チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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26 紅茶

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「私は、お前の兄になった覚えはない。その呼び方はやめろと言っているだろう」

ベルガリュードはギロリとセリアを睨みつけ硬い声でそう告げた。

「そんな。だって、私はお義兄様のことを、本当のお兄様のように思っているのに」
「お前の父親は捕らえた。私が会う約束をしていた御令嬢を勝手に追い返した罪だ」

(それってことはつまり、ソフィ様のお父上はドラスティール帝国の宰相様ということ?)

「そんなっ! だって、お義兄様は婚約者の方に会うのを嫌がっていらしたって……」

セリアはしどろもどろになりながら、キョロキョロと所在なさげに視線を泳がして、うなだれた。

「……まぁまぁ。少しは落ち着いてくださいな」

ソフィがニコニコと笑って、そう言った。
ベルガリュードは怒りを抑えるように眉間を指で押しながら、やっと部屋を見渡し、ルーナストのところで視線を止めた。

(バレない……よね)

自分の正体について話をするのは、できれば2人きりの時が良いと思っている。

「あなたが、ブラクルト辺境伯の御令嬢ですか」

まっすぐにルーナストを見据える目にどきりと心臓が跳ねて、それからドキドキと胸が忙しなく動いた。

「はい。お初にお目にかかります。カンドルニア王国のブラクルト辺境伯が娘、ルーナスト・メディスタム・ブラクルトでございます」
「ブラクルト嬢、宰相が勝手なことをしてしまってすまない。私がベルガリュード・リック・ドラスティールだ」
「はい、ドラスティール様、よろしくお願いいたします」

そうして、自己紹介を終わらせたものの、何を話せばいいのか分からず部屋は静かになった。

「……そういえば、ルーナスト様にいただいた茶葉で紅茶を入れようと思っていましたの。ベル様もいかがですか?」

ソフィのその言葉に、ベルガリュードは不快そうに眉を潜めた。
けれどソフィはテキパキと紅茶を入れる準備をしている。

「とっても美味しそうな紅茶ですの。ルーナスト様、このようなお土産を本当にありがとうございます。お義兄様に飲んでいただきたくて持ってきたとおっしゃっていましたもの、本当によかったですわ」

セリアの綺麗な微笑みに、ルーナストは首を傾げた。

(え、私は何も持ってきてないけど)

「あの、私紅茶をお土産に持ってきたりしていませんが、何か勘違いされていませんか?」

間違いを指摘すると言うのは少し気が引けたものの、勘違いされたまま感謝されるのは居心地が悪い。けれど、セリアもソフィも、ルーナストの言葉に「まぁ」と驚いた声を発した。

「そんな謙遜しないでくださいまし」
「そうですわ。さぁベル様、どうぞ」

入れたての紅茶がベルガリュードの目の前にことりと置かれてルーナストは混乱した。
何かおかしい。
セリアとソフィを見れば二人とも悪魔のように笑っている。
だからルーナストはこれだけは分かった。

(閣下に飲ませたら危ない)

ルーナストはベルガリュードがカップを手にする前に、横から奪い取った。

「ドラスティール様、すみません。こちらは私が」
「あ、おい」

カップに口をつけ、熱い液体を飲み込んだ。
砂糖などを入れた様子はなかったが、どろりと甘い味がした。

ドクリーーーー。

心臓が大きく脈打つ。

ドクリ、ドクリ

体は熱く、視界はぼやけ体の奥底からゾワゾワした感覚が這い上がってくる。

「ぁ……なんだ、これ」

痛かったり、苦しかったりするわけではない。
だから、毒ではないかもと思った。
ただただ体が熱い。
ドクドクと心臓が早く脈打っている。

「……媚薬か」

近くでベルガリュードが息を吐き小さくつぶやいた。

(びやく? 媚薬!? え、これが……)

ルーナストはあまり思考がまとまらない頭でパニックを起こした。

(どうしよう、これ私が持ってきたと思われている紅茶なのに、媚薬って……。とにかくこの場所を離れないと)

「す、みません。どこか空き部屋を……貸して、くだ」
「少し失礼する」

ルーナストが言い終わらないうちに、ベルガリュードがそう声をかけ、ルーナストを横抱きにした。

「えっ!? ちょ」

以前、訓練所で魔力切れになった時もこうして運ばれた。
けれど、その時とは比べ物にならないくらいドキドキする。

(これが、媚薬か)

ルーナストは抱き上げられすぐに違う部屋に移動したのが分かった。
先ほどの部屋よりも大きな窓があり、ベッドもある。

「しゅんかん、いどう……2人で……すご」

1人で瞬間移動をするよりも、誰かを連れて行くのはかなりの魔力コントロール力が必要だ。
媚薬に侵された熱の中でも、ベルガリュードへの尊敬は薄れることを知らない。

「大丈夫か?」

ベルガリュードはルーナストをベッドに寝かせ、ベッドの横に立って心配そうに見下ろした。

「っ、はい……」

(大丈夫だから早く出て行って欲しい)

「水を持ってくる」

ルーナストの思いが通じたのか、ベルガリュードはそう言って、部屋を出て行ってくれた。
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