僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう

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おばさんからの呼び出し

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「何で愛されることを諦めてんの?」

久しぶりにおばさんに呼び出されて一言目に言われた。

「諦めてるって言うか、彼は春樹くんを愛してるのでそもそも僕がでしゃばったところで」
「あのさぁ、菜月。身を引くのがきれいなことだとでも思ってんの?」


おばさんの言葉には容赦がない。

「きれいなことって言うか、そもそも迅英さんと春樹くんの間を引き裂いたのは僕ですから」
「それで菜月は諦め切れるの? 春樹って子が日本に戻ってくるのはもうすぐなんだろ? 菜月は迅英と別れてそいつらの幸せを見てるだけでいいの?」
「僕は、迅英さんと別れたらどこか、ここじゃない場所で新しく人生を始めてみようと思っています。それに」

僕は広角が上がるのを抑えられずに少し笑うとおばさんは目を見開いた。

「何だい。今笑うとこがあったかい」
「いえ、ふふ。最近はなぜだか迅英さんが優しくなって。僕、もうすぐ別れることになるけど、最後に思い出ができて良かったなって思ってるんです」
「…………はぁ。何で優しくなったと思う?」
「少し乱暴に扱われたのでその罪滅ぼしでしょう。でも僕にとったらそれさえも嬉しい出来事でしたから、最近はいいこと尽くめです」

そう笑うとおばさんは頭を抱えて大きなため息をついた。

「薬の効果が切れたとは思わなかったのかい」
「そんなこと、きっとないです。期待なんてしないほうがいいんです。現に僕は好きだとも何とも言われてない」
「迅英と話し合ってみたらいいじゃないか」
「いえ。話し合うつもりはありません。今の迅英さんは以前までと違って僕を見る目が優しくなった。今の迅英さんは僕のことが嫌いじゃないと思うんです。でも、だからこそ、話し合いをして僕の本音を話したりして、万が一にでも嫌いに逆戻りになりたくない。また嫌われるくらいだったら、またあんな冷たい目を向けられるくらいだったら、僕は大人しく身をひきます。嫌われる前に僕から離れる」
「随分と拗れた考え方だね」
「何とでも言ってください。僕はこれでいいんです。これが僕の性分だから仕方ない。僕は身を引くのがきれいだと思ってるわけじゃなくて、ただただ自分が傷つきたくないだけなんです」
「そうかい」
「おばさんや家には迷惑をおかけしないと約束します。それでは失礼いたします」

おばさんは何も言わなかった。
ただ困った子を見る目で僕を見送った。

ここ最近は毎日一緒にご飯を食べていて今日の夕食も迅英さんに誘われていた。
迅英さんの帰宅時間に合わせて何品か準備して机に並べて待っていると程なくして迅英さんが帰ってきた。

「ただいま、菜月くん」
「おかえりなさい、迅英さん」

微笑む迅英さんをみるこの瞬間が好きだ。
だって何だか新婚さんみたいだと思った。

「今日の夕食は何かな」
「今日はほうれん草のお浸しとなめこのお味噌汁と竹の子の金平と肉じゃがです」
「どれも好きなメニューだ。いつもありがとう」
「いえ。食事代も出していただいていますのでこれくらいは」
「……そうか」

迅英さんは美味しい美味しいと言って食べてくれるので、最近は作るのが前よりも楽しい。
夕食を食べ終わってお風呂を勧めるといつも菜月が先に入っておいでと言われる。

でも僕が先に入っていると必ず後から乱入してくるようになった。

「迅英さん、そんなに待ち切れないなら迅英さんが先に入ってくれればいいんですよ」
「それじゃダメだ。俺は菜月をくまなく洗ってあげたいんだよ」
「自分の体くらい自分で洗えますから大丈夫です」

この会話ももう何度したか分からない。

僕は何だかんだと言いくるめられていつも全身を丁寧に洗われる。

「気持ちいいか?」
「……気持ちいいです」

気持ちいいけど、こんなことを覚えさせられたら困る。
愛されてると勘違いしそうになるし、この日々が続くかもしれないと期待を抱きそうになる。
だから僕はいつもギリギリまで拒否していた。

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