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25 ベルガリュードの恋人
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城から坂を下ったところに城下町があったので、そこに向かった。
お金は幾分か持っている。
街に着いたルーナストは、とりあえず定食屋に入りたい気持ちをなんとか抑え、カフェに入った。もちろん、ルーナストの今着ている服が、ドレスだからである。
コーヒーと軽食を頼み待っていると、可愛らしい御令嬢に話しかけられた。
「ご一緒してもよりしくて?」
「え? ああ、もちろんです。どうぞ」
見渡せば席が埋まってるわけではなかったが、特に断る理由もないので頷いた。
「どうもありがとう。あなたこの辺りでは見たことがない顔ですけれど、服装を見る限りどこかの貴族の御令嬢でしょう?」
「え……っとまぁ、そうです」
「どこからいらしたの?」
「カンドルニア王国から」
「まぁ!! そんな遠いところから! そうですのね。でも奇遇ですわ。ちょうど私のお義兄さまがその国の方と婚約をするとおっしゃっていましたの」
それを聞いたルーナストは、そのお義兄様というのがベルガリュードなのではないかと疑った。
タイムリーすぎるからだ。
「へ、へ~」
「けれど、お義兄さまは乗り気じゃなくて追い返したそうですわ」
(いやいやこれってほんと、間違いなく閣下の話じゃ? 妹がいたなんて知らなかったな)
それどころか、現皇帝の兄がいること以外、ベルガリュードについてほとんど何も知らないことに気がついた。
「そうなんですか。なぜお義兄さんは追い返すほど乗り気じゃなかったんでしょう」
「そんなのもちろん、交際している女性、つまり恋人がいるからよ」
「っ、そうなんですか……なるほど」
“恋人”と言う言葉に、ルーナストは何故だか胸がズキリと痛んだ。
それにベルガリュードに女性の影が全く見えなかったので、交際している相手がいると言うのはかなりびっくりした。
けれどその理由なら納得だ。
もちろん、顔も見ずに追い返されるほどのことだとは思えなかったけれど、交際相手がいるのなら、親が決めた婚約だろうと、会ってしまってその交際相手に変に誤解されるのを防ぎたいというのもあるかもしれない。
「ねぇこのあと私の屋敷に遊びにいらっしゃらない?」
「え?」
「ねぇいいでしょう?」
「まぁ」
時間もあるし、何かあっても魔術があるので安心のルーナストは、少し考えただけですぐに了承した。
「ところで私の名前は、セリア・ララ・アロイスよ。アロイス公爵家の娘。あなたは?」
「ルーナスト・メディスタム・ブラクルトです。ブラクルト辺境伯の娘です」
ルーナストがそう言うと、セリアはニンマリと口角をあげた。
セリアのその表情で、初めからベルガリュードの婚約相手だと分かった上でルーナストに話しかけたのだろうと確信した。
「ふふ。あ、そうですわ。お義兄さまの交際相手も呼んでお話ししましょう」
手を叩き、楽しそうに笑うセリアはまるで悪魔のようだと思った。
アロイス公爵邸はそこから馬車で1時間ほどの場所にあった。
馬車に揺られている間、ルーナストは窓の外を眺めぼーっとしていた。
(そういえば、お義兄様と呼ぶからには何か関係があるのだろうけど、家名はちがうんだなぁ)
ベルガリュードの交際相手も呼びましょうと、あの場で決まったはずなのに、ルーナスト達がアロイス公爵邸に着いた時には、すでに屋敷の中にその女性がいた。
「始めましてルーナスト・メディスタム・ブラクルトです」
「あら、あなたが。私はバロー子爵の娘、ソフィ・マノン・バローよ。ベルがあなたみたいな人となんて」
あからさまな嫌悪感を隠すこともせずにルーナストを下げずんだ目で見てくるソフィに、ルーナストは困惑した。
なんと返すのが正解なのかと考えていたところ突然扉がすごい音を立てながら開いた。
バン!!!!
開いた扉は勢いでギィギィと開閉している。
そしてそこには鬼の形相のベルガリュードがいた。
「失礼する!!」
「か……」
「お義兄様!」
「ベル!!」
閣下と言いそうになって、ルーナストとしては初対面だったことを思い出し、口をつぐむと、セリアとソフィは慌てたように席を立った。
どうやらここにベルガリュードが来ることは想定外だったようだ。
お金は幾分か持っている。
街に着いたルーナストは、とりあえず定食屋に入りたい気持ちをなんとか抑え、カフェに入った。もちろん、ルーナストの今着ている服が、ドレスだからである。
コーヒーと軽食を頼み待っていると、可愛らしい御令嬢に話しかけられた。
「ご一緒してもよりしくて?」
「え? ああ、もちろんです。どうぞ」
見渡せば席が埋まってるわけではなかったが、特に断る理由もないので頷いた。
「どうもありがとう。あなたこの辺りでは見たことがない顔ですけれど、服装を見る限りどこかの貴族の御令嬢でしょう?」
「え……っとまぁ、そうです」
「どこからいらしたの?」
「カンドルニア王国から」
「まぁ!! そんな遠いところから! そうですのね。でも奇遇ですわ。ちょうど私のお義兄さまがその国の方と婚約をするとおっしゃっていましたの」
それを聞いたルーナストは、そのお義兄様というのがベルガリュードなのではないかと疑った。
タイムリーすぎるからだ。
「へ、へ~」
「けれど、お義兄さまは乗り気じゃなくて追い返したそうですわ」
(いやいやこれってほんと、間違いなく閣下の話じゃ? 妹がいたなんて知らなかったな)
それどころか、現皇帝の兄がいること以外、ベルガリュードについてほとんど何も知らないことに気がついた。
「そうなんですか。なぜお義兄さんは追い返すほど乗り気じゃなかったんでしょう」
「そんなのもちろん、交際している女性、つまり恋人がいるからよ」
「っ、そうなんですか……なるほど」
“恋人”と言う言葉に、ルーナストは何故だか胸がズキリと痛んだ。
それにベルガリュードに女性の影が全く見えなかったので、交際している相手がいると言うのはかなりびっくりした。
けれどその理由なら納得だ。
もちろん、顔も見ずに追い返されるほどのことだとは思えなかったけれど、交際相手がいるのなら、親が決めた婚約だろうと、会ってしまってその交際相手に変に誤解されるのを防ぎたいというのもあるかもしれない。
「ねぇこのあと私の屋敷に遊びにいらっしゃらない?」
「え?」
「ねぇいいでしょう?」
「まぁ」
時間もあるし、何かあっても魔術があるので安心のルーナストは、少し考えただけですぐに了承した。
「ところで私の名前は、セリア・ララ・アロイスよ。アロイス公爵家の娘。あなたは?」
「ルーナスト・メディスタム・ブラクルトです。ブラクルト辺境伯の娘です」
ルーナストがそう言うと、セリアはニンマリと口角をあげた。
セリアのその表情で、初めからベルガリュードの婚約相手だと分かった上でルーナストに話しかけたのだろうと確信した。
「ふふ。あ、そうですわ。お義兄さまの交際相手も呼んでお話ししましょう」
手を叩き、楽しそうに笑うセリアはまるで悪魔のようだと思った。
アロイス公爵邸はそこから馬車で1時間ほどの場所にあった。
馬車に揺られている間、ルーナストは窓の外を眺めぼーっとしていた。
(そういえば、お義兄様と呼ぶからには何か関係があるのだろうけど、家名はちがうんだなぁ)
ベルガリュードの交際相手も呼びましょうと、あの場で決まったはずなのに、ルーナスト達がアロイス公爵邸に着いた時には、すでに屋敷の中にその女性がいた。
「始めましてルーナスト・メディスタム・ブラクルトです」
「あら、あなたが。私はバロー子爵の娘、ソフィ・マノン・バローよ。ベルがあなたみたいな人となんて」
あからさまな嫌悪感を隠すこともせずにルーナストを下げずんだ目で見てくるソフィに、ルーナストは困惑した。
なんと返すのが正解なのかと考えていたところ突然扉がすごい音を立てながら開いた。
バン!!!!
開いた扉は勢いでギィギィと開閉している。
そしてそこには鬼の形相のベルガリュードがいた。
「失礼する!!」
「か……」
「お義兄様!」
「ベル!!」
閣下と言いそうになって、ルーナストとしては初対面だったことを思い出し、口をつぐむと、セリアとソフィは慌てたように席を立った。
どうやらここにベルガリュードが来ることは想定外だったようだ。
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