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後悔
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菜月くんがいなくなってから、俺の生活は一気に変わった。
春樹が俺の父親に菜月くんが出て行ってしまったことを告げ口したらしく、父親に理由を聞かれた。俺が理由を話すと父親からは心底軽蔑した目を向けられた。
そして俺は橘家の跡取りから外されて職場を首になった。
大学のお金も出すのも取りやめられ、俺は何もかも失った。
「お前は結婚したのにもかかわらず、その春樹とやらと付き合っていたいと菜月くんに言ったんだろう?」
「……はい」
父親は厳しい目を俺に向けていた。
「そこまで好きなら春樹くんとの結婚を認めてやる」
「え、いや俺は」
「いいな?」
「っ、俺は無理です。春樹とはもう……それに春樹には俺以外の子がお腹にいるんです」
「そんなの関係ないだろう。春樹くんはお前と結婚してもいいと言っている。そういう子だと言うことを見極められなかったお前に責任がある」
「嫌です。俺は嫌です! 春樹のことはもう愛せません!!」
「菜月くんのことも愛せないと思ったから結婚した身で堂々と浮気宣言をしたんだろう? それなのにお前は今は菜月くんのことを好きだと言っている。そんなお前のことだ。また春樹くんのことを愛せるようになるさ」
「そんなっ」
「正直、お前と菜月くんが運命の番なのだと聞いて私が乗り気になったのもいけなかった。だが嫌ならお前は何としても俺を説得して結婚をやめるべきだった」
「運命の番だと、知っていたんですか」
「ああ。お前にも言ったはずだ。お前は聞いてなかったのか、信じていなかったのか分からないがな」
そんなことを言われた記憶は……いや、確か婚約を反対していたときにチラッとそんなことを言われた気はするが嘘だろうと勝手に決め付けて今の今まで忘れていた。
「で、ですが、俺は婚約に反対しましたよね。それを跳ね除けたのは父さんじゃないですか」
「ああ。だがお前は跡取りとしての立場に目が眩んで私の言うことを聞いておいた方が得策とでも思ったんだろう? お前は口だけ婚約に反対していただけで何の対策もしなかった……だが私も悪い。だからお前には選ばせてやる。春樹くんと結婚して地方にあるうちの小さな会社で一生平社員で働くか、春樹くんとは結婚せずにどこかで1人で生きていくか、だ」
そう言われて俺は結局春樹と結婚することにした。
周りには特出して何もない、田舎の街の小さな病院で春樹は子供を産んだ。
俺には全く似ていない男の子だ。
春樹はいつもイライラしていて俺たちはいつも喧嘩した。
子が大きくなってくると子供の前では喧嘩をすることはなくなったが、それでも俺たちの関係が学生の頃のように戻ることはなかった。
会社では多くの仕事を押し付けられ遅くに帰っても飯の準備もなくすでに春樹と子は眠っている。
こんなはずじゃなかったのに。
俺と菜月くんは運命の番で。
だから俺たちはうまくいくはずだったのに、どこから歯車が狂ってしまったんだろう。
学生時代、春樹に出会わなければ、春樹と付き合っていなければ、菜月くんの両親が亡くなっていなければ、菜月くんがあの薬を飲まされていなければ。
いくつもの”もしも”を考える日々だった。
風の噂で菜月くんが歌を歌っていることを聞いた。
動画サイトに載せられたその音楽を聞いて俺は激しい後悔に押しつぶされそうになった。
画面越しに聞こえてくる菜月くんの声。
二度と直接は聞けないだろう。
好きで好きで……なのに。
俺は動画サイトに菜月くんの歌がアップされるのをいつも待ち焦がれるようになった。
ある日、菜月くんの動画で菜月くんは照れ臭そうにはにかみながら左手の薬指につけられた指輪を見せて大好きな人と結婚しましたと言った。
俺はショックを受けた。
ああ、菜月くん。
菜月くんは大好きな人ができたのか。
俺じゃない誰かと幸せになるのか。
俺はもう二度と画面越しじゃない菜月くんを見ることが出来ないのに。
結婚したと報告が終わった菜月くんは幸せそうに、嬉しそうに、新しい曲を歌った。
その曲は今までの曲とは違う明るめのテンポで、歌い終わった菜月くんはカメラの後ろを見るように目線を動かし笑った。
俺の見たことのない笑顔だった。
幸せで安心しきった、そんな笑顔だった。
俺はその時にようやく菜月くんがもう二度と手に入らないのだと自覚した。
吐くほどショックだった。
そしてそんな俺を嘲笑うかのように春樹は子供が3歳になる頃、離婚届を置いて出て行った。
1人になった俺には一生低賃金の平社員でいることが決まっている仕事だけが残された。
周りが飲み会だと騒ぎながら出ていく会社で、1人残って仕事する俺は一体何のために生きているのか分からなくなった。
春樹が俺の父親に菜月くんが出て行ってしまったことを告げ口したらしく、父親に理由を聞かれた。俺が理由を話すと父親からは心底軽蔑した目を向けられた。
そして俺は橘家の跡取りから外されて職場を首になった。
大学のお金も出すのも取りやめられ、俺は何もかも失った。
「お前は結婚したのにもかかわらず、その春樹とやらと付き合っていたいと菜月くんに言ったんだろう?」
「……はい」
父親は厳しい目を俺に向けていた。
「そこまで好きなら春樹くんとの結婚を認めてやる」
「え、いや俺は」
「いいな?」
「っ、俺は無理です。春樹とはもう……それに春樹には俺以外の子がお腹にいるんです」
「そんなの関係ないだろう。春樹くんはお前と結婚してもいいと言っている。そういう子だと言うことを見極められなかったお前に責任がある」
「嫌です。俺は嫌です! 春樹のことはもう愛せません!!」
「菜月くんのことも愛せないと思ったから結婚した身で堂々と浮気宣言をしたんだろう? それなのにお前は今は菜月くんのことを好きだと言っている。そんなお前のことだ。また春樹くんのことを愛せるようになるさ」
「そんなっ」
「正直、お前と菜月くんが運命の番なのだと聞いて私が乗り気になったのもいけなかった。だが嫌ならお前は何としても俺を説得して結婚をやめるべきだった」
「運命の番だと、知っていたんですか」
「ああ。お前にも言ったはずだ。お前は聞いてなかったのか、信じていなかったのか分からないがな」
そんなことを言われた記憶は……いや、確か婚約を反対していたときにチラッとそんなことを言われた気はするが嘘だろうと勝手に決め付けて今の今まで忘れていた。
「で、ですが、俺は婚約に反対しましたよね。それを跳ね除けたのは父さんじゃないですか」
「ああ。だがお前は跡取りとしての立場に目が眩んで私の言うことを聞いておいた方が得策とでも思ったんだろう? お前は口だけ婚約に反対していただけで何の対策もしなかった……だが私も悪い。だからお前には選ばせてやる。春樹くんと結婚して地方にあるうちの小さな会社で一生平社員で働くか、春樹くんとは結婚せずにどこかで1人で生きていくか、だ」
そう言われて俺は結局春樹と結婚することにした。
周りには特出して何もない、田舎の街の小さな病院で春樹は子供を産んだ。
俺には全く似ていない男の子だ。
春樹はいつもイライラしていて俺たちはいつも喧嘩した。
子が大きくなってくると子供の前では喧嘩をすることはなくなったが、それでも俺たちの関係が学生の頃のように戻ることはなかった。
会社では多くの仕事を押し付けられ遅くに帰っても飯の準備もなくすでに春樹と子は眠っている。
こんなはずじゃなかったのに。
俺と菜月くんは運命の番で。
だから俺たちはうまくいくはずだったのに、どこから歯車が狂ってしまったんだろう。
学生時代、春樹に出会わなければ、春樹と付き合っていなければ、菜月くんの両親が亡くなっていなければ、菜月くんがあの薬を飲まされていなければ。
いくつもの”もしも”を考える日々だった。
風の噂で菜月くんが歌を歌っていることを聞いた。
動画サイトに載せられたその音楽を聞いて俺は激しい後悔に押しつぶされそうになった。
画面越しに聞こえてくる菜月くんの声。
二度と直接は聞けないだろう。
好きで好きで……なのに。
俺は動画サイトに菜月くんの歌がアップされるのをいつも待ち焦がれるようになった。
ある日、菜月くんの動画で菜月くんは照れ臭そうにはにかみながら左手の薬指につけられた指輪を見せて大好きな人と結婚しましたと言った。
俺はショックを受けた。
ああ、菜月くん。
菜月くんは大好きな人ができたのか。
俺じゃない誰かと幸せになるのか。
俺はもう二度と画面越しじゃない菜月くんを見ることが出来ないのに。
結婚したと報告が終わった菜月くんは幸せそうに、嬉しそうに、新しい曲を歌った。
その曲は今までの曲とは違う明るめのテンポで、歌い終わった菜月くんはカメラの後ろを見るように目線を動かし笑った。
俺の見たことのない笑顔だった。
幸せで安心しきった、そんな笑顔だった。
俺はその時にようやく菜月くんがもう二度と手に入らないのだと自覚した。
吐くほどショックだった。
そしてそんな俺を嘲笑うかのように春樹は子供が3歳になる頃、離婚届を置いて出て行った。
1人になった俺には一生低賃金の平社員でいることが決まっている仕事だけが残された。
周りが飲み会だと騒ぎながら出ていく会社で、1人残って仕事する俺は一体何のために生きているのか分からなくなった。
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本編では菜月君に許されて、元々運命だったし、迅英さんもこれからは絶対に菜月君を幸せにしてねって何かモヤモヤしてましたが、このルートを読ませて貰ってスカっとしました✨ごめんね迅英さん。
書いてくださり、ありがとうございました😊
ホンスキ様
コメントありがとうございます^^
ざまあが本当に難しかったのでそう言っていただけて
本当にホッとしましたし、嬉しいです!
ありがとうございます🙇♂️