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制裁ごっこをやめさせる

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会計は、俺のことが好きだと言った。
正直俺は人に好きだと言われたことはほとんどないから嬉しい……ような気がする。
だが、あいつの好きは何か違うような気がした。

流石に本人を前に好きだと言う気持ちを否定することはできなかったが、前に何かの話で聞いたことがある気がするんだ。

自己肯定感が低い人ほど自分に対して辛辣に接してくる人間を好きになりやすいと。
それが科学的に証明されていることなのかは知らないが、会計のあれはそう言うことなんじゃないだろうか。

『俺のこと、本気で好きだった奴なんていないよ……』

あいつはそう言った。
そしてそう言った時の顔から本当にそう思っていることが伝わってきた。

会計はきっと、本当の意味で俺を好きなわけじゃないんだろう。
チャラい性格のあいつはきっと色んな人と付き合って、色んな人に好きだと言われて。
そのどれも、信じることができずにここまで生きてきたのだろう。
だが俺がたまたまそこにいて、会計に対してなびかなかったから俺なら本当の自分を分かってくれるんじゃないかと、そう思ったのかもしれないな。

俺の憶測でしかないが。

だが、もしも本当にそうだとしたら、あいつの考えを訂正しなければならない。
なぜなら、転入生が会計のことを好きだからだ。

振られたら泣くほどに。
会計が好きだと言った俺にまるで物語の悪役令嬢のような嫌がらせをしてまで取り戻そうとするほどに。
俺にはまだそこまでするほど好きになった相手もいないから分からないが、会計のような男には転入生のような男が合っていると思うんだ。

ただただうざいほどに愛を伝えてくる転入生のようなやつが。

だが、その悪役令嬢は辞めさせないといけない。
転入生を心配している担任があまりにも哀れだからだ。


次の日学校へ行くと転入生が俺とすれ違う位置に来た。
目の端にゆっくりと転ぼうとしている転入生が映る。

俺はサッと手を出して今にも転がりそうだった転入生の体を支えてやった。

「大丈夫~? 足下ちゃんと見て歩いた方がいいよぉ」

にっこりと転入生の目を見てそう伝えると、転入生の顔がみるみる赤くなっていった。

「あ、ぁ、親衛隊長っ、足ひっかけようとしただろ! やめろよ!!」
「してないよ~、大体、引っ掛けようとしたなら助けないでしょう?」
「っ……! ならいいっ」

転入生は走って逃げていった。

また次はバケツを持って俺に近づいてきた。
バケツの中を覗くと結構汚れた水が入っている。
俺のすぐそばまでくると今度は周りの人間の視界から外れるような位置を探って頭から被ろうとした。
やることが分かっているこちらとしては、止めようと思えばそう何度も引っかかるような罠ではない。ただ俺が今までは転入生に協力的だっただけだ。

俺は汚水を被ろうとする転入生を覆いかぶさって守った。
おかげで俺は汚水まみれだがバケツの水をかぶるのを止めて騒ぎ出されても面倒くさいのでこういう形を取らせてもらった。
転入生からすれば悪巧みは失敗に終わり、好きでもない……むしろ嫌いな俺から床ドンをされるという不幸に苛まれたわけだ。


その次は俺が襲わせたとか言う理由でヤンキーたちと宜しくやろうとしていた転入生を助けてやった。良いところを邪魔されたヤンキーたちはキレていたが大人しくなっていただいた。

「何で! 何で邪魔するんだよっ! 大人しく俺をいじめろよ!!」

ヤンキーたちが去っていった教室で転入生が叫んだ。

「なぁに? その言い分はぁ。僕はただ君を助けてあげただけじゃない」
「助けてくれなんて頼んでないだろ! お前には、琢磨や和馬がいるのにっ何で! 何で、イツハまで取ろうとするんだよ!」
「別に取ろうとしてないよぉ?」
「でも! イツハは親衛隊長が好きだって言ったんだ! 俺とはもう付き合えないって!!」
「そんなに会計さまのことが好き?」
「好きに決まってんだろ!? じゃなきゃこんな……」
「こんな?」
「こんな……こと……」
「やっぱり悪いことだって自覚してやってるんだぁ。でもさ、そんなことして会計さまの心が自分に戻ってくると思う?」
「うるさい! うるさいうるさい! お前にはわかんないだろ! イツハのこと好きなのに、俺はイツハのセフレでしかなかった……。好きだって思われなかった……俺の、気持ちなんて」

だんだんと小さな声になって最後は消え入りそうだった。
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