上 下
25 / 27

旅行

しおりを挟む
「菜月くんは旅行どこか行きたいところはあるか?」

旅行雑誌を見ながら迅英さんが聞いてきた。
今日は迅英さんが休みでまったりしている。

「う~ん、よく分からないです。迅英さんはどこか行きたいところあるんですか?」
「俺も特にはないな。菜月くんと2人ならどこでも楽しい」
「それって一番困るやつじゃないですか」
「じゃあ、温泉旅行はどうだ? 少しじじくさいか?」
「いえ! 温泉好きです! 行きたいです!」
「よし、じゃあ温泉にするか」
「はい!」
「どこの温泉に行こうか」
「あ、こことか良さそう……ここも……あ、こっちも。う~ん、決めるの迷いますね」
「じゃあ、俺が決めていいか? それで当日のお楽しみにするのはどうだ?」
「楽しそう!」
「じゃあ決まりだな」

迅英さんは楽しそうに笑った。
旅行までの間は下着とか買ったり、どこに行くのか予想したり、存分に楽しめた。

そして当日、2人で新しい服を着て迅英さんの車に荷物を詰め込み乗り込んだ。
車はゆっくりと発信して楽しい旅行が始まった。

迅英さんは途中途中で景色が綺麗なところとか観光名所などで止まってくれて写真を撮ったり名物を食べたりしながら目的地へ進んだ。

「ついたぞ」

いつの間にか寝てしまっていて迅英さんに起こされた。

「す、すみません! 運転も任せっきりなのに僕、寝ちゃって」
「いや。俺の横で安心して寝てくれて嬉しい。それに、寝顔も可愛かったし俺得だ、ほら、降りて」

迅英さんに促され車を降りると立派な旅館の目の前だった。

「ここの離れに部屋を取った」
「すごい……こんな立派な旅館ドラマでしか見たことないです。すごい、こんなところに泊まる日が来るなんて……」
「ふっ、そうか。喜んでくれたなら俺も嬉しい。部屋に露天風呂も付いてるしゆっくりしような」
「はい! 迅英さん、ありがとうございます」
「ああ」


本館の方で受付をしておかみさんに案内されるままついていくと、渡り廊下を渡ったところでここから先、全てが僕たちの貸切だと説明された。

部屋に着くともう「すごい」の言葉しか出てこないくらいいい部屋だった。

まず部屋は和室で縁側がついていて庭のようになっているところは日本庭園みたいに綺麗に手入れされていた。
貸し切りがあると言っていたのでお風呂を探すと、人が10人は入れるんじゃないかってくらいの内湯があって、外に3種類も露天風呂があった。サウナまでついてた。

「すごい……すごすぎます。迅英さん、あの……本当にありがとうございます」
「ああ」

迅英さんは少し硬い顔をしてそう答えた。
僕、はしゃぎすぎちゃったかな。
途端に僕は不安に駆られたけど、あの教訓を思い出してブンブンと頭を振った。
言葉にしなきゃ何も伝わらない。

「迅英さん、どうされたんですか?」
「あ……いや」

迅英さんは慌てたようにそう言ったきり黙ってしまった。

「迅英さん……?」

少しだけ咎めるように迅英さんの顔を覗き込むと、迅英さんはごめんと謝った。



「ごめん、不安にさせたよな? 違う。えっと、俺は……、ちょっとこっちに来てくれないか」

迅英さんに促されるまま僕たちは縁側に並んで座った。

「菜月くん……、えっと俺たちには色々なことがあったけど、それでも俺と一緒にいることを選んでくれてありがとう」
「えっと、こ、こちらこそ」

何を言われるのか分からず不安なままそう返した。

「俺はまともなプロポーズもしないまま菜月くんと結婚したが、ちゃんとしたいと思った……だから」

迅英さんはポケットから掌サイズの箱を取り出してパカっと開いた。
中には2つシンプルな指輪が入っていた。

「俺とじいさんになってもずっと一緒に居てくれないか」

その言葉を聞いて僕は胸が詰まった。
全く予想してなかったから本当にびっくりしたけど。

嬉しい。
幸せだ。
父さん、母さん、僕今世界一幸せな人間かもしれない。

「……ぅ、ぁはい……迅英さんと、ずっと一緒に、います」

僕が涙を流しながら必死でそう言うと迅英さんは親指の腹で僕の涙を拭って、それから箱の中の指輪を一つ取って僕の左手の薬指にはめてくれた。
いつ測ったのか分からないけどぴったりのサイズだった。

「俺にもはめてくれ」

迅英さんは箱の中の1周り大きい指輪を取り出して僕に渡した。
僕は迅英さんの左手の薬指にそれをはめた。

「菜月くん……、俺と結婚してくれてありがとう。一緒にいてくれてありがとう」

僕は嬉しくて幸せで涙が止まらなかった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...