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55:出産
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それから数ヶ月経った。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「……ぅ、産まれた……」
出産という行為は、ドMの俺の痛みのキャパを平然と超えてきて、かなり辛かった。
だが、10ヶ月もの間、自分の体の中で育てた子供と出会えると思えば、それもなんとか乗り越えられた。
赤ん坊を取り上げた医師がへその緒などの処置をして、俺のそばに運んでくれた。
「バトラル様。元気な男の子ですよ」
「うん。ぁあ、かわいい……僕の息子」
赤ん坊はしわくちゃで、元気に泣き声を上げている。お腹の中にいた時から元気で健康的なサイズだと医師は言っていたけど俺から見たら小さくて小さくて、この子を守らないとなと心の底から思えた。
その横で生まれたばかりの赤ん坊を見て、クライブが涙を流しているので俺はなんだかクライブがちゃんともう父親みたいな感じがしておかしかった。
「バトラル、ありがとう……っ、頑張ってくれてありがとう」
「クライブも……ありがとう」
「私はなにも」
「ここまで支えてくれたし、僕を親にしてくれた」
前世でだって俺は親ではなかった。そもそもゲイでドMだったし、虐めてもらえればそれで良いなんて考えて子供なんて必要ないと思っていたし、望んでもいなかったけど。ここにきて、自分が産む側の体になって、そして、不可抗力だが赤ん坊を産んで。考えががらりと変わった。それも好きな人との子供だ。
どんどん出てくる腹に、愛着が生まれ始めたのはいつからだっただろうか。
最初は妊娠したということに対してどこか他人事に感じていたしあまり興味はなかったのに、何かと動いたり虐めてもらうのに邪魔になり不便だと思って、けれど、そこに命があるのだと思ったらなんだか愛おしくも感じて。腹が大きくなるにつれてだんだんと親になるのだと自覚が出てきて、内側から蹴られたりした時には幸せを感じるほどになっていた。
「眠いか? 眠ってくれ」
「……ん」
先ほどまでで体力を使い果たした体は、多幸感に包まれていた。
ふわふわして、眠気が襲ってくる。
妊娠ができるとは言っても、この体は胸が出ているわけでもなく、乳腺が発達してないので授乳はできないらしい。少し寂しくも感じるが、赤ん坊にはちゃんと栄養のあるミルクを与えられるらしい。本当はナニーの仕事らしいがそれを俺も飲ませることで手をうった。
「……可愛いな」
うとうととしていると、ベッドの横で静かにただずんでいたバイロンが呟いた。それに、クライブが自慢げな様子で応えた。
「そうだろう。私とバトラルの子だ。バトラルに似てきっといい子に育つ」
「ああ……。次期皇太子殿下はとても可愛らしい。きっといい子に育つだろう。それはとても楽しみだが、次は私との子だ」
「バトラルはまだ出産直後だ。気が早いんじゃないか?」
「そうか? きっとバトラルなら喜ぶ」
俺が目を閉じているから、もうすっかり寝ていると思われているようだ。
出産直後の人間に対して早くも次の子を要求するなんて鬼畜な所業は、まさしくドMな俺にしか許されない発言だろう。
だが、バイロンの言う通り、そんな発言を聞いて俺はすっかり嬉しくなっていた。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「……ぅ、産まれた……」
出産という行為は、ドMの俺の痛みのキャパを平然と超えてきて、かなり辛かった。
だが、10ヶ月もの間、自分の体の中で育てた子供と出会えると思えば、それもなんとか乗り越えられた。
赤ん坊を取り上げた医師がへその緒などの処置をして、俺のそばに運んでくれた。
「バトラル様。元気な男の子ですよ」
「うん。ぁあ、かわいい……僕の息子」
赤ん坊はしわくちゃで、元気に泣き声を上げている。お腹の中にいた時から元気で健康的なサイズだと医師は言っていたけど俺から見たら小さくて小さくて、この子を守らないとなと心の底から思えた。
その横で生まれたばかりの赤ん坊を見て、クライブが涙を流しているので俺はなんだかクライブがちゃんともう父親みたいな感じがしておかしかった。
「バトラル、ありがとう……っ、頑張ってくれてありがとう」
「クライブも……ありがとう」
「私はなにも」
「ここまで支えてくれたし、僕を親にしてくれた」
前世でだって俺は親ではなかった。そもそもゲイでドMだったし、虐めてもらえればそれで良いなんて考えて子供なんて必要ないと思っていたし、望んでもいなかったけど。ここにきて、自分が産む側の体になって、そして、不可抗力だが赤ん坊を産んで。考えががらりと変わった。それも好きな人との子供だ。
どんどん出てくる腹に、愛着が生まれ始めたのはいつからだっただろうか。
最初は妊娠したということに対してどこか他人事に感じていたしあまり興味はなかったのに、何かと動いたり虐めてもらうのに邪魔になり不便だと思って、けれど、そこに命があるのだと思ったらなんだか愛おしくも感じて。腹が大きくなるにつれてだんだんと親になるのだと自覚が出てきて、内側から蹴られたりした時には幸せを感じるほどになっていた。
「眠いか? 眠ってくれ」
「……ん」
先ほどまでで体力を使い果たした体は、多幸感に包まれていた。
ふわふわして、眠気が襲ってくる。
妊娠ができるとは言っても、この体は胸が出ているわけでもなく、乳腺が発達してないので授乳はできないらしい。少し寂しくも感じるが、赤ん坊にはちゃんと栄養のあるミルクを与えられるらしい。本当はナニーの仕事らしいがそれを俺も飲ませることで手をうった。
「……可愛いな」
うとうととしていると、ベッドの横で静かにただずんでいたバイロンが呟いた。それに、クライブが自慢げな様子で応えた。
「そうだろう。私とバトラルの子だ。バトラルに似てきっといい子に育つ」
「ああ……。次期皇太子殿下はとても可愛らしい。きっといい子に育つだろう。それはとても楽しみだが、次は私との子だ」
「バトラルはまだ出産直後だ。気が早いんじゃないか?」
「そうか? きっとバトラルなら喜ぶ」
俺が目を閉じているから、もうすっかり寝ていると思われているようだ。
出産直後の人間に対して早くも次の子を要求するなんて鬼畜な所業は、まさしくドMな俺にしか許されない発言だろう。
だが、バイロンの言う通り、そんな発言を聞いて俺はすっかり嬉しくなっていた。
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