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クライブ視点
しおりを挟む私には1つ年下の婚約者ができた。
バトラルは、男ではあるがオメガ性で、お茶会を行う前から父上はバトラルと婚約させたがっていた。オメガ性の男から生まれた子供は優秀なアルファになることが多いからだ。けれども父上は表向きは私自身が婚約相手を選んでも良いと言ってくれた。
正直、恋愛などが分からないこの年齢のうちから、誰でも選んでも良いと言われてもきっと私は選ぶ事はできないだろう。
だからお茶会が始まるまでは、父上や周りの者たちが望むままにバトラルを選ぶだろうと考えてていた。
そして、事実、私はバトラルと婚約したいと望んだ。
けれどもそれは、決して父上や周りの者たちが望んだ通りに動いたわけではなく私自身の希望によるものだった。
お茶会の間、令嬢たちが席に座り談笑する端で、ちんまりと座ったバトラルは、ハニーブロンドの髪が木漏れ日によってキラキラと輝き、ベビーブルーの瞳はこぼれ落ちそうなほどに大きかった。あまりにも神々しく、可愛らしく、まるでこの空間でバトラルだけが輝いているように見えて天使のようだと思った。
話をして、運動が好きなのだと、どこか照れたように微笑むバトラルに、私は心臓を撃ち抜かれた。しばらくそうしてバトラルと談笑していると、突風が吹き令嬢の1人がスカーフが飛ばされたと言い出した。祖母からもらった大事なスカーフだと言う令嬢に、私は不快感を覚えた。
彼女は私の斜向かいの席に座っていたが、お茶会中仕切りにスカーフを触っていてマナー的に目についていた。亡くなった祖母からもらった大切なプレゼントを、仕切りに触っているのはまだ良いとして、首元を飾るように束ねてあったスカーフが突風が1度吹いたくらいで簡単に飛ばされるだろうか。あんなに仕切りに触っていたのに。
そう思っていると、バトラルが突然大池に飛び込んだのだ。
慌てる俺と、バトラルの護衛の男。
護衛は、バトラルの後にすぐ大池に飛び込みスカーフを手にしたバトラルを抱え上げた。
護衛に抱かれたまま池から上がってくるバトラルは、護衛の胸に顔を寄せ少し震えているように見えた。けれどバトラルは陸に上がり護衛から一度おろしてもらって、令嬢に手にスカーフを渡して微笑んだ。
「どうぞ。お婆様からのプレゼントをこんなに大切にされているなんて、素敵ですね。また、飛ばされないようにお気をつけください」
その姿に私は完全に心を奪われた。
小さくて天使のような見た目なのに、彼は紳士なのだと思った。
私の婚約者を決めるお茶会に参加しているからには、オメガ性であるバトラルも令嬢のような振る舞いをするのだと勝手に決め付けていた自分に気が付き、恥ずかしくなった。
「あ、ありがとう」
令嬢がスカーフを受け取り頬を染めてバトラルを見ているのを見て、心に黒いモヤモヤが浮かんだ。バトラルを誰にも渡したくはない。私は、バトラルが着替えに向かったゲストルームにいち早く向かいたい気持ちを抑え、父上にバトラルを婚約者にしたい旨を伝えに行き、あからさまにホッとして喜んでいる様子の父上をおいて、ダッシュでゲストルームに向かった。
バトラルを丸め込み、一緒にお風呂に入るのは無防備すぎて不安になる程に簡単だった。
バトラルはもしかしたら自分の天使さに気がついていないのかもしれない。
けれど私は見てしまった。バトラルの体に残る傷痕を。
脛や太腿が多かった。長細いもので叩かれただろう痕は見ていて痛々しい。
それなのに、バトラルはそこに傷痕があることに対して特に気にしていない様子で入浴していた。
よく見れば体も細く、1つ年下とはいえ、背もかなり低いようだ。背が低いのはオメガ性だからだと言われればそうかもしれないが、私はバトラルの家庭事情について心配になった。
風呂から出た後、バトラルを待ち構えていたアール伯爵は一見息子を溺愛しているかのように見える。
だが、母親のいないアール伯爵家でバトラルを虐待するとしたら、父親の可能性が高い。私は、アール伯爵内を調べつつ、バトラルをなるべく屋敷に留まらせないようにすることにした。
今まではただ義務としてしていた剣術の稽古も、より一層身が入る。とにかく、この先バトラルを傷つけないように、誰かがバトラルを傷つけないように最新の注意を払おうと誓った。
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