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19 魔力コントロール
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それから1ヶ月が経ち、合同訓練が終わった。
残りの2ヶ月は各自担当の教官から訓練を受けることになっている。
この1ヶ月の間で、ルーナストはどんどんベルガリュードのことが気になるようになっていた。
夜遅くまで広い訓練所内を見回り、無茶をしている訓練生がいないか探し、気にかけてくれているところ。皇族だというのに使用人や平民出身の訓練生に分け隔てなく接するところ。ルーナストが平民だと嘘をついて入隊したことを知り、何かの疑いにかけている時も、なるべくなら部下を疑うようなことはしたくないと、見逃してくれたこと。ルーナストからしたら上げ出したらキリがないくらい素晴らしい人間だった。
「閣下が宗教でも開けば絶対入信する」
「……それは……、すごいな」
ルーナストの独り言を横で聞いていたロイがドン引きの顔をした。
「あれ? ショーンは?」
いつもはルーナストとショーンが話に夢中になり、ロイはそれを近くで静かに聴いていることが多い。
「ショーンはトイレだ」
「そーなんだ」
「それにしても、閣下のどこがそんなに良いんだ?」
首を傾げながら質問されたその内容は、もしもドラスティールの鬼神の大ファンであるショーンが聞いていたら発狂していただろう質問だった。
もちろん同じく大ファンのルーナストはショーンがトイレから戻るまでの間、息継ぎをする間もないほどに、ベルガリュードのかっこよさを説いた。
「はぁ~、すっきりしたぁ。ってロイ、なんでそんなにげっそりしてるの?」
「おかえりショーン。ロイが閣下の素晴らしさが分からないって言うから、閣下の素晴らしさを説き伏せていたところなんだ」
「ルート、それは良いことをしたね」
「でしょ。あ、私もトイレ行っておこうかな。じゃあショーン、ロイへの講義は任せた」
「うん! 任せておいて」
「も、もう大丈夫だ」
悲痛な声で拒否をするロイの声に笑いながら、ルーナストはトイレに向かった。
「ルート様ぁ~、かっこいい~」
トイレに向かう廊下の脇から見える柵の外で待ち構えていたリンローズが、ルーナストに手を振っている。
(いつも見に来てるけど、暇なのかな。けど……なんだろう、今日は嫌な予感がする)
ルーナストはまだ次の授業までに時間があったので、リンローズに近づいた。
「リンローズ様、こんにちは」
「きゃぁ~、こんにちは!! 話しかけてくださるなんて珍しいですね!!」
「そうですか。あの、今日は護衛は?」
「両親に内緒でこっそり抜け出して来たんです。だから今日は護衛はいないの」
「リンローズ様は子爵令嬢なんですよね。危ないので早くお帰りください」
「え~! 大丈夫ですわ!」
目をキラキラと輝かせながらルーナストを見るリンローズは、護衛もなしにうろつくことが危ないということが少しも頭に無いようだった。
けれどすぐに嫌な予感は的中した。
リンローズの後方にゴロツキのような風貌の男たちがわらわらと出てきた。
訓練場の3メートルはあるだろう高さの柵の向こうだ。
「ぐへ、ぐへへへ」
「ふぇ!? な、何!!?」
「アロン子爵の娘のリンローズだな」
その言葉に目を見開き男たちを見るリンローズに、男たちは笑った。
「答えなくてもあんたがリンローズ・クロエ・アロン子爵令嬢だということは調べがついてるんだ。さぁ、一緒にきてもらおうか」
「な、何が目的ですか!?」
「そんなの……、金に決まってるだろう? さぁ来い!!」
「きゃ!! やめてっ」
リンローズの腕を掴んで連れ去ろうとする男たちに、ルーナストはため息をついた。
「リンローズ様、目を瞑っていてください」
「え、は、はい」
リンローズがギュッと目を瞑ったのを確認してルーナストは魔術を発動した。
「強光」
「う゛ぁ!」
途端、あたりは強い光に包まれてリンローズを掴んでいた男はその眩しさに目を押さえて蹲った。
命を脅かすような魔術では無い。
けれど、一番近くで光を浴びた男の視力は今後著しく下がるだろう。
すぐに足元に風を起こし、3メートルの柵を越えリンローズの肩を抱き、向かってこようとする男たちに向かって右手を突き出した。
「閃光矢」
「わっ! うわぁあああ!!!」
降り注ぐ光の弓矢に男たちはパニックを起こし、散り散りに逃げていった。
魔力や魔術訓練の賜物か、以前にも増して威力が上がっていたが、それを男たちの居る範囲に留める魔力のコントロールもうまくできた。
「1人で来たら危ないと分かりましたか」
「……はい……ごめんなさい」
リンローズがあまりにもシュンとするのでルーナストは良心が痛みそれ以上は何も言えなくなった。
「送っていきます」
「……ありがとうございます、お願いします」
腰が抜けたというリンローズを横抱きにして、風魔術でリンローズの屋敷まで運び終わってから訓練所へ戻った。
(嫌われただろうし、さすがにもう来ないだろうな)
ルーナストはリンローズの珍しくシュンとした様子を思い出しながらそう思った。
訓練所ではすっかり次の授業も、その次の授業も終わっていて、ルーナストはせっかくのベルガリュードの授業を逃したことを悔しく思った。
けれど、授業をサボったことに対するお咎めは何も無くラッキーと思うよりも不思議な気持ちだった。
残りの2ヶ月は各自担当の教官から訓練を受けることになっている。
この1ヶ月の間で、ルーナストはどんどんベルガリュードのことが気になるようになっていた。
夜遅くまで広い訓練所内を見回り、無茶をしている訓練生がいないか探し、気にかけてくれているところ。皇族だというのに使用人や平民出身の訓練生に分け隔てなく接するところ。ルーナストが平民だと嘘をついて入隊したことを知り、何かの疑いにかけている時も、なるべくなら部下を疑うようなことはしたくないと、見逃してくれたこと。ルーナストからしたら上げ出したらキリがないくらい素晴らしい人間だった。
「閣下が宗教でも開けば絶対入信する」
「……それは……、すごいな」
ルーナストの独り言を横で聞いていたロイがドン引きの顔をした。
「あれ? ショーンは?」
いつもはルーナストとショーンが話に夢中になり、ロイはそれを近くで静かに聴いていることが多い。
「ショーンはトイレだ」
「そーなんだ」
「それにしても、閣下のどこがそんなに良いんだ?」
首を傾げながら質問されたその内容は、もしもドラスティールの鬼神の大ファンであるショーンが聞いていたら発狂していただろう質問だった。
もちろん同じく大ファンのルーナストはショーンがトイレから戻るまでの間、息継ぎをする間もないほどに、ベルガリュードのかっこよさを説いた。
「はぁ~、すっきりしたぁ。ってロイ、なんでそんなにげっそりしてるの?」
「おかえりショーン。ロイが閣下の素晴らしさが分からないって言うから、閣下の素晴らしさを説き伏せていたところなんだ」
「ルート、それは良いことをしたね」
「でしょ。あ、私もトイレ行っておこうかな。じゃあショーン、ロイへの講義は任せた」
「うん! 任せておいて」
「も、もう大丈夫だ」
悲痛な声で拒否をするロイの声に笑いながら、ルーナストはトイレに向かった。
「ルート様ぁ~、かっこいい~」
トイレに向かう廊下の脇から見える柵の外で待ち構えていたリンローズが、ルーナストに手を振っている。
(いつも見に来てるけど、暇なのかな。けど……なんだろう、今日は嫌な予感がする)
ルーナストはまだ次の授業までに時間があったので、リンローズに近づいた。
「リンローズ様、こんにちは」
「きゃぁ~、こんにちは!! 話しかけてくださるなんて珍しいですね!!」
「そうですか。あの、今日は護衛は?」
「両親に内緒でこっそり抜け出して来たんです。だから今日は護衛はいないの」
「リンローズ様は子爵令嬢なんですよね。危ないので早くお帰りください」
「え~! 大丈夫ですわ!」
目をキラキラと輝かせながらルーナストを見るリンローズは、護衛もなしにうろつくことが危ないということが少しも頭に無いようだった。
けれどすぐに嫌な予感は的中した。
リンローズの後方にゴロツキのような風貌の男たちがわらわらと出てきた。
訓練場の3メートルはあるだろう高さの柵の向こうだ。
「ぐへ、ぐへへへ」
「ふぇ!? な、何!!?」
「アロン子爵の娘のリンローズだな」
その言葉に目を見開き男たちを見るリンローズに、男たちは笑った。
「答えなくてもあんたがリンローズ・クロエ・アロン子爵令嬢だということは調べがついてるんだ。さぁ、一緒にきてもらおうか」
「な、何が目的ですか!?」
「そんなの……、金に決まってるだろう? さぁ来い!!」
「きゃ!! やめてっ」
リンローズの腕を掴んで連れ去ろうとする男たちに、ルーナストはため息をついた。
「リンローズ様、目を瞑っていてください」
「え、は、はい」
リンローズがギュッと目を瞑ったのを確認してルーナストは魔術を発動した。
「強光」
「う゛ぁ!」
途端、あたりは強い光に包まれてリンローズを掴んでいた男はその眩しさに目を押さえて蹲った。
命を脅かすような魔術では無い。
けれど、一番近くで光を浴びた男の視力は今後著しく下がるだろう。
すぐに足元に風を起こし、3メートルの柵を越えリンローズの肩を抱き、向かってこようとする男たちに向かって右手を突き出した。
「閃光矢」
「わっ! うわぁあああ!!!」
降り注ぐ光の弓矢に男たちはパニックを起こし、散り散りに逃げていった。
魔力や魔術訓練の賜物か、以前にも増して威力が上がっていたが、それを男たちの居る範囲に留める魔力のコントロールもうまくできた。
「1人で来たら危ないと分かりましたか」
「……はい……ごめんなさい」
リンローズがあまりにもシュンとするのでルーナストは良心が痛みそれ以上は何も言えなくなった。
「送っていきます」
「……ありがとうございます、お願いします」
腰が抜けたというリンローズを横抱きにして、風魔術でリンローズの屋敷まで運び終わってから訓練所へ戻った。
(嫌われただろうし、さすがにもう来ないだろうな)
ルーナストはリンローズの珍しくシュンとした様子を思い出しながらそう思った。
訓練所ではすっかり次の授業も、その次の授業も終わっていて、ルーナストはせっかくのベルガリュードの授業を逃したことを悔しく思った。
けれど、授業をサボったことに対するお咎めは何も無くラッキーと思うよりも不思議な気持ちだった。
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