チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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21 辺境伯からの呼び出し

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授業をサボったお咎めがないなんてはずはなかった。
夕食を食べた後、すっかり日課になった魔力トレーニング中にベルガリュードから呼び出しを受け、ルーナストは悲壮な気持ちで教官室に向かった。
サボった言い訳をしようにも、外出許可を取ってもいないのに外に出たことまで白状しなければならない。

けれど他に人が見当たらない教官室に入って、真っ先に問われたのはルーナストの考えていた内容とは全く違った。

「お前は、ブラクルトの女神なのか?」
「……え」

それは質問というよりも、確信していることをただ確認しているかのような言い方だった。
確かにルーナストはブラクルトの女神なんて恥ずかしい呼び方をされたこともある。
今にして思えば、それはルーナストの憧れのドラスティールの鬼神と対になるようで、改めて言われると少し照れる。
けれど今はそれどころではない。
ブラクルトの“女”神。つまり女であるのか疑われているのかもしれない。

「えっと……。なんでしょう、ブラクルトの女神? 初めて聞きました」
「嘘をつくのは良く無いな。私は、ブラクルトの女神が光の矢を降らせるのを見たことがある。そして、昼間お前がその光の矢を放っているところも見た」
「な……」

昼間のあれを見られていたとなればもう言い逃れはできないのだろう。
ルーナストはうなだれた。けれど、ベルガリュードは思いの外優しい声で話し出した。

「私も、元帥となるまで私の立場や力に嫉妬した者たちに多くの手柄を奪われた。その悔しさは分かるつもりだ」
「ぁ……」

(私は、憧れの人を騙してここに居るんだ)

ベルガリュードがルーナストを部下として可愛がってくれていることが、急に重くのしかかった。

(ああ。恩に報いたい? 役に立ちたい? 閣下に対して、いや、みんなに対して嘘を吐き続けている私が……?)

急に自分という存在が恥ずかしく感じた。
国のために戦うという大義名分を掲げ、結局自分が強くなりたい、王国軍で訓練を受けたいという自分の欲を満たすための行動だ。

(どうすれば……)

自分の軽はずみな行動を今になって後悔した。

『辛くなって帰ってくるなど情けない真似は見せるなよ』

家を出る前の父の言葉を思い出す。
訓練で逃げたくなるほど辛かったことなどない。むしろ楽しい1ヶ月だった。
けれどそれはみんなを騙して手に入れた1ヶ月だった。

「人を騙して、人の手柄を自分のものにするのは良く無い。まして、身分的に力の無い者の武功を自分の手柄にするなど。私はこの1ヶ月、お前の人となりを見て、お前のことを気に入っている。ブラクルト辺境伯や令嬢に弱みでも握られているなら私が守ると約束しよう」
「弱……み、そんなの、ないです。私は……」

(本当のことを言わなければ。本当のことを言って、軍をやめなければ)

けれど、それは部屋の中に突然現れた男によって中断された。
何も無い空間から突然姿を現した男は黒づくめで、片膝をつきベルガリュードに向かい頭を下げている。

「なんだ」

ドラスティールが聞くと、男はルーナストを一瞬チラリと確認した後、口を開いた。

「はっ。閣下に急ぎ帝国へ帰っていただきたく」
「何があった」

そのまま無言になってしまった男に、ベルガリュードは一つうなずいた。

「ルート、今日はもう良い。部屋に戻れ」
「はい」

ルーナストは部屋に戻り荷物をまとめた。
といっても着替えくらいしか持ってきていないためすぐに荷造りは終わる。
あとは、ベルガリュードに本当のことを言って辺境伯領に戻るだけだ。
ショーンは歴とした男だし、この軍にいることも楽しんでいるから、ルーナストは1人で戻ろうと考えていた。

けれど次の日からベルガリュードは所用で帝国に帰ることになったらしく、ルーナスト達の訓練は自主トレになった。
その上、辺境伯領から早馬でルーナスト宛てに手紙が届いた。

「手紙、何だって?」

ショーンが手紙を覗き込むように聞いてきた。

「1度戻ってきて欲しいって」
「何かあったのかな?」
「分からないけど、とりあえず戻ってみる」

手紙の中の文字だけでもかなり慌てている様子が見て取れた。

「でも、外出許可なんて降りないよ」
「うん。だからショーンはここにいて私がいるように偽装してほしい。今は私たちの班だけ訓練がないから、顔を見せなくても怪しまれることも少ないだろうし」
「分かった」

そうして、ルーナストは辺境伯領に戻った。
1人で戻るのなら魔術で瞬間移動ができる。

「ブラクルト辺境伯領へ」

呟くと周りの景色が歪み、そして次の瞬間にはブラクルト辺境伯の屋敷の中にあるルーナストの自室についた。

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