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10 不正
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カンッカンッ
「お前みたいなやつに、リンローズは渡さないぞ」
「……はい。まぁ、渡されても困ります」
カンッカンッ
流石にこの1ヶ月で、少しは剣を練習してきたのだろう。
ルーナストが思っていたよりは、剣の打ち合いはマシだった。
けれど、生まれてからずっとブラクルト辺境伯領で戦いと共に育ってきたルーナストを相手にするには修行が足りなすぎた。
ルーナストが次の一手で剣を弾き、勝敗を決めようとした時だった。
ググッ、グググッ
少量ではあるが、モルガンが魔力を溜め出したのが分かった。
周りの圧が少し重くなる。
観戦中の試験生の中、特に平民達の中には、魔力に当てられて具合が悪そうにしている人たちがいるのを確認して、ルーナストはイラついた。
「ちっ」
行儀悪くも小さく舌打ちをした。
(仮にも王族が平民相手に魔力をぶつけるなんて。そもそも魔力コントロールが出来ていないせいで、余計な被害が出ている)
例え少量とは言え、魔力対策の装備も訓練もしていない平民たちはモルガンの悪意ある魔力を浴びるのは危険だ。
(仕方ない。殿下の魔力を打ち消そう)
ルーナストが右手をモルガンに向けモルガンの魔力を打ち消そうとするよりも早く、モルガンの魔力が離散した。
「魔力を使うのは禁止だと言ったはずだ」
低く告げたその声の主は、ベルガリュードだった。
今まで、どの試合も静かに、けれど鋭い目線で見守っていたベルガリュードは、椅子から立ち上がりもせずに足も組んだままだった。
「その程度のルールも守れぬなら、帰れ」
有無を言わせない厳格な声だ。
この声に反論できる人などいるのだろうかと思わせる。
「お、お、俺は……、モルガン・ノエル・カンドルニアだぞ。この国の王子だ! し、試験なんて受けなくても軍に入れる!!」
怯えながらではあるが、モルガンが叫んだ。
けれど、それを言った相手はこの国どころか、帝国の王子だ。
自分の立場がわかっていないモルガンにみんな一様に冷たい目を向けている。
「……そうか。ならばそうすればいい」
突き放すようにそう言ったベルガリュードの瞳は、ただただ冷たい。
「お、俺は……俺は……軍に入らないと、いけない」
「試験を受けなくても入れるのだろう、第三王子殿」
貴族も平民も、入り乱れて試験を行っているのは、そのような不正を行えない証拠だ。
貴族でも、例え王族であっても試験に受からなければ軍人にはなれない。
そのことをちゃんと分かっていたらしいモルガンは、ヘナヘナと膝をついた。
「お願いします……、試験を受けさせてください」
「ならばするべきことがあるな」
「するべき……こと?」
「悪いことをしたのなら、人間としてすることがあるだろう」
ベルガリュードの言葉に、モルガンはその顔に絶望の色をにじませた。
「……ルート、さん。ズルをしてすみませんでした」
ルーナストに謝ることがそんなに嫌なのかと思うほど、その顔色は悪い。
握り締めた拳がプルプルと震えているのを見て深く息を吐いた。
「まぁ……、いいですけど」
ルーナストはうなずき許した。
具合の悪くなった平民にはあとでこっそり回復の魔法をかけてあげればいいだろうと思い、観戦席に目をやると、そこにはすでに回復魔法が降り注いでいた。
(え……。なんで)
急いでベルガリュードの方を向くとバッチリと目が合った。ベルガリュードは口の端をニッと上げて、その鋭い眼光でルーナストを見ていた。
(もしかして、さっき殿下の魔力を打ち消そうとしていたのがバレた……?)
けれどベルガリュードは瞬きした間に冷たい表情に戻っていた。
「不正により、勝者221番。次の試合に進め」
ベルガリュードがそう言うと、先ほどから試験の司会をしている軍人が急いで次の試験番号を叫び、試験は再開された。
「お前みたいなやつに、リンローズは渡さないぞ」
「……はい。まぁ、渡されても困ります」
カンッカンッ
流石にこの1ヶ月で、少しは剣を練習してきたのだろう。
ルーナストが思っていたよりは、剣の打ち合いはマシだった。
けれど、生まれてからずっとブラクルト辺境伯領で戦いと共に育ってきたルーナストを相手にするには修行が足りなすぎた。
ルーナストが次の一手で剣を弾き、勝敗を決めようとした時だった。
ググッ、グググッ
少量ではあるが、モルガンが魔力を溜め出したのが分かった。
周りの圧が少し重くなる。
観戦中の試験生の中、特に平民達の中には、魔力に当てられて具合が悪そうにしている人たちがいるのを確認して、ルーナストはイラついた。
「ちっ」
行儀悪くも小さく舌打ちをした。
(仮にも王族が平民相手に魔力をぶつけるなんて。そもそも魔力コントロールが出来ていないせいで、余計な被害が出ている)
例え少量とは言え、魔力対策の装備も訓練もしていない平民たちはモルガンの悪意ある魔力を浴びるのは危険だ。
(仕方ない。殿下の魔力を打ち消そう)
ルーナストが右手をモルガンに向けモルガンの魔力を打ち消そうとするよりも早く、モルガンの魔力が離散した。
「魔力を使うのは禁止だと言ったはずだ」
低く告げたその声の主は、ベルガリュードだった。
今まで、どの試合も静かに、けれど鋭い目線で見守っていたベルガリュードは、椅子から立ち上がりもせずに足も組んだままだった。
「その程度のルールも守れぬなら、帰れ」
有無を言わせない厳格な声だ。
この声に反論できる人などいるのだろうかと思わせる。
「お、お、俺は……、モルガン・ノエル・カンドルニアだぞ。この国の王子だ! し、試験なんて受けなくても軍に入れる!!」
怯えながらではあるが、モルガンが叫んだ。
けれど、それを言った相手はこの国どころか、帝国の王子だ。
自分の立場がわかっていないモルガンにみんな一様に冷たい目を向けている。
「……そうか。ならばそうすればいい」
突き放すようにそう言ったベルガリュードの瞳は、ただただ冷たい。
「お、俺は……俺は……軍に入らないと、いけない」
「試験を受けなくても入れるのだろう、第三王子殿」
貴族も平民も、入り乱れて試験を行っているのは、そのような不正を行えない証拠だ。
貴族でも、例え王族であっても試験に受からなければ軍人にはなれない。
そのことをちゃんと分かっていたらしいモルガンは、ヘナヘナと膝をついた。
「お願いします……、試験を受けさせてください」
「ならばするべきことがあるな」
「するべき……こと?」
「悪いことをしたのなら、人間としてすることがあるだろう」
ベルガリュードの言葉に、モルガンはその顔に絶望の色をにじませた。
「……ルート、さん。ズルをしてすみませんでした」
ルーナストに謝ることがそんなに嫌なのかと思うほど、その顔色は悪い。
握り締めた拳がプルプルと震えているのを見て深く息を吐いた。
「まぁ……、いいですけど」
ルーナストはうなずき許した。
具合の悪くなった平民にはあとでこっそり回復の魔法をかけてあげればいいだろうと思い、観戦席に目をやると、そこにはすでに回復魔法が降り注いでいた。
(え……。なんで)
急いでベルガリュードの方を向くとバッチリと目が合った。ベルガリュードは口の端をニッと上げて、その鋭い眼光でルーナストを見ていた。
(もしかして、さっき殿下の魔力を打ち消そうとしていたのがバレた……?)
けれどベルガリュードは瞬きした間に冷たい表情に戻っていた。
「不正により、勝者221番。次の試合に進め」
ベルガリュードがそう言うと、先ほどから試験の司会をしている軍人が急いで次の試験番号を叫び、試験は再開された。
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