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迅英サイド②
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菜月くんとの結婚式はあげなかった。
俺と別れた後、菜月くんが本当に好きになった人と初めての結婚式をした方がいいんじゃないかと思ったからだ。
それから俺たちは俺の実家の空いている屋敷の1つに暮らし始めた。
俺は大学に通いながら父の持っている会社で働き始めた。
正直にいうと目が回るほどの忙しさで、けれど俺はがむしゃらに働いた。
朝も、夜も、菜月くんが準備してくれたご飯があった。
いつもいつも手が混んでいて美味しかった。
俺はそのことにいつも癒されていた。
だが、いつ帰っても菜月くんはいなかった。
家の中は綺麗で洗濯もされてて、ご飯も作ってくれている。
なのに、菜月くんだけがいつもいなかった。
結婚して最初の頃は菜月くんが家にいなくても家の中は常にあの強烈な甘い匂いが漂っていたのに、最近はその匂いがしない。
代わりに、どこか爽やかでミントのようなシトラスのような心地よい匂いが家を満たすようになった。
その頃から俺の友人から海外に行ってるはずの春樹の目撃談が届くようになった。
日本に帰ってきているという連絡は届いていない。
春樹が別のαと歩いていただの、βと腕を組んで歩いていただの、友人たちから届く春樹の情報は全て信じられないような内容ばかりだった。
俺は探偵をやっている友人に春樹の調査を依頼した。
2週間ほどしてからその友人がうちを訪ねてきた。
「お前、ひどい隈だね~。仕事しすぎだろ」
「どうだった」
「いきなりそれかよ。春樹くんは黒の中の黒。最悪の中の最悪だよ」
友人はそう言っていくつもの資料を広げた。
様々な相手とホテルに入っていく様子が写真に収まっていた。
「それに、毎回男を落とすための文句は『俺、助けてもらった人を亡くしてるんだ』だ」
「……は?」
「しかもその春樹くんを助けて死んだ人って誰だか知ってる?」
「……いや」
「ひどいね、お前。菜月くんのご両親だよ」
「っ!! 嘘だろ……?」
「本当。それに、春樹くんは一度も菜月くんの家に線香もあげに行ったことないらしいね」
「あいつ、そんなやつだったのか?」
「お前は本当に人を見る目がないね」
「…………」
「ぐうの音も出ないか」
友人は軽蔑したような目で俺をみて料金を受け取って帰っていった。
俺は両親を亡くした菜月くんになんと言った? 君は一人でも大丈夫? 春樹は守ってあげたいだと?
「はっ、ふざけてるな」
俺みたいなやつが守ってやりたいなどと人に思うことがおこがましかったんだ。
俺は春樹が好きだからと、結婚しているのに悪あがきして、菜月くんのことを1つも分かろうとしなかった。
こんな俺のことなんてもう好きじゃないだろうな。
むしろ嫌われているかもしれない。
いや、そもそも俺は菜月くんに嫌われて別れようとしていたんだ。
これでいいんだ。
これでいい……。
菜月くんが。
菜月くんが、俺を好きじゃない……?
嫌だ。
そんなのは嫌だ。
身勝手だとわかっている。
だが俺は菜月くんに捨てられたくない。
その日は、仕事が早く終わって早めに家に帰れた。
もしかしたら久しぶりに菜月くんに会えるかもしれない。
自分から拒絶したくせに、俺の心は掌を返したように菜月くんを求めている。
玄関の扉を開けると鼻の奥にガツンと突き抜けるように俺の理性を刺激する匂いが走った。
「っ、はぁ、なんだこれ」
俺は俺は意識を保つのがやっとという思いで匂いが強い方に進んだ。
キッチンの奥の廊下を進むと扉がありそれを開けると下へと伸びる階段があった。
俺はフラフラとその階段を降りた。
階段を降りて3歩ほど歩いた先にあるドアまでたどり着きガチャリと開いた。
ドクリ
心臓が脈打つのがわかった。
簡易的なベットがありそこにぐちゃぐちゃになった俺のシャツが置かれていた。
菜月が何か俺に言っている。でも何を言っているのかわからない。
抱きたい。
抱きたい。
逃げようとした菜月くんの腕を掴んで止めた。
菜月くんの服を力任せに引きちぎりその肌を見た瞬間、完全に俺の理性が吹き飛んだ。
「……誰と……なってるんです」
菜月が何かを言っている。
だが俺の頭はそれを受け付けない。
「っあぁぁあああ!!」
俺のそれを菜月に突き刺した。
ああ、気持ちいい。
菜月。菜月。絶対に離さない。
その時、俺の耳に菜月の言葉が届いた。
「僕は、違うんぁぁああ、春樹くんじゃ、ないっ」
春樹……?
目の前が真っ白になった。
知っていたのか。俺が誰と付き合っていたのかを。
名前を知っているということは、両親が助けた男の子だと知っているのだろう。
「お前、知っていたのか」
「はい」
「なにがあったかは、お聞きしませんが、僕に当たるのはやめてください。αのあなたと違って、僕はつがってしまえば悲惨だ」
悲惨。俺と番うのが悲惨。
嫌だ。
俺は……俺は菜月と離れたくない。
「何が悲惨なんだ。俺と番うのが悲惨か」
「違う……違います。僕は、んあぁぁlあ、んぁ、やめてくださ」
俺は菜月のその後の言葉を聞きたくなくて理性を手放した。
菜月が運命の番なのだろうと気がついたのは菜月が気を失った後、冷静になった時だった。
だが俺は運命の番だから菜月を好きになったんじゃない。
知る前から俺は菜月を好きになり始めてた。
俺は菜月の体を綺麗にした後、菜月が俺から離れてしまわないように菜月を抱え込んで眠りについた。
俺と別れた後、菜月くんが本当に好きになった人と初めての結婚式をした方がいいんじゃないかと思ったからだ。
それから俺たちは俺の実家の空いている屋敷の1つに暮らし始めた。
俺は大学に通いながら父の持っている会社で働き始めた。
正直にいうと目が回るほどの忙しさで、けれど俺はがむしゃらに働いた。
朝も、夜も、菜月くんが準備してくれたご飯があった。
いつもいつも手が混んでいて美味しかった。
俺はそのことにいつも癒されていた。
だが、いつ帰っても菜月くんはいなかった。
家の中は綺麗で洗濯もされてて、ご飯も作ってくれている。
なのに、菜月くんだけがいつもいなかった。
結婚して最初の頃は菜月くんが家にいなくても家の中は常にあの強烈な甘い匂いが漂っていたのに、最近はその匂いがしない。
代わりに、どこか爽やかでミントのようなシトラスのような心地よい匂いが家を満たすようになった。
その頃から俺の友人から海外に行ってるはずの春樹の目撃談が届くようになった。
日本に帰ってきているという連絡は届いていない。
春樹が別のαと歩いていただの、βと腕を組んで歩いていただの、友人たちから届く春樹の情報は全て信じられないような内容ばかりだった。
俺は探偵をやっている友人に春樹の調査を依頼した。
2週間ほどしてからその友人がうちを訪ねてきた。
「お前、ひどい隈だね~。仕事しすぎだろ」
「どうだった」
「いきなりそれかよ。春樹くんは黒の中の黒。最悪の中の最悪だよ」
友人はそう言っていくつもの資料を広げた。
様々な相手とホテルに入っていく様子が写真に収まっていた。
「それに、毎回男を落とすための文句は『俺、助けてもらった人を亡くしてるんだ』だ」
「……は?」
「しかもその春樹くんを助けて死んだ人って誰だか知ってる?」
「……いや」
「ひどいね、お前。菜月くんのご両親だよ」
「っ!! 嘘だろ……?」
「本当。それに、春樹くんは一度も菜月くんの家に線香もあげに行ったことないらしいね」
「あいつ、そんなやつだったのか?」
「お前は本当に人を見る目がないね」
「…………」
「ぐうの音も出ないか」
友人は軽蔑したような目で俺をみて料金を受け取って帰っていった。
俺は両親を亡くした菜月くんになんと言った? 君は一人でも大丈夫? 春樹は守ってあげたいだと?
「はっ、ふざけてるな」
俺みたいなやつが守ってやりたいなどと人に思うことがおこがましかったんだ。
俺は春樹が好きだからと、結婚しているのに悪あがきして、菜月くんのことを1つも分かろうとしなかった。
こんな俺のことなんてもう好きじゃないだろうな。
むしろ嫌われているかもしれない。
いや、そもそも俺は菜月くんに嫌われて別れようとしていたんだ。
これでいいんだ。
これでいい……。
菜月くんが。
菜月くんが、俺を好きじゃない……?
嫌だ。
そんなのは嫌だ。
身勝手だとわかっている。
だが俺は菜月くんに捨てられたくない。
その日は、仕事が早く終わって早めに家に帰れた。
もしかしたら久しぶりに菜月くんに会えるかもしれない。
自分から拒絶したくせに、俺の心は掌を返したように菜月くんを求めている。
玄関の扉を開けると鼻の奥にガツンと突き抜けるように俺の理性を刺激する匂いが走った。
「っ、はぁ、なんだこれ」
俺は俺は意識を保つのがやっとという思いで匂いが強い方に進んだ。
キッチンの奥の廊下を進むと扉がありそれを開けると下へと伸びる階段があった。
俺はフラフラとその階段を降りた。
階段を降りて3歩ほど歩いた先にあるドアまでたどり着きガチャリと開いた。
ドクリ
心臓が脈打つのがわかった。
簡易的なベットがありそこにぐちゃぐちゃになった俺のシャツが置かれていた。
菜月が何か俺に言っている。でも何を言っているのかわからない。
抱きたい。
抱きたい。
逃げようとした菜月くんの腕を掴んで止めた。
菜月くんの服を力任せに引きちぎりその肌を見た瞬間、完全に俺の理性が吹き飛んだ。
「……誰と……なってるんです」
菜月が何かを言っている。
だが俺の頭はそれを受け付けない。
「っあぁぁあああ!!」
俺のそれを菜月に突き刺した。
ああ、気持ちいい。
菜月。菜月。絶対に離さない。
その時、俺の耳に菜月の言葉が届いた。
「僕は、違うんぁぁああ、春樹くんじゃ、ないっ」
春樹……?
目の前が真っ白になった。
知っていたのか。俺が誰と付き合っていたのかを。
名前を知っているということは、両親が助けた男の子だと知っているのだろう。
「お前、知っていたのか」
「はい」
「なにがあったかは、お聞きしませんが、僕に当たるのはやめてください。αのあなたと違って、僕はつがってしまえば悲惨だ」
悲惨。俺と番うのが悲惨。
嫌だ。
俺は……俺は菜月と離れたくない。
「何が悲惨なんだ。俺と番うのが悲惨か」
「違う……違います。僕は、んあぁぁlあ、んぁ、やめてくださ」
俺は菜月のその後の言葉を聞きたくなくて理性を手放した。
菜月が運命の番なのだろうと気がついたのは菜月が気を失った後、冷静になった時だった。
だが俺は運命の番だから菜月を好きになったんじゃない。
知る前から俺は菜月を好きになり始めてた。
俺は菜月の体を綺麗にした後、菜月が俺から離れてしまわないように菜月を抱え込んで眠りについた。
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