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養父と忠次
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私と一之助さんはそのレストランから出て中庭を歩きながら話すことになった。
個室の窓が見えていて、凛太郎がデザートに追加してもらったアイスを嬉しそうに食べているところが見えた。
「なぜ……、あのような命令を凛太郎に」
静かに前を歩く一之助さんに問いかけた。
「やはり聞いていますか」
「ええ。最近教えてもらったばかりですが」
一之介さんは深いため息を一つ吐いてから話し始めた。
「凛太郎は可愛いでしょう」
「? はい。そりゃあ可愛いです」
一之助さんもまた、嬉しそうにアイスを食べている凛太郎を見て微笑んだ。
「知っての通りあの子の父親は、私の弟でね。お恥ずかしながら、あの子の母親や、あの子に暴力を奮っていたのを知ったのは、弟が死んでからでした」
「……弟が死んで、凛太郎の母親は金銭的に立ち行かなくなり凛太郎を私に預けてきました。その頃、凛太郎は喧嘩に明け暮れていた。私は仕事で忙しく気がつくのが遅くなってしまったのですが……凛太郎が人に興味を持たないようにしていると気がつきました……」
「人に興味を持たないように……?」
驚いて聞き返した。
「ええ……でもね、あの子の喧嘩にはいつもそこに誰か被害者がいる。誰かを守ろうと喧嘩をしているのは明白でしたよ」
「そうですか。凛太郎は昔からそうだったんですね。でも凛太郎は普通にしてたら嫌われたりなんかしないのに、何故なんですか。なぜあんな命令を?」
「人から好かれることも、嫌われることも全てを諦めたような顔をして生きていたあの子に、何とかして……母親以外の何か生きる目的を見つけて欲しかったから……ですかね」
「……そんなの、あなたのエゴだ」
「ええ。きっともっといいやり方があったはずです。でも私にはそれ以外のやり方が分からなかった。だから、この選択を取ったことを後悔はしていません。結果的に凛太郎は結城くんのような共に歩める相手を見つけてくれたのだから……。どうか、あの子を大切にしてやってください。弱みをあまり見せたがらない子です。でもきっとあなたになら甘えるのでしょう。私が言うのも烏滸がましいですが、凛太郎をよろしくお願いします」
そう言って、一之介さんは深々と頭を下げた。
「凛太郎の前から消えようなどと思ってないですよね」
私がそう聞くと一之助さんはその質問には答えずにただ微笑んだ。
こういう人が考えそうなことだ。
自分のようなものは凛太郎には邪魔になる。
凛太郎が大切な人を見つけたんだから自分はお役御免だ。凛太郎の目に入らないところに消えてしまおうとかそんなことを思っているのだろう。
「今の話は、凛太郎に全て話します」
そう言うと一之介さんは息を飲んだ。
「それを聞いてあなたとの付き合いを決めるのは凛太郎です。凛太郎を大切に思うなら、あなたの方から居なくなったりしないと約束してください。私は……あなたが後悔していないと言っても、もっと違う方法を模索して欲しかったと思います。でも、今更それを言っても仕方がない。あなたが居なくなれば、凛太郎には母親しか居なくなる。その母親だってご病気なんですよね。凛太郎に寂しい思いをさせないでください」
「っ……、承知、しました」
「それから……もう、嫌われるなんてタスク、必要ないですよね」
「ええ……もちろんです」
「良かった。凛太郎次第ですが、これからもよろしくお願いします、お義父さん」
そうして私たちは凛太郎のところに戻った。
凛太郎はすっかりアイスを食べ終えて退屈そうにしていたけど、私が戻ると安心したように笑った。
個室の窓が見えていて、凛太郎がデザートに追加してもらったアイスを嬉しそうに食べているところが見えた。
「なぜ……、あのような命令を凛太郎に」
静かに前を歩く一之助さんに問いかけた。
「やはり聞いていますか」
「ええ。最近教えてもらったばかりですが」
一之介さんは深いため息を一つ吐いてから話し始めた。
「凛太郎は可愛いでしょう」
「? はい。そりゃあ可愛いです」
一之助さんもまた、嬉しそうにアイスを食べている凛太郎を見て微笑んだ。
「知っての通りあの子の父親は、私の弟でね。お恥ずかしながら、あの子の母親や、あの子に暴力を奮っていたのを知ったのは、弟が死んでからでした」
「……弟が死んで、凛太郎の母親は金銭的に立ち行かなくなり凛太郎を私に預けてきました。その頃、凛太郎は喧嘩に明け暮れていた。私は仕事で忙しく気がつくのが遅くなってしまったのですが……凛太郎が人に興味を持たないようにしていると気がつきました……」
「人に興味を持たないように……?」
驚いて聞き返した。
「ええ……でもね、あの子の喧嘩にはいつもそこに誰か被害者がいる。誰かを守ろうと喧嘩をしているのは明白でしたよ」
「そうですか。凛太郎は昔からそうだったんですね。でも凛太郎は普通にしてたら嫌われたりなんかしないのに、何故なんですか。なぜあんな命令を?」
「人から好かれることも、嫌われることも全てを諦めたような顔をして生きていたあの子に、何とかして……母親以外の何か生きる目的を見つけて欲しかったから……ですかね」
「……そんなの、あなたのエゴだ」
「ええ。きっともっといいやり方があったはずです。でも私にはそれ以外のやり方が分からなかった。だから、この選択を取ったことを後悔はしていません。結果的に凛太郎は結城くんのような共に歩める相手を見つけてくれたのだから……。どうか、あの子を大切にしてやってください。弱みをあまり見せたがらない子です。でもきっとあなたになら甘えるのでしょう。私が言うのも烏滸がましいですが、凛太郎をよろしくお願いします」
そう言って、一之介さんは深々と頭を下げた。
「凛太郎の前から消えようなどと思ってないですよね」
私がそう聞くと一之助さんはその質問には答えずにただ微笑んだ。
こういう人が考えそうなことだ。
自分のようなものは凛太郎には邪魔になる。
凛太郎が大切な人を見つけたんだから自分はお役御免だ。凛太郎の目に入らないところに消えてしまおうとかそんなことを思っているのだろう。
「今の話は、凛太郎に全て話します」
そう言うと一之介さんは息を飲んだ。
「それを聞いてあなたとの付き合いを決めるのは凛太郎です。凛太郎を大切に思うなら、あなたの方から居なくなったりしないと約束してください。私は……あなたが後悔していないと言っても、もっと違う方法を模索して欲しかったと思います。でも、今更それを言っても仕方がない。あなたが居なくなれば、凛太郎には母親しか居なくなる。その母親だってご病気なんですよね。凛太郎に寂しい思いをさせないでください」
「っ……、承知、しました」
「それから……もう、嫌われるなんてタスク、必要ないですよね」
「ええ……もちろんです」
「良かった。凛太郎次第ですが、これからもよろしくお願いします、お義父さん」
そうして私たちは凛太郎のところに戻った。
凛太郎はすっかりアイスを食べ終えて退屈そうにしていたけど、私が戻ると安心したように笑った。
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