上 下
12 / 86

11:看病

しおりを挟む
ふわりふわりと意識が浮上し、体の尋常じゃないほどの疲れを感じた。背中の感触的にふかふかの場所に寝かされているようだが、鉛のように体が重く億劫だ。

『まだ目が覚めないのか』

バイロンの声が近くで聞こえた。

『バトラルは私が声をかけた段階で意識が朦朧としていたんだ。もう少し放っておいたら死んでいたかもしれない。それなのに、そんなすぐ目が覚めるはずがないだろう』

クライブが必死に声を抑えるように応えている。

『こんなヒョロイ体の子供が、まさか私に言われた通りに走り続けているなどと思うわけがないだろう。どこかで適当にサボっていると思っていたんだ』
『バトラルは小さいが、ちゃんとした紳士なんだ。サボったりなどするわけがない』
『随分と気に入っている様子だな』
『私が望んで婚約者にしたのだから、気に入っているのは当たり前だろう。それにバトラルがヒョロイのは、バトラルのせいじゃない。彼がオメガ性というのもあるかもしれないが、それにしても小さいだろう』

人が寝ているからと思って好き勝手に言いやがって。とクライブの言葉にムッとした。確かにバトラルの体は小さいが、多少は鍛えているのだしそこまで言われるほど小さいつもりはなかった。けれどもクライブの言葉にバイロンも小さくうなり返事をした。

『まぁ、小さいな。だから剣術など遊び半分で習いたいのかと思ったくらいだ』
『バトラルは真面目だよ。私がバイロンはスパルタだと教えても、目を輝かせて一緒に学びたいと言っていたんだ。だが、私は心配している点が1つある。バトラルが家でまともに食べさせてもらっているかが心配なんだ』

スパルタだと聞いて目を輝かせたのは、決して俺が真面目だからじゃないが、それよりも家で食べさせてもらえていないと思われていることにびっくりした。バトラルは確かに体罰を伴う躾をされていたが食事は普通に出ていたはずだ。今は特にタンパク質を多く摂れるようにしっかり料理人と話し合っているので、ひょっとしたらトレーニーとしてはクライブよりも良い食事を摂っている可能性もある。それでも体が大きくならないのだから、これはもうそういう体質なのだろう。

『なに?』

バイロンの不愉快そうな声が部屋の中に響いた。

『そうじゃないと、こんなに小さい理由がない』
『虐待……ということか』
『その可能性を考えている。まだ調べはついていないが、疑わしい間は、彼をなるべく家から遠ざけたいんだ』
『なるほど』

俺の頭の上に乗せておいてくれているらしい濡れタオルが誰かの手によって交換された。
誰かが部屋を出て行った音が聞こえ、うっすらと目を開くとクライブと目があった。

「起きたのか。ああ、起きないで。水を飲めるか?」

起き上がろうとした俺の体は、簡単にベットの中に押し戻され、代わりにクライブの手によって顔の前に吸飲みが差し出された。確かに喉が乾いていたので、抵抗もなくそれを受け入れゴクリと飲み込むとクライブはフッと目を緩ませて俺の頭を撫でつけた。

「ゆっくり飲め」
「もう、大丈夫です。ありがとうございます」
「ああ」

クライブが微笑んで頷いた時、ドアがノックされ返事をする前にドアが開いた。

「っ、起きたのか」

部屋に入ってきたのは、先ほどまでここにいたはずのバイロンで、手にはお盆を持っていた。

「はい。ご迷惑をおかけして、すみませんでした」

そう伝えるとバイロンは俺のそばまでスッと寄ってきて、クライブがいる方とは逆のベットの脇に片膝をついた。

「謝るのは私のほうだ。私の本業は軍人だが、それでも子供を預かることを了承した身で、教官として私のやり方はあまりにも身勝手で無責任だった。すまない」
「いえ、そんな」

本当に、俺が気持ち良くなっちゃって走り続けちゃっただけだし、そんな悲痛な顔で謝られたらどうして良いか分からなくなる。

「とりあえず、気分が悪くなければこれを食べてくれ」
「ありがとうございます」

差し出されたのは野菜や柔らかそうな鶏肉みたいなものがたくさん入ったスープのようなものだった。それをクライブが受け取り、俺に向かってにっこりと笑った。

「バトラル、食べ辛いだろう? 私が手伝おう」
「え?」
「ほら、あーん」
「……あーん……」

求められれば基本的にはイエスというのが性分の俺は、吸飲みのとき同様クライブから差し出されるままにスープを食べさせてもらった。

「んんっ、うまいか?」
「はい……あ、ダッシュライド公爵閣下、美味しいです。ありがとうございます」
「ああ」

野菜も肉も食べやすいようにか、かなり柔らかく煮込んであり、咀嚼するのもかなり楽で、とても美味しかった。

「よかったな」
「はい。次は、倒れないように気をつけます」
「次から走り込みは3人でしかやらない」

バイロンの言葉に、クライブは大きく頷いた。

「私もそれに賛成だ。次からは一緒に走ろうな、バトラル」
「え、でも僕と走ると足手まといじゃ?」
「そんなことはない」
「そうなんですか?」
「ああ」

断言するクライブに聞き返しても、クライブも、バイロンも意見を曲げることはなかったので、次の訓練からは走り込みは3人で行うことになりそうだ。

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...