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7:お風呂

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「で……殿下っ。なぜお風呂に!?」

我に返った俺は、広い浴槽の中で、少し動けば肩が触れ合いそうになる距離にいる皇太子から勢いよく飛び退いた。

「なぜって、それはバトラルがご令嬢のスカーフを取りに池に飛び込んで……」
「そ、そうじゃなくて、お風呂はその、流石にビショビショで寒かったんでありがたいですけど、殿下まで入る必要はなかったんじゃないかなって」
「バトラルは私と風呂に入るのは嫌なのか?」

しょんぼりというような表情をされて、流石に言葉に詰まった。

「いえ、僕が嫌とか嫌じゃないとかじゃなくて、殿下はこの国の皇太子様ですから、僕のようなものと一緒にお風呂に入られるのはちょっと」
「ちょっと何?」

皇太子はそう言って俺の言葉を待つように首を傾げた。まだまだ幼さの残る美少年のその仕草はやはりあざとい可愛さを持っているが、屈強な男たちに凌辱されたい願望を持つ俺を前に、そのような可愛らしさは無意味なのである。

「ちょっと……、そうですね。僕も男とはいえ、アルファ性の殿下と結婚することのできるオメガ性なのです。もしも僕たちが婚約していたとしても一緒に風呂に入るのはどうかと思いますが、婚約もしていない殿下と僕が一緒にお風呂に入るのは、世間一般的に見ておかしな状況なのです」

俺の言葉を聞き終わると、皇太子はふふふと不敵に笑った。

「ああ、それなら大丈夫だな。先ほど私の婚約者にバトラルを指名してきた。今頃陛下からアール伯爵閣下に連絡が行っている頃だろう」
「僕が殿下の婚約者に? そ、そうですか」
「不満か?」
「いえ。滅相もありません。僕を選んでいただき嬉しいです。ありがとうございます」

あのお茶会で俺が皇太子に婚約者として選ばれるような出来事も起こらなかったし、むしろ貴族令息として落ち着きがないと言われてもおかしくないようなことをしでかしたし、話した内容も趣味などの当たり障りのないような内容だったにも関わらず皇太子はバトラルを婚約者に選んだのだ。やっぱりゲーム通りに進むんだと思うと、本気で嬉しさがこみ上げてくる。父親から打ってもらえる事はなくなったけれど、俺には絶対に最高のエンディングが待っているのだと思えば、ワクワクしてくる。俺がどのエンドに行くのかは、16歳で入学するボートルニア帝国貴族学園に入学後、ヒロインのコリンが選ぶルートによって変わってくるわけだけど、どのエンドもバトラルの扱いは俺好みなわけだし、楽しみすぎて胸のドキドキが抑えられない。

俺が妄想を楽しんでいると、皇太子が俺を見てクスクスと笑った。

「本当に嬉しそうだな。その百面相の間にバトラルが一体何を考えているのか頭の中を覗いてみたい。バトラルといればこれからの人生、死ぬまでずっと楽しい生活を送れそうだ」

皇太子が俺の頭を覗くことができた時には、きっと覗いたことを後悔することだろう。

「期待に応えられるように頑張ります」

そして話終わって十分に温まってから皇太子と共に風呂を出ると、何とバスタオルを構えた父親が待ち構えていた。
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