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26:ヨハイドの噂
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ヨハイドが魔族に連れ去られてから、一切国に魔物が寄り付かなくなった。
それはとても良い事だ。
クライブは約束通り、ヨハイドを取り戻そうとしたけれど、ヨハイドからの直筆の手紙で、元気にしているから気にしないで欲しいと伝えられ、さらには1ヶ月もすれば魔国の生活にも慣れるため魔国からの留学生としてボートルニア帝国貴族学園に通わせてもらえると書いてあった。なので、ヨハイドを連れ戻す作戦は一時的にストップしている。
ヨハイドが連れ去られた間に何が起こったのかは分からないが、なんとヨハイドは魔国の王太子妃になったらしいのだ。それに伴い、魔国側から条約を結ばないかと提案が来ている。それも、ボートルニア帝国に対してかなり良い条件の条約だったらしい。
ヨハイドは長年ボートルニア帝国や周辺諸国を悩ませてきた魔国との関係について、良い方向に向かわせた立役者として、本人不在のまま持て囃されている最中だ。
だが、持て囃されたところでヨハイドはそんなことを望んではいないだろう。
わざわざ俺を出し抜いてまで魔国にいじめられに行って、結局王太子妃になるって、アホの極みだな。それも、魔国の王太子は、ヨハイドを溺愛しているらしいと噂になっている。
王太子なんかに溺愛されてたら、もはや今世でドMライフなど送れまい。
せっかくのドMチャンスだったのに、ヨハイドの奴かわいそうだな。
「それ本気で言ってますか?」
「え? 本気だけど。なんで?」
俺がドMだと言うことは、ヨハイド以外に知っているのはコリンだけなので、コリンに世間話の感覚でヨハイドのことを話すと、ドン引きを超えた呆れ顔で馬鹿にされた。
「魔国の王太子殿下に溺愛されていたら、ドMライフが送れないと言うのは、俺も同意見です。魔国のことはあまり知りませんが、なんとなくそうだろうなとは想像がつきます」
「でしょ」
「じゃあ、皇太子殿下に溺愛されているバトラルもドMライフは送れないとは思わないんですか?」
「溺愛? されてないけど。確かにクライブ様は心配症なところはあるけど、溺愛ってほどじゃないよ。多分、俺とクライブ様が婚約者になるのはこの世界において必然で、婚約者になったからには、俺に優しくするという紳士な態度をとっているクライブ様が、側から見たら溺愛しているみたいに見えるだけでしょ?」
「バトラル……。僕の腐男子の色眼鏡抜きにしても、皇太子殿下はバトラルを溺愛しています。それに、そうじゃなかったにしても、バイロン先生もいるでしょう」
「バイロン先生?」
コリンが何が言いたいのかが理解できずに首を傾げると、コリンはまた呆れたような顔をして大きなため息をついた。
「バイロン先生も、バトラルのことを好きだと思いますよ。ドMライフを送りたいと望むのなら、皇太子殿下からもバイロン先生からも嫌われるように動いて、さらに他の人からも好かれる事のないように行動しなければ」
「え? 2人は俺をそう言う意味で好きじゃない……」
コリンがあまりにも冷たい目で見るので、俺は言葉を最後まで紡ぐことができなかった。
「いいですか? 正直俺は、ドMの人の心なんて分かりませんし、こういった事に協力するのもあまり気が進みません。なにせ俺は溺愛系BLが好きですから。ですが、これだけは言っておきます。ドMライフを送りたいのなら、そんなギャルゲーの主人公みたいに鈍感でいることをやめるべきです」
「コリン……」
「あと、もう一つ言わせてもらえるなら、この世界でオメガで生まれた者は、夫を何人も作れます。夫の身分によっては夫全員の子供を生む必要がありますが、その点はバトラルなら喜んで引き受けられるでしょう。ですが、問題なのは、夫たちから好かれていれば全員から大切に抱かれると言う事です」
「っ」
「夫たちから囲われ、夫たちが雇った騎士に監視され、危ないことは排除され、望むような激しいプレイではなく、決して体に傷がつくようなことはされず甘々溺愛プレイを施されるんですよ」
「そ、そんなの嫌だ。バッドエンドだ……」
どうしてコリンがそんなに詳しいのか、不思議ではあったが、もしかしたら腐男子であるコリンは、ありとあらゆるBL作品から様々なエンドを学んできたのかもしれない。
コリンは俺の嘆きにひとつ頷いた。
「でしょう。だからバトラルにヨハイド殿を哀れんでいる暇はないということです」
「……確かに……っ!! ありがとうコリン。俺、断罪エンドについてちょっと軽く考えてたよ。コリンの言う通りクライブ様とバイロン先生が俺を好いているという前提で、嫌われるように動いてみる!」
“もう手遅れだと思いますが”
コリンは何か小さく呟いた後、笑った。
「頑張ってください。俺は確かに溺愛系BLが好きですが、受けの望むことは叶って欲しいと願っているんです」
「うん? うん。応援してくれてありがとう。俺、頑張ってみるよ」
こうして俺は、嫌われ大作戦を行うことにした。
それはとても良い事だ。
クライブは約束通り、ヨハイドを取り戻そうとしたけれど、ヨハイドからの直筆の手紙で、元気にしているから気にしないで欲しいと伝えられ、さらには1ヶ月もすれば魔国の生活にも慣れるため魔国からの留学生としてボートルニア帝国貴族学園に通わせてもらえると書いてあった。なので、ヨハイドを連れ戻す作戦は一時的にストップしている。
ヨハイドが連れ去られた間に何が起こったのかは分からないが、なんとヨハイドは魔国の王太子妃になったらしいのだ。それに伴い、魔国側から条約を結ばないかと提案が来ている。それも、ボートルニア帝国に対してかなり良い条件の条約だったらしい。
ヨハイドは長年ボートルニア帝国や周辺諸国を悩ませてきた魔国との関係について、良い方向に向かわせた立役者として、本人不在のまま持て囃されている最中だ。
だが、持て囃されたところでヨハイドはそんなことを望んではいないだろう。
わざわざ俺を出し抜いてまで魔国にいじめられに行って、結局王太子妃になるって、アホの極みだな。それも、魔国の王太子は、ヨハイドを溺愛しているらしいと噂になっている。
王太子なんかに溺愛されてたら、もはや今世でドMライフなど送れまい。
せっかくのドMチャンスだったのに、ヨハイドの奴かわいそうだな。
「それ本気で言ってますか?」
「え? 本気だけど。なんで?」
俺がドMだと言うことは、ヨハイド以外に知っているのはコリンだけなので、コリンに世間話の感覚でヨハイドのことを話すと、ドン引きを超えた呆れ顔で馬鹿にされた。
「魔国の王太子殿下に溺愛されていたら、ドMライフが送れないと言うのは、俺も同意見です。魔国のことはあまり知りませんが、なんとなくそうだろうなとは想像がつきます」
「でしょ」
「じゃあ、皇太子殿下に溺愛されているバトラルもドMライフは送れないとは思わないんですか?」
「溺愛? されてないけど。確かにクライブ様は心配症なところはあるけど、溺愛ってほどじゃないよ。多分、俺とクライブ様が婚約者になるのはこの世界において必然で、婚約者になったからには、俺に優しくするという紳士な態度をとっているクライブ様が、側から見たら溺愛しているみたいに見えるだけでしょ?」
「バトラル……。僕の腐男子の色眼鏡抜きにしても、皇太子殿下はバトラルを溺愛しています。それに、そうじゃなかったにしても、バイロン先生もいるでしょう」
「バイロン先生?」
コリンが何が言いたいのかが理解できずに首を傾げると、コリンはまた呆れたような顔をして大きなため息をついた。
「バイロン先生も、バトラルのことを好きだと思いますよ。ドMライフを送りたいと望むのなら、皇太子殿下からもバイロン先生からも嫌われるように動いて、さらに他の人からも好かれる事のないように行動しなければ」
「え? 2人は俺をそう言う意味で好きじゃない……」
コリンがあまりにも冷たい目で見るので、俺は言葉を最後まで紡ぐことができなかった。
「いいですか? 正直俺は、ドMの人の心なんて分かりませんし、こういった事に協力するのもあまり気が進みません。なにせ俺は溺愛系BLが好きですから。ですが、これだけは言っておきます。ドMライフを送りたいのなら、そんなギャルゲーの主人公みたいに鈍感でいることをやめるべきです」
「コリン……」
「あと、もう一つ言わせてもらえるなら、この世界でオメガで生まれた者は、夫を何人も作れます。夫の身分によっては夫全員の子供を生む必要がありますが、その点はバトラルなら喜んで引き受けられるでしょう。ですが、問題なのは、夫たちから好かれていれば全員から大切に抱かれると言う事です」
「っ」
「夫たちから囲われ、夫たちが雇った騎士に監視され、危ないことは排除され、望むような激しいプレイではなく、決して体に傷がつくようなことはされず甘々溺愛プレイを施されるんですよ」
「そ、そんなの嫌だ。バッドエンドだ……」
どうしてコリンがそんなに詳しいのか、不思議ではあったが、もしかしたら腐男子であるコリンは、ありとあらゆるBL作品から様々なエンドを学んできたのかもしれない。
コリンは俺の嘆きにひとつ頷いた。
「でしょう。だからバトラルにヨハイド殿を哀れんでいる暇はないということです」
「……確かに……っ!! ありがとうコリン。俺、断罪エンドについてちょっと軽く考えてたよ。コリンの言う通りクライブ様とバイロン先生が俺を好いているという前提で、嫌われるように動いてみる!」
“もう手遅れだと思いますが”
コリンは何か小さく呟いた後、笑った。
「頑張ってください。俺は確かに溺愛系BLが好きですが、受けの望むことは叶って欲しいと願っているんです」
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こうして俺は、嫌われ大作戦を行うことにした。
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