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19:お迎え
しおりを挟むなんとなく気まずい思いをしながらも、なんとか自己紹介や入学説明を聞き終えた。
今日はこれで終わりで、本格的な授業などは明日かららしい。
「アール伯爵令息殿、サムソン男爵令息殿。よろしければこの後食堂でお茶をしていきませんか?」
「嬉しいお誘いですが、すみません。この後は約束がありまして」
ヨハイドの誘いにそう答えると、ヨハイドは特に気を悪くした様子もなく頷いた。
「そうですか。ではサムソン男爵令息殿は何かご予定は?」
「すみません。誘っていただけてとても光栄なのですが、お、私も約束があるのです。また、機会があれば誘っていただけると嬉しいです」
「そうなのですね。残念ですが、仕方がありません。では、僕はいきますね。また明日」
「はい。また明日」
ヨハイドがカバンを持って出て行ったあと、教室の入り口がわずかに騒がしくなった。
「バトラル」
「……クライブ様?」
「迎えにきたよ。入学式はどうだった? 友達はできたみたいだが」
クライブはチラリとコリンの方を見やってそう言った。どうやら入学式の最中に話していたところを見ていたみたいだ。紹介して欲しそうにしているし、やっぱりゲーム通りじゃない所があるのはたまたまで、もしかしたらクライブはコリンのことが気になっているのかもしれない。そこまで考えて俺は頷いた。
それなら、いわゆるノンケであるコリンの気持ちを思えば申し訳ないけど、やっぱりクライブはコリンを好きになる可能性もあるのかもしれないなと考えた。ピンク頭を隠したくらいで、ヒロインの輝きは隠せないものなのかもしれない。
「はい。彼はコリン・サムソン男爵令息殿です。コリン殿、ご存知だと思いますが、こちらはクライブ・ボートルニア皇太子殿下です」
紹介すると、クライブはコリンに向かってにっこりと笑って手を差し出した。
「サムソン男爵令息殿。バトラルと仲良くしてくれてありがとう。クライブ・ボートルニアだ」
「お、お初にお目にかかります。サムソン男爵が息子、こ、コリン・サムソンと申します」
コリンはクライブにかなり萎縮しながらも差し出された手をそっと握り返している。
「そう身構えないでくれ。私の大事な婚約者のご友人なら、是非とも私とも仲良くしていただきたい。ね?」
「は、はいっ、ぜ、是非」
コリンは目を泳がせ、声を震わせながら何度も頷いた。
「あの、僕も紹介していただけますか?」
「え、ファブランド公爵令息殿?」
いつの間にか、クライブが教室に入る前に帰っていったはずのヨハイドが後ろに立っていた。
「実は、忘れ物を取りに戻ってきたんです」
本当かどうかは分からないが、ヨハイドはそう言って微笑んだ。
「彼は?」
クライブがそう聞いたので、俺はヨハイドをクライブに紹介した。
「彼はヨハイド・ファブランド公爵令息殿です。僕が転んだときに手を差し伸べてくださって仲良くしていただけることになりました。ファブランド公爵令息殿、こちらはクライブ・ボートルニア皇太子殿下です」
「ファブランド公爵令息殿、私の大切な婚約者であるバトラルと仲良くしてくれてありがとう。それにバトラルを助けてくれてありがとう。クライブ・ボートルニアだ」
先ほどからクライブは、“大切な”だの“大事な”だのと恥ずかしげもなく言っているが、いずれ俺を断罪することになった時に、差し障りが出てくると思うので、できればやめて欲しい。俺がドMだと言っても、まるで愛されているかのような言葉をさらりと言われれば普通に恥ずかしいし照れる。
「お初にお目にかかります。ファブランド公爵が息子、ヨハイド・ファブランドと申します。よろしくお願いいたします」
ヨハイドはそう言って美しい所作でお辞儀をした。
それに対して、クライブはニコリと微笑んでよろしくと返してから、俺に向き直った。
「それで、転んだって? 怪我はない?」
クライブは俺の足元に膝をついて、俺の足に触れ痛い所がないのか確認してくる。
「大丈夫です。受け身はとれましたから、怪我をするほどじゃありませんでした」
多少痣になっていそうな部分はあるが、押されても少し気持ちいいくらいの痛みしかない。
「本当かな。バトラルは怪我をしても体調を崩しても内緒にしてすぐに無理をするから」
「こ、今回は本当に大丈夫ですから」
「……バトラルがそう言うなら、今のところはそういうことにしよう」
クライブはそう言って俺の手を取り、自分のひじに添えさせた。
アルファ男性やベータ男性が女性、もしくはオメガ男性をエスコートなどする時の定位置だ。
そうして俺はクライブにエスコートをされながら、コリンとヨハイドに別れを告げて、朝と同じく皇族の馬車に乗りこんだ。
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