままならない思いを抱えたままの自分にイライラする。

俺はそのイライラをぶつけるように目の前の敵を倒しまくった。

気がついたら俺は血だらけで、それが自分の血なのか敵の血なのか分からなかったけど、俺の目の前には伸された敵が大量に転がっていた。

俺はその中の1人、武田組の組長の胸ぐらを掴んで引き上げた。

「おい、起きろ」
「ひっっ」
「武田組は今日から久道組の傘下だ。分かったな」
「は、はいぃ」

その答えを聞いて胸ぐらを掴んでいた手を離すと、そいつは重力に逆らわずにバタッと落ちて行った。

「いてぇなぁ、身体中傷だらけだ」

俺は今日だけは、と、いつも持ち歩くだけ持ち歩いているタバコに火をつけて吸った。
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