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副会長のその時

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『生徒会長を預かりました。市原組に喧嘩を売るつもりが無いのならしばらく探さないでください。多分怪我はさせません』

そんなふざけた手紙が生徒会室に置かれていた。

私は急いで父に電話しながら走った。
市原組といえば、父の組の傘下にそんな名前があったはずだ。
なるべく実家は頼りたく無い。
だが、組の傘下の者が起こしたことで、しかも会長が巻き込まれたということならば一刻を争うので仕方ない。

「父さん。お願いがあるのですが」

語りかけるとスマホ越しに息を飲む声が聞こえた。

『な、何だって! 忠次が私に願い事!? 何だい!?』

見ていなくとも父の喜色満面の笑みが脳裏に浮かんだ。
このテンションの高い父は、私が願い事をしようものなら喜び勇んでとんでもないことをしでかしてくれる。
子供の頃、おもちゃのミニカーを欲しがったら国内随一の高級車をプレゼントされたし、遊園地に連れて行ってもらって人混みに酔ってしまったら、次に遊園地に連れて行ってもらった時には貸切にされたりしていた。
とにかく、この父への頼み方や対応は慎重にならざるおえないのだ。

「市原組の本拠地を知りたいのですが」
『市原組? なぜだい?』
「私の同級生が市原組にさらわれたのです。場所を教えていただければ私が連れ返してきますので」
『そんなの、私が舎弟を何人か送るよ! 忠次はそんな危険なことしなくてもいい!』
「お願いします。父さん。私が自分で行きたいんです」

お願いと言う言葉に弱い父にあえてそう言った。

『っ。立派になって……ぅぅ。忠次ぅ。何かあったらすぐに連絡するんだよぉ。あと、ごめんねぇ。組織もデカくなりすぎると末端までは統率が難しくってねぇ……』
「いえ。ですが、会長は堅気の人間です。市原組にはそれなりの対応をお願いします」
『分かった……気をつけて、怪我したらダメだよ?』
「……はい」

電話を切りため息をついた。
父は本当に喜怒哀楽が激しいので電話するだけでも体力を使う。

その後すぐに父の秘書から市原組の位置情報が転送されてきた。
だが、送り迎えの車まで用意されてしまったので結局は位置情報は必要なかった。

その送り迎えの車に乗ると、実家まで運ばれた。

「運転手さん……」
「すみません。正次様がやっぱり行く前に一目会っておきたい、と仰いまして」
「私は死にに行くんじゃ無いんですが」
「すみません」

運転手が家の前から車を発進させないので私は仕方なく車を降りて父の相手を少しだけしてから涙ぐんで引き止める父を置いて市原組の本拠地まで向かった。

車を降りて敷地に入ると目に飛び込んできたのは榊くんだった。
榊くんが大勢の市原組構成員と戦っていて、今まさに竹刀で殴られそうになっていたところだった。
私は全力でそれを阻止しに向かった。

父さん。これで間に合わなかったら恨みますよ。

だが間一髪で間に合って榊くんを守ることができた。
榊くんはすぐに私の後ろから迫ってきていたらしい敵を蹴りで跳ね除けてくれて背中を預けてきた。

「なぜここに」
「それは私のセリフです」

一言づつ会話しながら目の前の敵を倒していく。

背中を預け、預けられ、闘う行為。
それは信じあっているということだ私は胸が熱くなった。

会長を助けにきたのに、彼と共に戦うというのは楽しく感じてしまった。
息が上がり胸が苦しい。
だけど彼の隣はとても心地が良かった。

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