チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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11 ロイ・アスラン

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憧れの軍人は、やはりすごい人だったのだとルーナストは胸がドキドキした。
今のルーナストの力でベルガリュードに勝てるわけはない。
けれども、トーナメントで1位をとった暁にはやはり一戦をお願いして今の自分がどれだけ力が足りていないのかを知りたいと思った。

ルーナストはそのまま観戦席には戻らずトイレに行くことにした。
観戦席の脇を通り、裏手に回ってトイレを目指す。
その時ヒソヒソと話し声が聞こえた。

『次の試合は辞退した方が身のためだな。試験の間魔力を使えなくとも、ここで使えばバレはしない。平民と同じ土俵で戦うなんてヘドが出る。おい、いいか。死にたくなかったら辞退しろ』
『それは無理です。軍人を目指すなら正々堂々戦ってください』

身なりのいい、おそらく貴族の試験生と、今のルーナストと同じような服装をした平民の試験生が向かい合い、貴族の方が平民を脅しているようだ。
平民の方はかなりがたいも良く、立ち姿は隙を見せない雰囲気がある。
真っ黒の髪はボサボサで顎には無精髭が生えていて、身なりにはまるで気を遣ってはいなさそうだが、おそらく剣の腕も良いだろう。

『平民のくせに生意気だな。辞退しないと言うのならここでくたばれ』

貴族の方が魔力を放出し、魔術を使って平民の男を攻撃しようとした。
ルーナストはとっさに平民に向かって手をかざし防御魔法をかぶせる。

バチッ!!

「う゛っ」

魔術が弾かれ貴族に跳ね返り、貴族は奥の壁に飛んでいき打ち付けられて気を失ってしまった。
平民の方は唖然としている。
ふと、平民の男が視線をうろつかせルーナストと目があってしまった。

「あなたが助けてくれたのですか」
「……結果的には」

思ったよりも貴族に対し強く魔力を跳ね返してしまい、気絶させてしまったので、若干の罪悪感を抱きながらそう答えたルーナストに、平民の男はふわりと笑った。

「ありがとうございます」
「いえ」
「俺は、ロイ・アスランと言います。あなたの名前を伺っても?」
「私はルート・メイヴィン。ルートでいいよ。あと敬語はいらない、私も平民だから。よろしく」

手を差し出すとルイはその手をガッチリと掴み、よろしくとまた笑った。

「俺もロイでいい。ルートは平民なのに魔術が使えるのか?」

純粋な目でそう尋ねられルーナストは言い訳を考えてなかったと目を逸らした。

「あ~……、えっと、実はそうなんだ。だけど事情があって隠してる。誰にも言わないでほしいんだけど、いい?」
「ああ、もちろんだ。だが魔術が使えるなんてすごいな。俺はからっきしだから少し羨ましい」
「練習すれば、少しはできるようになると思うよ。私たちが2人とも試験に受かったら、良かったら教えてあげるよ」
「本当か。それは……うれしい。ありがとう」
「うん」

ルーナストは壁で伸びている貴族に近づき回復魔法をかけた。

「こいつもじきに目覚めるよ。早く観戦席に戻ろう」
「ああ」

そうして2人は観戦席に戻った。
ルーナストはロイが戦うのも見たが、やはり所作に隙がなくこの訓練生の中で圧倒的に強い実力を持っていることが分かった。けれどロイはよく見ないと分からないように巧妙に手を抜いている。

(なんで……?)

ルーナストは困惑した。
誰もが軍に入るために全力を尽くしている。
それなのに、ロイは全力を尽くしているように見せかけて、実は手を抜いているのだ。

カキン!!

「あっ……!」

ルーナストは思わず声を上げた。
ロイの剣は弾き飛ばされ、負けてしまったのだ。
ロイが残念そうな顔をしながらルーナストの近くに戻ってくるのを見て、ルーナストは何も言えなかった。何か目的があるのかもしれない。
人の良さそうな顔をして、平気で仲間を裏切る人間など腐る程見てきた。

「お疲れロイ」
「ああ」

疑問を持ったことをロイに気づかれないように声をかけ、慰めるように肩を叩いた。
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