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タバコの匂い
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街中を歩いているとふと憲史の吸っているタバコの匂いがすることがある。
振り向いてもそこに憲史はいるはずはないんだけど、俺はいつも振り向いてしまうから、そうしていつも寂しくなってしまうからあの匂いをあいつだと認識することがないように、俺も同じタバコを吸い始めた。
タバコを吸い始めたのを知って憲史は複雑そうな顔をして俺を見た。
「未成年者のタバコは」
「なんだよ」
憲史が俺を咎めようとするのを俺は遮った。
「憲史は俺の舎弟になるんだろ? 俺のすることにいちいち盾ついてくんじゃねぇよ」
「ですが」
憲史は一度口籠ってから、それでも俺の口からタバコを取り上げた。
「口答えができない舎弟しかいなければこの組織は潰れてしまう」
憲史はそう言って真剣な目をして俺を見た。
「ちっ、くそ……お前、俺が組の後継いだらお前を真っ先に追い出してやるよ」
「あなたが望むのなら、俺はいつでも組を抜けますよ」
憲史は安心したような顔でそう言った。
俺がタバコを吸うのを諦めて心の底から嬉しそうだ。
俺は憲史が好きだから。
憲史が嫌がることはしたくねぇな。
だからタバコを吸うのは諦めた。
だがそれじゃあ、街中で憲史と同じタバコの匂いがした時に俺はどうしたらいい。
叶わない想いを抱えて俺はどうしたらいい。
その答えを見つけるのはわりと簡単だった。
ある日、繁華街で夜遊びをしている最中、男に話しかけられた。
「君、いくら?」
「あ?」
「こんな夜中にこんな場所うろついてるんじゃ行くとこ無いんでしょ? 俺と一緒にくれば飯も宿も小遣いもやるけど」
「俺は別に金にも行く場所にも困ってねぇよ」
「じゃあ、気持ちいいことは? どうだ? 俺は結構うまいと思うよ」
「うっせぇな」
俺はその男を無視して歩こうとした。
だがその時、その男からあのタバコの匂いがふわりと香った。
「おっさん、タバコ吸うの?」
「ん? いや、俺はまだおっさんって歳じゃ、ってまぁいいか。タバコ? 吸うよ。欲しいの?」
「いや、いらねぇ……。おっさん、心変わりした。行ってもいいぜ」
「本当? ラッキー」
「だけどさ、俺初めてだからあんま良く無ぇかもよ」
「全然平気! 初めてでも気持ちよ~くしてあげる」
「ふーん」
俺はそのおっさんに着いて行った。
着いたのはめちゃくちゃ高そうなシティホテルで、とてもその辺でナンパしてお持ち帰りしようなどと軽く使うような場所じゃ無いように感じた。
「おっさん、俺、こんなホテルに入れるような服装じゃねぇけど」
「あはは、レストランとか行くわけじゃ無いんだから服装なんて気にしなくて大丈夫」
そうして先を歩くおっさんの後を着いてフロントを通り過ぎてエレベーターで部屋まで向かった。
部屋の中もすごく豪華で圧倒される。
俺の家はまぁ金はある方だけどあまり旅行とかもしないからホテルは新鮮に感じた。
おっさんは部屋に着くなりシャワールームに消えていき、戻ってきた時はシャワールームの方から水の流れる音がしていた。
「今お湯貯めてるからちょっと待ってねぇ。なんか飲む?」
「や……平気」
「あっはは。緊張してる?」
「まぁ」
「あ、お湯たまったみたいだ。一緒に入る? それとも一人で入る?」
「一人で。でも先どうぞ」
「なーに言ってんの。君のために貯めたんだから君が入ってきな?」
「はぁ、じゃあ先もらいます」
「はいはーい」
お風呂に浸かってほっと一息ついてから部屋に戻るとおっさんは少しうとうとしたように椅子に座っていた。
「先、もらいました」
「あー、おっけ。俺も入ってくんね」
そう言ってお風呂のほうに行ってしばらく水の音が聞こえてたけどおっさんはすぐに出てきた。
「さーて、一つ聞いておきたいんだけど、君って気持ちいいことする気ある?」
「は? あるから着いてきたんだろ」
「まぁそうだよねぇ。でも俺、ちょっともう限界。ごめん、眠くて……」
おっさんはそう言って俺を抱えてベットにダイブした。
「ちょ、なんだよ急に!」
慌てて起き上がろうとしてもおっさんは俺をギュッと抱きしめたまま眠ってしまっていて俺はなす術もなく、憲史と同じ匂いに包まれていつの間にか眠りに落ちていた。
「ごめん! 本当にごめん!」
朝起きるとおっさんは開口一番に土下座する勢いで謝ってきた。
「や、別にいいけど」
「いや、俺本当は昨日最初からそんなつもりなかったんだ。だから謝ってる」
「はぁ? じゃなんで誘ったんだよ」
俺はなかば呆れつつそう聞いた。
「俺、人肌が無いとよく眠れなくてさ、その安眠を手に入れるために……」
「じゃあ最初からそういえばいいだろ」
「いや、最初からそう言うと逆に怖がられるんだよ」
「はぁ、まぁわかる気がするけど」
「だろ?」
「身近にいないのかよ。一緒に寝てくれる人」
「いないからこうしてるんだよ」
「じゃあ、俺がたまに一緒に寝てやろうか?」
「えっ、いいの!?」
「まぁ」
「ありがとう! ほんとに!」
おっさんは涙ながらに感謝を伝えてきた。
「おっさん、名前なんていうの? 俺は正親。マサって呼んでよ」
「分かった。俺は健一だよ」
「健一か。じゃあ健って呼んでもいい?」
「好きに呼んでいいよ。これ連絡先。またよろしくね」
ホテルの前でおっさんと別れて俺は家に帰った。
振り向いてもそこに憲史はいるはずはないんだけど、俺はいつも振り向いてしまうから、そうしていつも寂しくなってしまうからあの匂いをあいつだと認識することがないように、俺も同じタバコを吸い始めた。
タバコを吸い始めたのを知って憲史は複雑そうな顔をして俺を見た。
「未成年者のタバコは」
「なんだよ」
憲史が俺を咎めようとするのを俺は遮った。
「憲史は俺の舎弟になるんだろ? 俺のすることにいちいち盾ついてくんじゃねぇよ」
「ですが」
憲史は一度口籠ってから、それでも俺の口からタバコを取り上げた。
「口答えができない舎弟しかいなければこの組織は潰れてしまう」
憲史はそう言って真剣な目をして俺を見た。
「ちっ、くそ……お前、俺が組の後継いだらお前を真っ先に追い出してやるよ」
「あなたが望むのなら、俺はいつでも組を抜けますよ」
憲史は安心したような顔でそう言った。
俺がタバコを吸うのを諦めて心の底から嬉しそうだ。
俺は憲史が好きだから。
憲史が嫌がることはしたくねぇな。
だからタバコを吸うのは諦めた。
だがそれじゃあ、街中で憲史と同じタバコの匂いがした時に俺はどうしたらいい。
叶わない想いを抱えて俺はどうしたらいい。
その答えを見つけるのはわりと簡単だった。
ある日、繁華街で夜遊びをしている最中、男に話しかけられた。
「君、いくら?」
「あ?」
「こんな夜中にこんな場所うろついてるんじゃ行くとこ無いんでしょ? 俺と一緒にくれば飯も宿も小遣いもやるけど」
「俺は別に金にも行く場所にも困ってねぇよ」
「じゃあ、気持ちいいことは? どうだ? 俺は結構うまいと思うよ」
「うっせぇな」
俺はその男を無視して歩こうとした。
だがその時、その男からあのタバコの匂いがふわりと香った。
「おっさん、タバコ吸うの?」
「ん? いや、俺はまだおっさんって歳じゃ、ってまぁいいか。タバコ? 吸うよ。欲しいの?」
「いや、いらねぇ……。おっさん、心変わりした。行ってもいいぜ」
「本当? ラッキー」
「だけどさ、俺初めてだからあんま良く無ぇかもよ」
「全然平気! 初めてでも気持ちよ~くしてあげる」
「ふーん」
俺はそのおっさんに着いて行った。
着いたのはめちゃくちゃ高そうなシティホテルで、とてもその辺でナンパしてお持ち帰りしようなどと軽く使うような場所じゃ無いように感じた。
「おっさん、俺、こんなホテルに入れるような服装じゃねぇけど」
「あはは、レストランとか行くわけじゃ無いんだから服装なんて気にしなくて大丈夫」
そうして先を歩くおっさんの後を着いてフロントを通り過ぎてエレベーターで部屋まで向かった。
部屋の中もすごく豪華で圧倒される。
俺の家はまぁ金はある方だけどあまり旅行とかもしないからホテルは新鮮に感じた。
おっさんは部屋に着くなりシャワールームに消えていき、戻ってきた時はシャワールームの方から水の流れる音がしていた。
「今お湯貯めてるからちょっと待ってねぇ。なんか飲む?」
「や……平気」
「あっはは。緊張してる?」
「まぁ」
「あ、お湯たまったみたいだ。一緒に入る? それとも一人で入る?」
「一人で。でも先どうぞ」
「なーに言ってんの。君のために貯めたんだから君が入ってきな?」
「はぁ、じゃあ先もらいます」
「はいはーい」
お風呂に浸かってほっと一息ついてから部屋に戻るとおっさんは少しうとうとしたように椅子に座っていた。
「先、もらいました」
「あー、おっけ。俺も入ってくんね」
そう言ってお風呂のほうに行ってしばらく水の音が聞こえてたけどおっさんはすぐに出てきた。
「さーて、一つ聞いておきたいんだけど、君って気持ちいいことする気ある?」
「は? あるから着いてきたんだろ」
「まぁそうだよねぇ。でも俺、ちょっともう限界。ごめん、眠くて……」
おっさんはそう言って俺を抱えてベットにダイブした。
「ちょ、なんだよ急に!」
慌てて起き上がろうとしてもおっさんは俺をギュッと抱きしめたまま眠ってしまっていて俺はなす術もなく、憲史と同じ匂いに包まれていつの間にか眠りに落ちていた。
「ごめん! 本当にごめん!」
朝起きるとおっさんは開口一番に土下座する勢いで謝ってきた。
「や、別にいいけど」
「いや、俺本当は昨日最初からそんなつもりなかったんだ。だから謝ってる」
「はぁ? じゃなんで誘ったんだよ」
俺はなかば呆れつつそう聞いた。
「俺、人肌が無いとよく眠れなくてさ、その安眠を手に入れるために……」
「じゃあ最初からそういえばいいだろ」
「いや、最初からそう言うと逆に怖がられるんだよ」
「はぁ、まぁわかる気がするけど」
「だろ?」
「身近にいないのかよ。一緒に寝てくれる人」
「いないからこうしてるんだよ」
「じゃあ、俺がたまに一緒に寝てやろうか?」
「えっ、いいの!?」
「まぁ」
「ありがとう! ほんとに!」
おっさんは涙ながらに感謝を伝えてきた。
「おっさん、名前なんていうの? 俺は正親。マサって呼んでよ」
「分かった。俺は健一だよ」
「健一か。じゃあ健って呼んでもいい?」
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ホテルの前でおっさんと別れて俺は家に帰った。
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