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迅英サイド①
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菜月くんと出会う前から俺は菜月くんのことを知っていた。
正直にいうと以上なほど甘ったるい匂いを放つ彼のことを苦手に思っていた。
その頃から俺は春樹と付き合っていて普通のΩのようにか弱すぎない春樹のことが好きで結婚もしたいと思っていた。
だが菜月くんがβに囲まれていじめられているのを庇ったことで菜月くんから好意の目を向けられるようになった。
俺には春樹がいる。
菜月くんには悪いが彼の気持ちには答えられない。
そう思っていたのに、菜月くんの従姉妹に当たる人が俺との結婚を打診してきた。
俺の父親とその人は古くから馴染みがあり、いろいろと世話になったらしい。
父親は断りづらいと言っていた。
始めはあまり乗り気ではなかった父親が、俺と菜月くんが知り合いだったとわかると掌を返したように良かったなと笑った。
俺は春樹が好きだ。
菜月くんと結婚したら春樹だけじゃなく菜月くんのことも悲しませることになるだろう。
菜月くんが俺のことを嫌いになればいい。そう思った。
だからあんなことを言ってしまった。
見合いの席から父と彼の祖父が去って俺は彼に向き合った。
「さっきのは俺の父でね。父は君のおばさんと仲がいいらしくて、この結婚を断りづらいみたいなんだ」
「……そう、なんですか」
菜月くんは悲しそうな顔をした。
俺は続けた。
「分からないか? 君からおばさんにこの結婚を反対して欲しいんだが」
「え」
「君のおばさんが君との結婚をゴリ押してきてるんだよ。俺には好きな子がいるのに」
「おばさん……? 祖父ではなくて……?」
「ああ。そうだよ」
「……分かりました。おばさんを説得してみます」
菜月くんは青ざめた顔で、けれどしっかりと返事をした。
「そうか。では送って行こう」
「いえ、自分で帰れますから」
菜月くんは震える声で、けれどきっぱりとそう言った。
「君に何かあっては大変だ。それこそ責任を取らされかねないからね」
Ωを夜に一人で帰らせるなど、危険極まりない行為は流石にできない。
これだけ冷たく話していれば菜月くんは俺を嫌いになっただろうか。
菜月くんを見下ろすと菜月くんはまた悲しそうな顔をした。
俺は俺で父親の説得を試みたが、なぜだか俄然乗り気になった様子で一向に取り合ってもらえなかった。
それからしばらくして菜月くんと落ち合った。
「橘さん、おばさんを説得することができなくてすみませんでした」
菜月くんが謝ることはない。俺も失敗してしまったのだから。
だから次の手を打つことにした。
「いや、俺も説得することはできなかったんだ。仕方ない。だが、お願いがあるんだ」
「お願い……ですか?」
「ああ。俺は好きな子がいると言っただろ? その子と結婚後も付き合っていたいんだ」
「え」
「そして、番にはならないでおこう。そうした方が別れる時お互いに楽だろう?」
菜月くんはショックを受けた表情になった。
呆然と何か考えている。
正直、そこまでショックを受けられるほど好かれているとは思っていなかった。
よくある上級生への憧れみたいな軽い気持ちだと思っていた。
だが、俺は春樹を守らないといけない。
春樹は他のΩと違ってか弱すぎないけれど、心に深い傷を負っている。
「俺の好きな子な。俺が他の人と結婚しても我慢すると言ってくれているんだ。3年間、海外で研修があるからそれまではって。あの子はΩで昔、暴漢に襲われたことがあってな。それを助けてくれた人たちを亡くしているんだ。その悲しみに暮れる彼を俺が守ってやらなければいけないと思っているんだ」
「暴漢に襲われた……? 助けた人が死んだ?」
菜月くんは戸惑った顔をした。
「ああ。菜月くんは俺が居なくても大丈夫だろう? 彼は守ってあげたくなるんだ」
「そう……ですか」
菜月くんには俺以外の人と幸せになってもらいたい。
この時は本気でそんなことを思っていた。
正直にいうと以上なほど甘ったるい匂いを放つ彼のことを苦手に思っていた。
その頃から俺は春樹と付き合っていて普通のΩのようにか弱すぎない春樹のことが好きで結婚もしたいと思っていた。
だが菜月くんがβに囲まれていじめられているのを庇ったことで菜月くんから好意の目を向けられるようになった。
俺には春樹がいる。
菜月くんには悪いが彼の気持ちには答えられない。
そう思っていたのに、菜月くんの従姉妹に当たる人が俺との結婚を打診してきた。
俺の父親とその人は古くから馴染みがあり、いろいろと世話になったらしい。
父親は断りづらいと言っていた。
始めはあまり乗り気ではなかった父親が、俺と菜月くんが知り合いだったとわかると掌を返したように良かったなと笑った。
俺は春樹が好きだ。
菜月くんと結婚したら春樹だけじゃなく菜月くんのことも悲しませることになるだろう。
菜月くんが俺のことを嫌いになればいい。そう思った。
だからあんなことを言ってしまった。
見合いの席から父と彼の祖父が去って俺は彼に向き合った。
「さっきのは俺の父でね。父は君のおばさんと仲がいいらしくて、この結婚を断りづらいみたいなんだ」
「……そう、なんですか」
菜月くんは悲しそうな顔をした。
俺は続けた。
「分からないか? 君からおばさんにこの結婚を反対して欲しいんだが」
「え」
「君のおばさんが君との結婚をゴリ押してきてるんだよ。俺には好きな子がいるのに」
「おばさん……? 祖父ではなくて……?」
「ああ。そうだよ」
「……分かりました。おばさんを説得してみます」
菜月くんは青ざめた顔で、けれどしっかりと返事をした。
「そうか。では送って行こう」
「いえ、自分で帰れますから」
菜月くんは震える声で、けれどきっぱりとそう言った。
「君に何かあっては大変だ。それこそ責任を取らされかねないからね」
Ωを夜に一人で帰らせるなど、危険極まりない行為は流石にできない。
これだけ冷たく話していれば菜月くんは俺を嫌いになっただろうか。
菜月くんを見下ろすと菜月くんはまた悲しそうな顔をした。
俺は俺で父親の説得を試みたが、なぜだか俄然乗り気になった様子で一向に取り合ってもらえなかった。
それからしばらくして菜月くんと落ち合った。
「橘さん、おばさんを説得することができなくてすみませんでした」
菜月くんが謝ることはない。俺も失敗してしまったのだから。
だから次の手を打つことにした。
「いや、俺も説得することはできなかったんだ。仕方ない。だが、お願いがあるんだ」
「お願い……ですか?」
「ああ。俺は好きな子がいると言っただろ? その子と結婚後も付き合っていたいんだ」
「え」
「そして、番にはならないでおこう。そうした方が別れる時お互いに楽だろう?」
菜月くんはショックを受けた表情になった。
呆然と何か考えている。
正直、そこまでショックを受けられるほど好かれているとは思っていなかった。
よくある上級生への憧れみたいな軽い気持ちだと思っていた。
だが、俺は春樹を守らないといけない。
春樹は他のΩと違ってか弱すぎないけれど、心に深い傷を負っている。
「俺の好きな子な。俺が他の人と結婚しても我慢すると言ってくれているんだ。3年間、海外で研修があるからそれまではって。あの子はΩで昔、暴漢に襲われたことがあってな。それを助けてくれた人たちを亡くしているんだ。その悲しみに暮れる彼を俺が守ってやらなければいけないと思っているんだ」
「暴漢に襲われた……? 助けた人が死んだ?」
菜月くんは戸惑った顔をした。
「ああ。菜月くんは俺が居なくても大丈夫だろう? 彼は守ってあげたくなるんだ」
「そう……ですか」
菜月くんには俺以外の人と幸せになってもらいたい。
この時は本気でそんなことを思っていた。
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