偽りの愛

いちみやりょう

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「若、時期頭としての自覚がおありですか」
「あ? なんだよ急に」

家に着くとどことなく不機嫌な憲史が出迎えた。

「昨日から今朝までどこで何をしていたのか教えてください」
「そんなの憲史になんの関係があるんだよ」
「俺はあなたの世話係なのですから当然あなたの行動を把握する義務があります」
「はっ、ねぇよそんなもん。まさか親父に怒られたりしたのか? だったら俺から言っとくから気にしないでくれ。悪かったな」
「いえ、頭に何か言われたわけではありません。俺が」
「なんだよ」
「今朝見たんですよ。あなたが男と仲良くホテルから出てくるのを」

見られてたのか。まぁ今更そんなところを見られたところでこいつの中のどん底の俺の評価がこれ以上下がることもないだろう。

「ふーん。それが?」
「あなたは、相手が誰でもいいんですか」
「はぁ?」
「俺が断ったから当て付けのように男と付き合うんですか」
「何言ってんの? 思いあがんな。もうお前のことなんか好きじゃねぇよ」

もうお前を好きじゃない方がお前にとって都合がいいんだろう。
俺はもうお前を困らせたくないんだよ。

これ以上、お前との距離が離れんのは嫌なんだよ。

「久道組の若頭が男を漁ってると噂されてもいいんですか。この界隈であなたの顔は知れ渡っています。軽率な行動はお控えください」
「……わーったよ。バレねぇようにすっから。な?」
「若!」

憲史の話をなぁなぁに聞いて俺は自分の部屋に戻った。

憲史の困ることはしたくないけど、添い寝くらいいいだろう。

だって。

健はお前と同じくらいの背格好で、お前と同じ匂いがして、名前まで似てる。
俺に対してそういう意味で好意を持っていないところまで同じだけど、健は俺を抱きしめて眠ってくれる。
まるで憲史に抱きしめられて眠っているかのような気分になれるんだ。


だから

そんくらい、いいだろう。

憲史が抱きしめてくれないから、憲史が俺のこと好きになってくれないから、なんて、憲史を責めるつもりはない。
だって俺のことを好きになれないのなんて当たり前だろう。
人の感情なんて他人にどうこうできることじゃない。
自分の感情を変えることすらままならないのに。

お前が好きだって気持ちも、いつか消える時がくるだろう。
その時がくるまで一人で耐えろっていうのはあんまりにも酷だと思わないか。

スマホを見ると健からラインが来ていた。
昨日のお礼と次はいつにするかという内容だ。

俺は『いつでも』とだけ返してスマホをポケットにしまった。

親父のところに行こう。

今まで俺のわがままで憲史を俺の世話係のままにしていたが、本当は親父の秘書にしたいと親父から何回か打診があった。
憲史を俺の世話係からはずそう。
憲史が近くに居なくなるのは残念だが、憲史のことを思えばもう少し早くこうするべきだったんだ。

これからは俺の朝帰りも増えるだろうし、憲史が俺の世話係のままだと憲史的には気持ちの悪い思いもするだろう。
地に落ちているだろう俺への高感度だけど、これ以上は嫌われたくない。

部屋から出るとドアの横に憲史が控えていた。

「若、どちらに」
「ああ、憲史。親父のとこ。ちょっと話があるからさ」
「左様でございますか。頭でしたら今はお部屋におられると思います」
「そうか」

憲史は何か言いたげな目で俺を見ながらもその口調からはやはり壁を感じた。
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