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婆さん

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「ふ……はぁ。ちっ……くそ。まだ16階じゃねぇか……」

先を見上げるまでもなく、ゴールまでの道のりはまだ半分にも満たっていない。

「お兄さん、すごいねぇ? こんなに重そうな荷物とあたしを背負って階段がこんなに登れるんだねぇ?」
「ふぅ……はぁ。ああ。まぁ、体力にはっ自信があんだよ」

俺に大人しく背負われながら婆さんは楽しそうにしている。
全く。これは親父さんの策略か? それとも本当に徘徊なのか?
前者だったら許せねぇな。こんな婆さんを利用するなんて真似は。
しかも自分の母親なんだろ?
だからせめて後者であってくれ。
俺はそう願いつつ、やっとのことで17階に着いた。
そしてそこに最後の一玉が置いてあった。
俺は風呂敷の中にその玉を入れてもう一度背負い直した。

「お兄さん、ちょっとくらい休憩したら良いんじゃないかい?」
「ああ? あ~。まぁ、そうだけどよ、忠次が心配してんだろうから早くしねえと」
「忠次? あたしの孫とおんなじ名前だねぇ?」
「ああ。そーだなっ……はぁ……ふぅ」
「忠次はねぇ? 可愛いんだぁ。家族のためにねぇ、弁護士目指してくれてんだぁ?」
「そーか。そりゃいいお孫さんだな」

そうか。忠次弁護士目指してんのか。
……うん。似合うな。

「ばあさん?」

背中で婆さんが静かになった。
寝てんのかとも思ったが様子が変だ。
一度背中からおろして確認すると汗をかいて荒い息をしていた。
なんで? さっきまで普通に会話してたのに。

「おい! 婆さん!」
「う……ん……」

苦しそうだ。
俺は荷物を置いて婆さんを抱えて階段を駆け下りた。
スマホは忠次の部屋に置いてきてしまったし、エレベーターも動いていない。

「婆さん! 婆さん! はぁ……。なぁ、大丈夫だからな!」

俺はとにかく婆さんに話しかけながら階段を駆け下りた。

登るのはかなり時間がかかっていたが、降りるのは簡単だ。
1階のフロアに着くと、黒服の男たちが数人いた。

「おい! 携帯かせ!!」
「なんだお前! あ、忠次様の!? あ、おい」

携帯を奪って救急車を呼んだ。

「おい! 忠次に連絡しろ! 今すぐ。あいつの婆さんが」
貴子たかこ様!?」
「おい! 早くしろ」

慌てる黒服に命令しうろたえる黒服たちに怒鳴りながら忠次に連絡を入れさせた。
そうこうしているうちに俺が呼んだ救急車が到着した。
だが忠次たちは間に合わないまま俺が一緒に救急車に乗った。

「婆さん。しっかりしてくれよ」

婆さんは目も開けずに眠っているようだった。

病院について検査をしている間、俺は一人で待合室で待っていた。

「凛太郎!!」
「忠次……」
「貴子さんは!?」

忠次が慌てながら聞くが、残念ながらまだ検査中でどうなったのかは俺も分からない。
だがその時、婆さんの入れられた部屋の扉が開けられて医者が出てきた。

「ご家族の方ですか?」
「はい」

「疲れと水分不足でした。今は寝ていらっしゃいます」

医者がそう言った。
一瞬思考が停止した。

疲れと水分不足……?
なんだ……。
いや、水分不足が大変なのは身を持って知っているが、とにかく命に別状がなくて良かった。

俺はほっと息をついた。

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