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24 帝国へ
しおりを挟むベルガリュードが帰ってきたことで、ルーナストたちは一応訓練を再開することになった。
ルーナストはベルガリュードに本当のことを伝えようとしたけれど、タイミングが合わず伝えられぬまま1週間が経ってしまった。
ルーナストはベルガリュードの婚約者として輿入れするまでにあと2週間しかないと焦った。
けれどその後、またも帝国へと戻ってしまったベルガリュードがカンドルニアまで戻ってきたのは、その1週間後。それも詳しくは聞かされなかったが、ベルガリュードは第二皇子殿下から、皇弟殿下になっていた。
教官として、ルーナストたちの訓練をして、それから魔術で帝国へ瞬間移動し、執務をこなしてまた訓練所に戻って来ているらしく、ルーナストが個人的に話の場を設けてもらうことはできなかった。
(こうなったら、輿入れの時に全てを話してしまおう)
ルーナストはそう決意して、輿入れの前日まで訓練に参加した。
ひょっとしたら、これが王国軍での最後の訓練になるかもしれないと覚悟しながらの訓練だった。軍側からすれば突然辞めることになるけれど試験でのトーナメント1位と言っても、結局は訓練生。その中の1人がいなくなってしまったところで、それほど迷惑はかけないだろう。
(でも、訓練期間が終わる3ヶ月が終わってないから、閣下に一戦頼めなくなったのが心残りだな)
そして輿入れ当日。
ショーンはなんだかんだと言いくるめて王国軍に残ってもらった。
ルーナストは実家に戻り、短い髪を隠すようにカツラを被り、ドレスを着て侍女に化粧をしてもらい準備をした。ルーナストの私物といえば剣や魔術書や防具など。とても貴族令嬢が輿入れに持っていくようなものではない。なのでルーナストの荷物は両親が準備したドレスが数着とネックレスなどの装飾品が数点という寂しいものになってしまった。
ルーナストが全てを話してしまえば当然ベルガリュードは騙されていたことを怒るだろうし、婚約は破棄になるだろう。
(だから荷物は少なくてよかったかも)
そう一人で納得していると、両親が目に涙をためながら部屋にやってきた。
「父上、母上、今まで育ててくれてありがとうございました。娘らしいことは何ひとつしてこなかった私ですが、それでも娘として愛してくださって本当に嬉しかったです」
「ルーナスト……。辛くなったらいつでも戻ってきなさい」
軍に行くときとは正反対の言葉を発した父親に、ルーナストは父の愛を感じて胸が暖かくなった。
「ルーナスト、私たちは何があってもあなたを愛しています」
母親も、目に涙を溜めてルーナストを見つめた。
「父上、母上、本当にありがとうございます。お二人の子供として生まれて本当に良かった」
図らずも、今生の別れのような挨拶になってしまいルーナストは、両親にそれがバレる前に慌てて立ち上がった。
ルーナストがやっていたことは、国を騙すことと同じ。もしもベルガリュードにそのことを話すことが出来たとき、お咎めはルーナストだけにしてもらえるように頼み込むつもりだった。その時は殺される可能性も考えていた。
「では、行ってまいります」
「気をつけて」
「たまには帰ってこい」
ルーナストは荷物をまとめた1つのカバンを手に持ち、魔術を発動した。
「ドラスティール帝国国境へ」
ルーナストはそこまでしか行ったことがなかったので、魔術で移動できる場所はそこが限界だった。国境から先は魔術を使い風に乗って走って移動すれば、1日ほどで着く距離だったがルーナストの魔術量がずば抜けていたおかげで半日で到着してしまった。
さすがは大国のドラスティール帝国なだけあり、ルーナストの目の前にそびえ立つ城は今まで見たことがないほどの大きさがあった。
城の前には帝国軍の軍服を身に纏った門番が居る。
城の周りには建物などがなかったのでルーナストは約束の時間までの時間の潰し方に迷った。
「あの」
「なんでしょう」
門番に話しかけたルーナストに、門番は思いの外優しい声音で返してくれた。
「私は、カンドルニア王国から来ましたルーナスト・メディスタム・ブラクルトと申します。約束しているお時間よりも半日ほど早く着いてしまいましたが、どこか時間を潰せる場所があれば教えて欲しいのですが」
「……なるほど。あなたがブラクルト辺境伯令嬢なのですね。少しお時間いただいてもよろしいですか? 上の者に報告してまいります」
「はい」
門番は、他の兵を呼んでルーナストの近くで待機させ、自分は報告のために城の中に入っていった。しばらくすると身なりの良い壮年の男性を連れ戻ってきた。
「はじめまして私はこの国の宰相をしております、ジャックと申します。ブラクルト辺境伯令嬢、ようこそドラスティール帝国へ……と申し上げたいところですが、この婚約には行き違いがありまして、ベルガリュード元帥閣下はあなたとの婚約を望んでおられないのです」
「……はい」
「つまり、ベルガリュード元帥閣下はあと半日が経ちお約束のお時間になったとしても貴女とお会いになることはありません。見たところ、馬車が見当たらないようですが、お帰りの馬車はこちらでご用意いたしましょうか」
「……なるほど。いえ、馬車は不要です。ありがとうございました」
ルーナストは頭を下げて城を後にした。
「あ~あ。話す機会がまたなくなった」
上皇陛下からの縁談というだけで、ベルガリュードがルーナストを好きなわけではないというのは、もちろんルーナストも分かっていたのでベルガリュードがこの婚約に乗り気じゃないことには何も感じなかった。
けれど、会うこともなく追い返されるとは思っていなかったのだ。
すぐに帰ってしまうと両親をあまりにも早く悲しませるかもしれないと思ったルーナストはしばらく帝国に滞在することにした。
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