僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう

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迅英が病院へ駆けつける前

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菜月くんが薬を使うのを病院まで止めに行く途中、春樹が俺の前に現れた。

「迅! そんな急いでどこ行くの!」
「春樹……、もう俺に話しかけるな」

俺はそう言って春樹の横をすり抜けようとしたが春樹に道を塞がれた。

「ねぇ、何でそんなに急いでるの?」
「お前には関係ない」
「何で。俺のこと好きだったんじゃないの?」
「俺は今は菜月くんのことが好きだ。春樹のことは好きだと思っていたが、今はもう好きじゃない」
「そんなの嘘だよ。だって俺のこと好きじゃないαなんていない」
「ああ。お前がそう言うならそうなのかもな。だったらそのお前を好きになる相手を当たってくれ。今の俺には菜月くんしかいない」
「ダメだよ。αはみんな俺のこと好きじゃないとダメだ」
「話が通じないな。とにかく俺は急いでいるんだ。そこをどいてくれ」

俺はイライラしたけれど、春樹のお腹には赤ん坊がいる。子供に罪はない。
もしも春樹を押して道を通りでもして春樹が転んだら子供が危ないかも知れない。

「春樹ちゃ~ん、こんなところで何してるんだい?」

その声に振り向くと俺たちの後ろから薄らハゲたおじさんが下卑た笑みを浮かべて立っていた。

「い……石川さん……どうしてここに?」
「そんなの~、春樹くんを迎えに来たからに決まってるでしょ?」
「お、俺は石川さんとは付き合えないって言っただろ!」
「またまた、ツンツンしちゃって可愛いんだから。君のお腹の子も僕の子なんだから、僕と君が結婚するのは決まったことなんだよ? いつまでも逃げ回って僕の気を引こうとするのはいい加減やめなよ」
「俺は石川さんの気を引こうとしてるんじゃない!! それに俺は面食いなんだよ! 石川さんじゃ……というか一回もやってないのに石川さんとの子な訳ないだろっ」
「なぁに?」

石川という男がニチャっとした笑顔のまま春樹に聞くと春樹は青い顔をして俯いた。

「あ……いや」

春樹は石川という男にビクビクと怯えていた。
俺はこれ幸いと春樹の横をすり抜けて病院へと向かうことができた。

後から噂で聞いたところによると、春樹はあの後やはり石川という男と結婚したらしい。
見た目もさることながらかなりの変態趣味で有名なおっさんだったらしく、春樹が子供を産んだ後は、番のいない不特定多数のαの相手をさせられているらしい。
春樹は弱みを握られているらしく、いつもビクビクと石川の言うことを聞いていると聞いた。

まぁ、春樹はαは全員俺に惚れてるなんていうやつだ。
多くのαに抱かれて本望なんじゃないかと思う。

俺はというと菜月くんがもう謝らなくていいと言ってくれたので必死に愛を伝えている最中だ。
6年目の記念日にして俺たちはようやく番になることができたし、菜月くんとの子供ができるのが楽しみだ。

だが、菜月くんが子供にかかりっきりになったら俺は少し嫉妬してしまうかもな。
いや、菜月くんとの子なら絶対に可愛いし愛せるのだけど、俺の菜月くんが……いや。こんなことは子供ができてから悩めばいいな。

俺はそう結論付けて菜月くんの待つ家へ仕事からウキウキと帰宅した。

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