僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう

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番の遺伝子

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僕は病院の先生に迅英さんとの繋がりを断ち切る方法がないか相談してみることにした。
僕に薬を処方してくれた藤宮先生だ。
見た目はシベリアンハスキーを人間にしたような少し強面で大柄な感じなのにΩに対して真剣に向き合ってくれていつも温厚で優しい。
このシェルターの人たちの生活費の多くを負担してくれているのが藤宮先生らしい。
先生がお昼を食べているときに近づいていくと笑顔で応対してくれた。

「先生、相談があるんですが」
「菜月さん、なんでしょう」

先生はカレーを掬っていた手を一度止めて聞いてくれた。
白衣を着てるのにカレーだなんて大胆だ。

「以前お話ししたと思うのですが、僕には運命の番がいるんです」
「ああ。覚えていますよ。結婚されていたんですよね」
「はい。それで……僕は最近曲を作ったり歌ったりしているんですが、僕が歌わせてもらってるバーに時折、その相手が来るようになってしまって」
「そうか……、菜月さんはそれが嫌なんだね?」
「……はい。だって彼は僕が運命の番だって気がついたから僕に執着してるだけだって思うんです」
「それで、菜月くんはどうしたいの?」
「僕は……、彼と運命の番を……やめたい。そんな薬はないんでしょうか」
「そうですね……あるにはあるんですが、まだ色々とデータが足りていなくて完全に安全とは言い切れません。それに、彼が運命の番じゃなくても菜月さんがいいと言って諦めてくれない可能性だってあります」
「いえ、彼は……迅英さんはそんなこと言いません。迅英さんにとって僕は運命の番だから気になっているだけなんだと思います。運命さえなくなれば。」
「そうかな。私はそうは思わないな」

先生は少し悲しそうな顔をしてそう言った。
だけど、僕は本当に運命の番じゃなくなりさえすれば迅英さんは僕に興味がなくなると思った。

「先生、僕安全と言い切れなくてもいい。その薬を僕に使ってくださいませんか」

先生は僕の目をじっと見て、しばらくして諦めたように一つ息を吐いた。

「分かりました。では今日の診療時間が終わった頃、病院の方にきてください」
「ありがとうございます!」


藤宮先生に約束を取り付けて僕は診療時間後に意気揚々と病院に向かった。
向かったと言っても隣だからすぐついた。

「藤宮先生」
「ああ、菜月さん。どうぞ座ってください」

先生は僕を椅子に座らせて横の机に資料を何枚か置いた。

「まずは薬についての説明をしますね」
「はい」
「この薬は点滴で使用します。運命の番の仕組みは簡単に言えば遺伝子の相性がとっても良いということなんです。なので、遺伝子を変えてしまえばいい。そういう始まりで研究した薬です」
「はい」
「ですが人間の遺伝子を変えてしまうという研究は倫理的に賛否両論あります。なので作ってもあまりデータを取ることができません。この薬はマウス実験はしていますが、人間に対する研究結果があまりにも少ない。失敗に終われば、菜月さんが今後αの人と番になることが出来なくなる可能性もあります。そうなれば子供を望むことも出来なくなる可能性もあります」
「でも、成功してもしなくても今後の薬の研究に役立ちますか?」
「それはもちろんそうですが、大切なのは菜月さんの体ですよ。時間をかければ研究は進みます。菜月さんももう少し待ってみても良いのではないかと思うのですが」
「いえ……、僕はすぐに変わりたいんです」

先生はまたじっと僕の目を見た。

「分かりました。ではすぐには準備ができませんので明日の同じ時間にここにきてください」
「はい。お忙しい中お時間をとっていただいてありがとうございます。明日はよろしくお願いします」
「この資料を持っていってください。くどいようですが今夜もゆっくり考えてみて」

先生は資料を渡してくれてそう言った。





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